藤村志保、いしだあゆみ、和泉雅子、吉行和子が遺した美と魂――2025年に旅立った名優たちを振り返る

「女優は語る 藤村志保」/衛星劇場

藤村志保、いしだあゆみ、和泉雅子、吉行和子が遺した美と魂――2025年に旅立った名優たちを振り返る

12月5日(金) 10:01

「女優は語る 藤村志保」
【写真】吉行和子の“お母さん”っぷりが光る「家族はつらいよ」

2025年という年は、長きにわたって日本映画界を照らし続けてきた偉大な女優たちを見送った一年だった。しかし悲壮感はない。彼女たちがスクリーンに刻み込んだ情熱や感動は、肉体がなくなったとしても決して消えることはないからだ。昭和、平成、令和と時代を駆け抜け、最後まで現役として、あるいは一人の人間として美しく生きた彼女たち。その豊かな人生と輝かしいフィルモグラフィーを、感謝とともに振り返っていきたい。

■知性と品格――藤村志保

大映映画の清純派スターとしてデビューし、その気品ある佇まいで観客を魅了し続けた藤村志保。彼女の演技力が初期から完成されていたことは、代表作「破戒」を見れば明らかだ。

市川崑監督の緻密な映像美の中で彼女が演じた“お志保”は、薄幸でありながらも芯の強い、日本的な美の極致として評価されている。特に主人公に対する献身的な愛を控えめな視線や所作だけで表現しきった“静の演技”は、彼女の持つ透明感があってこそ成立したものだった。

彼女の人柄を語る上で欠かせないのが、旺盛な知的好奇心と社会活動への情熱。前述の「破戒」以外にも「太閤記」「眠狂四郎シリーズ」「怪談雪女郎」などの名作に出演を続けた藤村は、2011年に放送文化資源や資料の保存を目的として「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」に自身が出演した作品の台本576冊を寄贈した。

さらに女優として初めて放送番組向上委員会委員(現:放送倫理・番組向上機構[BPO])に就任してからは独自に臓器移植に関する取材を進め、著作「脳死をこえて」で第6回読売女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞を受賞する。自身も腎臓バンクに登録するなど、静かに、しかし芯を持って自らの道を切り拓く女性像を体現していた藤村。真のインテリジェンスを感じさせる女優だった。

■削ぎ落とされた孤独な美――いしだあゆみ

歌手として「ブルー・ライト・ヨコハマ」などのヒットを飛ばしながら、女優としても唯一無二の地位を築いたいしだあゆみ。彼女の真骨頂は、都会の乾いた空気感を体現できる稀有な存在感にあった。

1992年の「マンハッタン・キス」は、彼女の女優としての評価を不動のものにした一本。バブル崩壊後の東京を舞台に不倫関係にある男女の揺れ動く心情を描いた同作で、彼女は都会に生きる女性の“強がりと孤独”をリアリティたっぷりに演じる。決して湿っぽくならず、どこか突き放したようなクールな演技がかえって切なさを際立たせる…と多くの映画ファンを唸らせたタイトルだ。

私生活においても、彼女は徹底した“個”の確立者だった。派手な生活を避けて目立たないように過ごし、“コンビニのイートインで人間観察をするのが楽しい”と打ち明けていたいしだ。60歳を過ぎた頃からは鎌倉にあった一軒家から1LDKのマンションに住み替え、コーヒーカップや皿は1つずつにしぼり、タンスなどを処分し、服やアクセサリーも身内に渡すなどして処分したという。インタビューで「大は無駄を兼ねる」という言葉を残しているところからも、いわゆる“ミニマリスト”な生活を送っていたことがわかる。

必要最低限の物だけで暮らしていたというストイックなエピソードは、もちろん奇抜な人物像を演出する狙いなどではないはずだ。晩年に差し掛かったことで雑念を削ぎ落とし、自身の感性を研ぎ澄ませるための彼女なりの流儀だったのだろう。生き方そのものを鋭利なアートのように磨き上げた彼女は、孤高の美学を貫いた表現者として記憶されることだろう。

■北極点へ挑んだ太陽――和泉雅子

日活黄金期に“マコちゃん”の愛称で親しまれた和泉雅子は、銀座生まれのチャキチャキの江戸っ子らしい明るさで愛された。だがアイドル的な人気を博す一方で、彼女は本格的な演技派としての顔も持ちあわせていたのが和泉。その筆頭として挙げられるのが「終りなき生命を」で見せた演技だ。

吉田憲二監督が描いた同作は、半身不随となりながらも懸命に生き抜いた小神須美子の実話に基づく自伝的闘病記録を映画化したタイトル。圧倒的リアリティを背景にする同作に置いて、和泉の演技の特筆すべき点は生命力と純粋さを一途に表現したことにある。

須美子(和泉)は一家を支える快活な娘だったが、ある日「変形性脊髄症」という病によって絶望の底に叩き落されてしまう。だが人々の愛に触れ、ジェットコースターのように希望と絶望を繰り返すなかで須美子はある決意をする。“1人きりで生き抜こう”という強く清らかな決意だ。

幾度も襲い来る困難に屈しないヒロインの強靭な精神力を、清々しい演技で描き出した和泉。彼女のエネルギッシュで芯のある人間性が、懸命に生きる須美子役に強い説得力を与えた。

しかし彼女の人生における最大のハイライトは、やはり“冒険家”としての顔だろう。1989年、彼女は日本人女性として初めて北極点到達に成功するという快挙を成し遂げた。女性としては、世界でも2人目という大記録だ。

女優として稼いだ私財をなげうち、凍傷で顔に痕が残るリスクさえ厭わず、極寒の地をソリで進んだそのバイタリティ。スクリーンの中の可憐な姿と極地で見せた不屈の魂のギャップこそが、彼女が誰からも愛された理由だった。

■自由を愛したお母さん――吉行和子

若き頃から才能を発揮し、晩年は日本映画界を代表する“お母さん女優”として親しまれた吉行和子。性愛を大胆に扱った「愛の亡霊」など幅広い役柄をこなしてみせる女優だったが、なんといっても彼女の真骨頂として印象に残るのは山田洋次監督「東京家族」における母親・とみこ役だろう。

小津安二郎監督の名作をモチーフにした同作品で、彼女は橋爪功演じる頑固な夫を支えつつ、子どもたちを温かく包み込む母親を自然体で演じた。特筆すべきは息子が連れてきた恋人と接するシーンでの、慈愛に満ちた表情と間合いである。セリフ以上の優しさを醸し出すその演技は、まさに万人のなかにある母親像を想起させたに違いない。

劇団民藝出身の確かな演技力を持つ彼女だが、そのキャリアは決して順風満帆な優等生的なものではなかった。幼少期は喘息を患い、50年もの間苦しめられたというのは有名な話。そこから女優という体力勝負の世界へ飛び込むと、さらに活躍していた劇団を退団してアングラ演劇に挑戦した過去を持つ。地位を築きつつあった女優が送られてきた台本を見て「やりたい」という気持ち1つで、15年在籍した劇団を去る。これもまた、大女優に付きものといえるとんでもないバイタリティと言えるだろうか。

一見おっとりとした吉行の笑顔の裏には、病弱だった時期を乗り越える強さと、常識に縛られない自由を愛する心がある。自身のエッセイも「どこまで演れば気がすむの」など自身を大きく見せないチャーミングな精神も持ち合わせていた。

■忘れられない大女優たちの足跡を一挙放送

惜しまれつつ世を去った大女優たち。彼女たちが遺した数々の名作を振り返る大特集を、CS放送「衛星劇場」が12月から2026年1月にかけて放送する。藤村志保の「破戒」を12月19日(金)昼2時ほかから、藤村志保本人が出演作の裏側を語った特別インタビュー「女優は語る藤村志保」を12月11日(木)朝10時から、「怪談雪女郎」は12月6日(土)深夜0時15分ほかから放送。

さらにいしだあゆみの作品群「若い野ばら」(12月11日[木]朝10:55ほか)、「マンハッタン・キス」(12月18日[木]朝10:15ほか)、「闇の狩人」(12月25日[木]朝10:30ほか)、そして和泉雅子の作品群「鉄火場仁義」(12月8日[月]朝8:30ほか)、「終りなき生命を」(12月23日[火]朝8:30ほか)も取り揃える。

2026年1月には吉行和子の「東京家族」(1月8日[木]夜6:15ほか)、「家族はつらいよ」を1月1日(木)夜10時45分ほかから、「家族はつらいよ2」を1月1日(木)深夜0時45分ほかから、「妻よ薔薇のように家族はつらいよIII」を1月1日(木)深夜2時50分ほかからシリーズ一挙放送。吉行の快活な少女役が見られる「にあんちゃん」も1月20日(火)朝8時30分ほかからオンエアされるという。名作漬けの年末年始になりそうだ。

彼女たちの生き様という物語は、これからも私たちを勇気づけ、時に慰めてくれるだろう。スクリーンの中で彼女たちは、永遠に微笑み続けている。
「にあんちゃん」



【関連記事】
【写真】「東京家族」に残る偉大な女優・吉行和子の足跡
キム・ドンジュン&チェ・スジョン出演KBS演技大賞受賞作「高麗契丹戦争」12月より放送スタート
「霊験亀山鉾 亀山の仇討」「仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平内の場」を衛星劇場にてテレビ初放送<特選歌舞伎>
アイドル出身のブレイク俳優タン・ジェンツー、「猟罪図鑑」の“寡黙”なイメージから一転…弾けたお調子者キャラで新境地<四方館>
WEBザテレビジョン

エンタメ 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ