映画で主演を務めた車の価値は、天井知らずになることがある。だが、時代は変わりつつあるようだ。『ハガティー・プライスガイド』編集者で、市場評論家、コンクール審査員を務めるジョン・メイヘッドが考察する。
【画像】約1.8億円で落札された、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』搭乗車のマツダRX-7
2025年7月初頭、私はグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのボナムスのオークションで、オレンジと黒の1992年マツダRX-7がステージに現れるのを見守っていた。最終的な落札額は91万1000ポンド(約1.8億円)で、同モデルのトップコンディションの1台にハガティーが付ける時価と比べると20倍を超える高値だった。
このRX-7が別格だった理由は、名高い日本のカスタマー、ヴェイルサイドによるボディキットでも、千葉県富里市のモータースポーツ向けチューナー、RE雨宮によるエンジンでもない。理由は、2006年の映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』に出演したからだ。
RX-7は事前の推定落札額35万ポンドをはるかに超えたが、こうした著名な車両の価格を追跡しているハガティー・パワーリストによれば、新記録ではない。最高記録は今も『ブリット』のマスタングで、374万ドルという落札額は、同じようにコンディションが”可”で(これでも手ぬるい評価だ)ハイランドグリーンの”標準的”な1968年マスタングの価格と比べると、1万6000%に迫る。ハガティーは『ワイルド・スピード』シリーズに関連する車を12台追跡しているが、いずれも上位には食い込んでいない。少数のワンオフを除けば、『トランザム7000』、ボンドシリーズ、バットマンシリーズのほうが、価値の上昇率で上回っている。
このRX-7には、ほかにも有利な条件があった。現在、コレクタブルカーで重視されているポイントをほぼすべて備えていたのだ。まず、このところ需要が高まっているカスタム車だ。また、パフォーマンスカーのモダンクラシックでもあり、これはX世代が子ども時代の憧れの車を買うようになって、今も価値が上がり続けている。さらに、公道走行ができる登録済みで、すぐに使えてどんなイベントにも参加できる。その上、JDMで、どうやらアメリカ市場は、このジャンルのスターを手に入れるためならいくらでも払うようだ。
また、8月にRMサザビーズの8月にモントレー2025で出品された1996年日産スカイラインGT-R NISMO 400Rは99万5000ドルで落札された。これは、おそらくスカイラインの中で最も収集価値の高いモデルとはいえ、途方もない金額であり、RX-7が高値を付けた事情を物語っている。
日産スカイラインGT-Rも『ワイルド・スピード』シリーズとの関係が深い。同シリーズの劇中車の史上最高値は、2023年5月にボナムスのオークションで飛び出した。ベイサイドブルーの34GT-Rは、第4作『ワイルド・スピードMAX』で主演のポール・ウォーカーがドライブした1台で、137万ドルだった。人はストーリーを持つ車に惹かれる。そのストーリーが映画館で見られる大ヒット作で、その気になれば真似できるドライバーが主人公なのだから、いうことなしだ。
ただし、映画の影響力は薄れつつあるのかもしれない。映画やテレビで使われた車の落札額トップ10を見ると、過去2年でランクインしたのは1台のみ。2023年8月に165万5000ドルで落札された、1989年ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリーで、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に登場した。これは破壊された車ではないから、映画出演がなくても50万ドル近い価値があった。大金を使う年齢層は、ジェームズ・ボンドの最初のDB5を覚えているベビーブーマーや、部屋に車のポスターを貼っていたX世代から、今やミレニアル世代へと移りつつある。日産スカイラインGT-R NISMOは、ゲームの「グランツーリスモ」第1作にも登場していたから、より若い世代と文化的なつながりがある。ここから市場がどのような変化を見せるのか、興味深いところだ。
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