数々の映画やドラマに出演している女優の松本穂香さん。大の映画好きでもあるという松本さんが、実際に起きた凄惨な事件を基づくクライムスリラー『マルドロール/腐敗』について語ります。
1996年にベルギーで起こった少女拉致監禁殺人事件
今回、わたしがご紹介させていただく映画は『マルドロール/腐敗』です。本作品の舞台は90年代のベルギー。実際に1996年にベルギーで起こった、少女拉致監禁・殺人事件「マルク・デュトルー事件」を基につくられたフィクション。
この「マルク・デュトルー事件」とは、少なくとも6人の少女を誘拐し、地下壕に閉じ込めて強姦、そのうち2人は救出され、ほか2人は餓死。残りの2人は生き埋めによる殺害という、極めて悪質な事件でした。
それだけでなく、この事件には数々の疑惑があり、警察関係者や富裕層向けの小児性愛ネットワークの存在が疑われていました。
血の通った者がすることとは思えない所業
そういう噂がある、ということは私も軽く都市伝説程度で聞いたことがありましたが、こうも疑惑だらけの事件が実際にあったとなると、その存在を疑わざるを得ません。
それを踏まえた上でこの映画が作られた意味を考えると、どうしようもなく涙が止まりませんでした。
この世界は未熟で、血の通った者がすることとは思えない所業を平気で犯す腐った人間がいて、しかもそういった奴らは、表では善人のような顔をして、人の上に立っているのかもしれないと思うと、深く深く気持ちが落ちて、整理のつかないところまで感情が沈んでいくのを感じます。
確実にヒーローであり、同時にどこまでも報われない存在
この映画のなかで、主人公のポールは、延々と泥のような感情に飲み込まれ続けていたのかと思うと、たった一人で戦い続けた彼の行動は、私の目には正しいものに映りました。
正義感や後悔に取り憑かれた彼は、周りから非難され、孤独に追いやられてしまったけれど、彼だけは、どれだけ見るに堪えない現実が目の前にあったとしても、目を逸らさずに追い続けた。この映画のなかで、確実にヒーローであり、同時にどこまでも報われない存在でした。
私たちはいま一度、ひとりひとりがこの現実から目を逸らさず、向き合う必要があるのではないかと、改めて考えさせてくれる映画でした。ぜひたくさんの方にご覧いただきたいです。
●『マルドロール/腐敗』
配給/アンプラグド新宿武蔵野館ほか全国順次公開中©FRAKAS PRODUCTIONS - THE JOKERS FILMS – ONE EYED – RTBF – FRANCE 2 – 2024
<文/松本穂香>
【松本穂香】
1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年『風に立つライオン』で長編映画デビュー。2017年連続テレビ小説『ひよっこ』に出演して注目を集め、2018年にはTBS日曜劇場『この世界の片隅に』で主演に抜擢。2023年、映画『“それ”がいる森』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2024年10月期月9ドラマ『嘘解きレトリック』では鈴鹿央士とともにW主演を務めた
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