ビンテージTシャツのポールの顔マネに挑戦
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「ビートルズの邦題 (Part3)」について語る。
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ビートルズの楽曲の邦題について、パート3。
雑すぎる『こいつ』(原題『This Boy』1963年。イギリス発表年。以下同)や、昭和の元気語で繊細な感情を粉砕する『悲しみはぶっとばせ』(原題『Youʼve Got to Hide Your Love Away』65年)など、名邦題と迷邦題が存在しますが、原題とは違う意味の日本語がついてる曲は意外と少ない。今なら邦題なんて不要、という意見が圧倒的だが、「邦題文化が全盛の頃だったんだから、この曲は日本語タイトルをつけても良かったのでは?」という曲もあります。今回は、そんな〝妄想邦題集〟を。
まずは、ビートルズ史上最も長いタイトル、『Everybodyʼs Got Something to Hide Except Me and My Monkey』(68年)。英語でもそうですが、これ、カタカナ表記にするとさらに意味が頭に入ってきません。文面どおりの意味は「みんな何かを隠しているけれど、俺と猿だけは違う」。直訳では意味過多すぎてクラッとするので、意訳するなら『秘密がないのは俺と猿』とか?ほっこりした感じなら『猿と僕』、実験的にいくなら『秘猿』なんかもありかと。でも昭和の邦題は、もっと曲を咀そ嚼しやくして、味つけして、謎の意志の強さで翻訳してましたよね。
そもそもこの「猿」は、オノ・ヨーコさんのこと。ジョン・レノンの背中にしがみついている猿(ヨーコ)を描いた風刺漫画を見たジョンが、腹いせに書いたんだとか。となると、この曲名の真意は「どいつもこいつも陰で俺とヨーコのことをコソコソ言いやがって」みたいな感じなので、私が邦題をつけるなら『僕たちラブラブ』ですね。ビートルズ邦題によくあるポジティブな飛躍っぷりを意識してみました。
『Being for the Benefit of Mr. Kite!』(67年)も邦題があってもいい気がします。このタイトル、いまだに意味がよくわからない。直訳すると「カイト氏のために開催中」とでもなるが、誰が誰のために、どんなイベントを開いているのか、謎が深い。これはシンプルに『ミスター・カイト』とか『ミスター・カイトのために』が無難でしょう。少し脚色するなら『ミスター・カイトの奇妙なサーカス!』とか、ピクサー感があってどうかしら。リンゴ・スターがナレーションで「ミスター・カイトはね、いつも空を見てたんだよ」って言ってそう。
『She Came in Through the Bathroom Window』(69年)は、直訳すると「彼女はバスルームの窓から入ってきた」。これは、原題のサスペンス感に、昭和歌謡の鉄板な表現を組み合わせて『恋のバスルーム侵入事件』で。『Got to Get You into My Life』(66年)は、直訳で「君を僕の人生に取り込みたい」だから、『恋の同どう棲せい計画』とかいかがかしら。ポール・マッカートニーは、「君」はドラッグのことだと言ってるけど、「恋」という言葉で目をそらしましょう。
以上、私の妄想邦題でした。実際にあるビートルズの邦題には、違和感より、愛を感じます。だって、世界中でビートルズを『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』(『A Hard Dayʼs Night』64年)で迎えた国なんて、日本だけなんだから。
まとめっぽくしましたが、続きます!次回はビートルズ関連の邦題、日本語以外のビートルズ翻訳について!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ビートルズの邦題のテーマで、まさかの4回連続に。公式Instagram【@sayaichikawa.official】
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