今の巨人の先発投手陣に目を向けると、どうも踏ん張りの利かない投手が増えてしまったように感じてならない。先発陣でどうにか安心して見ていられるのは山﨑だけで、ほかは「投げてみなければわからない」面々ばかりだ。
問題の根源には、MLBが提唱する「100球の球数制限」にあるのではないか。これのせいで弱々しい投手ばかりになってしまったと思われる。
そもそも先発投手が「100球」で降板すべきという根拠はなんだろうか?実は野球解説者も明確に説明しない。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。
100球に到達するから何なんですか?
「球数制限が故障者を減らしている」という意見もある。ならば、MLBで毎年のようにトミー・ジョン手術を受ける投手が存在するのは、なぜなのだろう。不思議で仕方がない。
私がラジオの解説を務めた際、あるアナウンサーに、「さあ100球を超えました。江本さんはどう見ていますか?」
という質問された。こうしたときは、だいたい次のように返す。
「100球を超えると、何かすごいことが起きるんですか?」
するとアナウンサーは、
「そろそろ限界なんじゃないかと思うのですが……」
と返してくるのだが、私は間髪を入れずに、
「100球でへばるようなピッチャーは、先発の役割なんか果たせませんよ」
こう断言するようにしているが、少しも間違っているとは思っていない。
新庄監督が日本ハムを躍進させた背景として考えられること
そもそも投手というのは、投げ込みや走り込みをこなし続けてこそスタミナがついてくる。「江本の発想は古い」と反論されそうだが、巨人に限らず12球団の先発投手を見渡してほしい。継投をよしとしているチームほど、下位に低迷している。先述したようにヤクルト、ロッテの順位を見れば一目瞭然だ。
反対に、この2年の間で躍進した日本ハムを見てほしい。伊藤大海、北山亘基、加藤貴之ら、先発投手の完投能力が上がっていくにつれ、チーム成績も向上していった。日本ハムは2019年から3年連続で5位、新庄剛志監督になってからは2年続けて最下位と低迷していた。だが、2024年、25年はチームをAクラスに躍進させ、優勝争いを演じるまでのチームに変貌を遂げた。
その要因として、先発投手の充実が挙げられる。長いイニングを任されることによって、後ろを投げる投手の負担を減らし、チームにいい流れをもたらしている事実は見逃せない。
「5回100球」は取るに足らないノルマ
だからこそ巨人、とりわけ阿部監督には、「強靭な馬力を持った先発投手を育ててほしい」と言いたい。
5回、6回を投げ終えたら、判を押したように中継ぎの投手を投入……。毎度そうするのではなく、状況によって先発を長めに投げさせることも大切ではないだろうか。
とくに左腕の井上と横川凱を育てるべきだし、彼らが育つことにより、先発投手陣のレベルが引き上げられていくと私は考えている。「5回100球」という、取るに足らないノルマなど設定せずに、「完投できる投手作り」に腐心してほしい。
<談/江本孟紀>
【江本孟紀】
1947年高知県生まれ。高知商業高校、法政大学、熊谷組(社会人野球)を経て、71年東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)入団。その年、南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)移籍、76年阪神タイガースに移籍し、81年現役引退。プロ通算成績は113勝126敗19セーブ。防御率3.52、開幕投手6回、オールスター選出5回、ボーク日本記録。92年参議院議員初当選。2001年1月参議院初代内閣委員長就任。2期12年務め、04年参議院議員離職。現在はサンケイスポーツ、フジテレビ、ニッポン放送を中心にプロ野球解説者として活動。2017年秋の叙勲で旭日中綬章受章。アメリカ独立リーグ初の日本人チーム・サムライベアーズ副コミッショナー・総監督、クラブチーム・京都ファイアーバーズを立ち上げ総監督、タイ王国ナショナルベースボールチーム総監督として北京五輪アジア予選出場など球界の底辺拡大・発展に努めてきた。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える。
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