今週末はダートG1のチャンピオンズCが中京競馬場で行われる。今年は例年に比べて有力馬の顔ぶれがやや異質なものとなりそうだ。
3歳世代のレベルの高さが際立つ顔ぶれに
チャンピオンズCといえば、歴戦の古馬が人気を背負うことが多い。過去10年で1番人気に支持された馬の年齢を見ても、3歳馬1頭、4歳馬2頭、5歳馬4頭、そして6歳馬が3頭と古馬が優勢。芝に比べると活躍期間が長いとされるダート競走においては、経験が非常に重要な要素となるからだ。
ところが今年の出走メンバー16頭を見渡すと、3歳馬のナルカミとルクソールカフェが1番人気を争うことになりそう。さらにその2頭に加えて、4歳牝馬ダブルハートボンドの3頭が上位人気を形成する異質な構図が予想される。これが大波乱の引き金となるかもしれない。
そもそも今年の3歳世代は、近年屈指のハイレベル世代という評価を受けている。先月の天皇賞・秋でマスカレードボールとミュージアムマイルがワンツーフィニッシュしたほか、ジャパンCでマスカレードボールがカランダガンと歴史的な死闘を演じた。
ダート路線も同様で、ルクソールカフェが武蔵野Sで古馬を一蹴。相対的に今年の3歳世代のレベルの高さには疑いようがない。
ナルカミとルクソールカフェの2頭は厳しい?
ただ、重箱の隅をつつくような話だが、天皇賞・秋とジャパンCは3歳馬と古馬には2kgの斤量差があった。一方で、チャンピオンズCはその差が1kgに縮まる。
前身のジャパンCダート時代から本レースは11月下旬から12月上旬に開催されている。ただ開催時期の都合で、3歳馬と古馬の斤量差が1kgになる年と、2kgになる年が存在する。
これまで2kg差の年、つまり3歳馬に有利な年は、10回あったが、合計25頭が出走し4勝を挙げている。一方で、1kg差の年は13回あったにもかかわらず合計31頭が出走し1勝しか挙げられていない(2018年クリソベリル)。
今年は3歳馬にとって有利とはいえない斤量差が1kgの年。それだけに、ナルカミとルクソールカフェの2頭には斤量の恩恵が期待できないということになる。
3歳馬2頭が抱える“具体的なリスク”
3歳馬の2頭が抱える不安要素は斤量差以外にもある。ナルカミはここまで6戦5勝と底しれぬ強さを見せているが、唯一7着に敗戦した舞台が今回と同じ中京の1800mだった。
また、古馬との対戦は3走前のいわき特別(2勝クラス)のみで、年長世代の一線級とは今回が初顔合わせ。脚質的にも、これまで逃げて他を寄せ付けない競馬を見せているが、今回は6枠12番とやや外目の枠に入ってしまった。未経験のもまれた競馬になった時に思わぬ惨敗の可能性もあるだろう。
ナルカミ以上にタフな枠順に入ったのがルクソールカフェで、なんと大外16番枠に収まった。この枠ならもまれる心配はないが、コースの形状を考えれば、かなりの距離ロスを強いられそう。過去10年で8枠の馬は【1-0-0-18】。唯一の好走は2年前のレモンポップで、その時は大外からハナを奪うことで道中の距離ロスを消すことに成功した。
ルクソールカフェは先行と差しのどちらでも結果を残しており、アメリカの名手F. ジェルー騎手も大きな味方となるだろう。ただし、同騎手は今回が初来日。16番枠からひと工夫もふた工夫も必要となりそうだ。
牝馬ダブルハートボンドも苦戦必至?
また“3強”の一角を担うことになる、4歳牝馬のダブルハートボンドも苦戦は必至だろう。
同馬はこれまで7戦6勝、2着1回とその素質をいかんなく発揮している。近3走はいずれも牡馬との混合戦で、前走の「みやこS」はJRAレコードで押し切る強い内容だった。
ただし、JRAのダートG1は牝馬にとって鬼門。牡馬と対等に戦うことは容易なことではない。舞台が阪神1800mとなった2008年以降、牝馬の成績は【1-0-0-14】で、12番人気のサンビスタが2015年に金星を挙げたのが最初で最後だ。
そもそもJRAのダートG1を制した牝馬はサンビスタの1例だけで、フェブラリーSと合わせた牝馬の通算成績は【1-1-3-57】と振るわない。やはりダートG1は、牝馬を割り引いて考える必要があるだろう。
ただダブルハートボンドに勝機が生まれるとすれば、勝ちパターンにもなっている2番手をすんなり取れた時だろう。枠順は絶好の1枠2番をゲットし、さらに最内枠に逃げ候補のウィリアムバローズが収まった。
ナルカミやペプチドナイルなど他にも先行したい馬がいるが、枠の並びを考えれば、この馬が最もうまく立ち回ることになるだろう。
穴馬候補となる2頭の馬とは
それでもやはり、上位を形成する3強には少なくない不安要素が存在し、その評価は下げざるを得ない。そこで、波乱の目も十分あると見て、穴候補2頭の名前を挙げておく。
1頭目は、落馬負傷した浜中俊騎手に代わって武豊騎手が代打騎乗を果たす
メイショウハリオ
だ。G1・4勝の実績はこのメンバーでも最上位。すでにピークは過ぎている8歳馬だが、今年は4月の川崎記念を制覇し、前走のJBCクラシックでも2着に好走している。
何より鞍上の武騎手の存在が心強い。武騎手はここ数年のG1において、テン乗りでしっかり結果を出しているからだ。今年はNHKマイルCで3番人気のマジックサンズを4角ほぼ最後方から2着に持ってきたほか、秋華賞は絶妙な逃げでエリカエクスプレスを2着に導いた。
他にも昨年の菊花賞で7番人気のアドマイヤテラを3着に、22年の大阪杯で同じく7番人気のアリーヴォを3着に持ってきている。いずれも勝負どころで早めに動いて馬の力を100%引き出すことに成功する好騎乗を見せてのものだった。
メイショウハリオは差しタイプの馬だが、枠順(2枠3番)を生かして、距離ロスなく末脚を温存したいところ。最後の直線で進路が開けば、ラストランを勝利で飾ってもおかしくない。武騎手は初コンタクトを取った最終追い切り後に、
「チャンスはある」
と色気たっぷりのコメントを残しているのも心強い。
絶好枠ウィリアムバローズに勝機は舞い込むか
穴候補の2頭目は、絶好枠を引いた
ウィリアムバローズ
の名前を挙げておく。こちらは枠順を生かした単騎の逃げが見込める。
過去10年の逃げ馬は【2-0-3-6】と高い確率で馬券に絡んでいて、2番手をうかがうダブルハートボンドとナルカミがお互いを牽制しあって仕掛けが遅れるような展開になれば、伏兵のウィリアムバローズがまんまと逃げ切るシーンがあっても不思議ではないだろう。
なにより、この馬はダート1800mで通算【6-4-1-1】というスペシャリスト。昨年9月の日本テレビ盃以来となるベスト距離で粘り込みに期待したい。ずばり、今年のチャンピオンズCは
メイショウハリオ
と
ウィリアムバローズ
で大勝負だ。
文/中川大河
【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。
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