2025年11月から2026年3月までの5カ月間、韓国の名匠ホン・サンス監督のデビュー30周年を記念し、新作5本を5カ月連続で公開する「月刊ホン・サンス」。この度、第3弾となる「水の中で」のキービジュアル、予告編、場面写真がお披露目された。
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【フォトギャラリー】“全編ピンボケ映画”「水の中で」場面写真
夏の終わりの済州島、自主映画を撮るために集まった男女3人組を描く青春ドラマ。大学卒業後、俳優業に専念していた青年ソンモは、自主制作で短編映画を監督しようと決意する。かつての同級生ふたりを連れ、リゾート地として知られる済州島へ向かうが、思うようにシナリオは書けず、煩悶しながら海辺を散策していた。そんな折、ひとりの女性との出会いをきっかけに、語るべき物語を見出す。やがて、海辺での撮影が静かに始まる──。
ホン・サンス監督は、かつて「韓国のエリック・ロメール」と評されたように、長年小規模な製作体制をとり、男女がくりひろげる恋愛模様をユーモラスかつシニカルに描いてきた。しかし、2020年のヒット作「逃げた女」以降は、監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽すべてを自ら手がけ、より小規模で実験的なスタイルへと進化している。「水の中で」は、そのフィルモグラフィの中でも、とりわけ特異な一本だ。
第73回ベルリン国際映画祭では、上映前に「これからかかる映画は決して映写ミスではない」と事前アナウンスが入るほど、“全編ピンボケ”の映像表現が大きな話題に。出演者たちの顔の判別が難しいほど焦点の甘い映像が延々と続き、観客を大いに驚かせた。今回の日本で上映における映倫審査でも、「これは素材の不備ではなく、意図された映像なのか」と審査員を悩ませたという。
しかし、「印象派の絵画のよう」「その完成度はルーヴルに飾られる名画にも匹敵する」という評が示すように、輪郭を失い、いくつもの色が溶け合う済州島の風景は、実験的な手法と作品世界が見事に響き合い、これまでにない不思議な美しさを生み出している。本作はこの独創的な試みが高く評価され、カイエ・デュ・シネマ誌編集部の「2024年の映画ベスト10」にて「関心領域」「私たちが光と想うすべて」を抑えて第3位に選出されるなど、ホン・サンスの新境地を示す一本として称賛を集めた。また、特殊な手法に注目が集まりがちだが、映画づくりを志す青年たちの友情を描いた、瑞々しい青春映画としての魅力も備えている。
キービジュアルは、海に向かっていくソンモの後ろ姿を捉えたもの。「ぼやけたままでいい」というコピーが示すとおり、迷いや葛藤を抱えながらも前に進もうとする青年の姿を静かに肯定するような、余韻を湛えたビジュアルとなっている。あわせて公開された場面写真では、主人公の青年ソンモ(シン・ソクホ)、大学時代の友人で今は映画製作会社で働くサングク(ハ・ソングク)と、後輩のナミ(キム・スンユン)の姿が切り取られる。“全編ピンボケ”でありながらも、実際にはショットによってフォーカスの度合いが異なり、登場人物の表情がかわるカットもあれば、完全にぼやけたカットもある。その微妙な差異を味わうのもまた、この映画の醍醐味となっている。
「水の中で」は、1月10日から、ユーロスペースほかにて全国順次公開。12月13日からは、第2弾としてキム・ミニ主演作「小川のほとりで」と、別冊ホン・サンスとしてヒット作「逃げた女」が上映される。劇場でしか味わえないホン・サンスの世界を、ぜひ体験してほしい。
【作品情報】
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水の中で
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