「高収入より“家事力”が大事」中学生までに性別関係なく自炊ができる子に…足立区が子の体験格差をなくす施策とは【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.43】

「高収入より“家事力”が大事」中学生までに性別関係なく自炊ができる子に…足立区が子の体験格差をなくす施策とは【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.43】

12月5日(金) 13:20

足立区の子どもたちが、家庭の事情に左右されずに「本物の経験」に触れられるように。近藤弥生区長は、食育から体験活動、若者支援まで、子どもの育ちを丸ごと支える取り組みを進めてきました。「味覚も、生活力も、心の土台も、小さな頃の習慣から育つんです」と語る近藤区長。給食費無償化や芸術鑑賞体験、銭湯無料化など、ちょっとユニークであたたかな政策の背景には、子どもたちの未来を思う温かなまなざしがありました。


お話を聞いたのは…
足立区近藤やよい区長

1959年4月生まれ。東京都足立区出身。青山学院大学大学院経済学博士前期課程修了。その後、警視庁警察官(1983年4月〜1989年1月)、税理士(1996年8月〜)、東京都議会議員(1997年7月〜2007年3月)を経て、足立区長就任(2007年6月20日就任、2023年6月20日から5期目)。趣味は寺社巡り、写経。座右の銘は「継続は力なり」。
>>足立区公式HP区長紹介ページ




―足立区では「学力」とともに、「体験」や「食育」などに力を入れられているように思いますが、それはなぜですか?
近藤区長: 学力もとても大切だと思っていますが、それ以上に、「経験・体験」の格差が大きい。習い事やお出掛けが、家庭の経済状況によって大きく変わってしまうのです。だからこそ行政として、すべての子どもが必要な経験に触れられるように整えていくことを大切にしています。「食育」ということで言えば、心身の健康ですね。特に食事は家庭の事情で栄養バランスが取りにくいケースもあります。そこで力を入れているのが「おいしい給食」事業。子どもにとって給食は1日の中でも大きな割合を占める食事なので、味覚づくりと健康づくりを学校でしっかりサポートしたいと考えています。夏休み明けに痩せてしまっている子がいる、という声を校長先生から聞くこともありますので。

―「味覚づくり」にも?
近藤区長: はい。出来合いのものばかり食べていると、どうしても味が濃いものをおいしいと感じて、体にいい天然だしだと、薄くてまずいと感じてしまうようなんです。一生を通じた健康のためにも、給食を通じて味覚を育てながら、家庭でも自分で作れるように、「レシピ本」の販売も行っています。

―子どもが自分で料理をするのですね。
近藤区長: はい。保育園の頃から「自分で作れる力」を育てています。男の子も 「お給料が高いかどうかより、家事ができるほうがよっぽど大事」と私は本気で思っています。

―男の子も小さい頃は料理に興味を持つのに、大人になるにつれて「男の仕事じゃない」と離れてしまいますよね…。
近藤区長: それを防ぐには、幼い頃からの習慣が大切なんです。足立区では「あだち 食のスタンダード」として、中学卒業までにご飯を炊く、味噌汁や目玉焼きが作れる――そんな生活力をつけて送り出すことを目標にしています。学校給食メニューコンクールでは男の子の応募が半分ほど。ハードルが着実に下がってきていると感じます。

―給食費無償化も、単なる経済支援ではなく、「食育」に力を入れていることの、一つの具体的な施策ということなのでしょうか。
近藤区長: 「中学校の給食費は各ご家庭で年間7万円以上かかります。そこで、その負担を区が肩代わりする代わりに、「その分のお金を、今まで我慢してきた習い事や家族でのお出掛け等の経験に回してほしい」という思いで無償化を決めました。

―「経験の格差」を埋めるための取り組みにはどんなものがありますか?
近藤区長: 小学校5年生全員に、劇団四季のミュージカルを鑑賞してもらっています。劇場に行き、空気を感じながら「本物」に触れてほしいからです。マナーも身に付けてもらいたいですし。また、夏休みは区内の銭湯も18歳以下は無料です。

―銭湯って、まちの銭湯ですか?
近藤区長: そうです。お風呂屋さん。だいぶ減っていますが、現在区内23か所と23区の中で4番目に多いんです。

―夏の間は、水道代の家庭支出を抑えることにもなりますね!
近藤区長: クラブ活動の帰りに寄るとか、受験のストレス解消に役立ってるとか、おじいちゃんおばあちゃんたちと一緒に行って、世代間を超えたコミュニケーションに役立っているとか、色々な声が届きます。銭湯に行ったことがないお子さんだと、体を拭いてから上がってくるとか、まずはお湯をかけてから湯船に入るとか、そういうことができていないので、周りの大人から教えられるそうですよ。もうちょっと優しく注意してほしいという区民の声が来ましたけど。とは言いながら、社会を知るきっかけですね。

―他にはどんなことがありますか?
近藤区長: ワークショップなど地域学習センターの体験講座も無料にしています。あとは生物園など入場料のかかる区内施設も夏休みは無料化。入口で「お金がなくて入れない」と悩んでいる子の話を聞き、全員が楽しめるようにしました。

―これだけ多くの支援を行うと予算も大変ではないですか。
近藤区長: 子どもの数は少なくなっており、人口に占める高齢者の割合が高いので、全体のバランスを見ています。また特別区には「特別区競馬組合の分配金」という財源があります。今年も来年も6億円ほどの見込みで、足立区は、それをすべて子どもの支援に充てていきます。返済不要の奨学金もその財源からです。医学部など高額な学部にも対応しています。借金が多いと結婚も遅れがちとの話も聞きますので。若者の未来のために、できるだけ負担を軽くしたいと思っています。

―今後はどのような支援を考えていますか。
近藤区長: 中学を卒業すると、都立や私立の高校に進学した子は支援の枠から外れてしまいます。そこを埋めるため、年間5万円の若者向け支援(クラブ活動継続や習い事に使える)を開始しました。将来、彼らが社会でしっかり自立できるまでをサポートしたい。生まれ育った足立区に住み続ける方も多いので、彼らを支えることは、未来の足立区を支えることにもつながります。

―近藤区長ご自身が「教育」を大切にされている背景には、ご両親の影響もありますか?
近藤区長: はい。父には小さい頃から、お金は残せないけれど「これからは女でも手に職をつけなければだめだ」と言われてきました。私は文学部に進みたかったのですが、「それでどうやって食べていくんだ」とよく言われましたね。母も、私たちを産んだ後に歯科衛生士の学校へ通い、資格を取っています。歯科医だった父が勧めたのだと思います。祖母も叔母も働いていた様子を見て育ったので、「女性が経済的に自立すること」は当たり前の価値観が自然と身に付いたのだと思います。資格でなくてもいい。自分で人生の選択肢を持てるようになることが何より大切だと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト細川珠生


政治ジャーナリスト細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。


(細川珠生)

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