今村翔吾氏の同名小説を原作とし、11月13日に配信開始されたNetflixシリーズ『イクサガミ』が、配信初週の国内ランキングで1位を獲得した。
明治初期を舞台に、廃刀令の施行によって武士としての地位や誇りを失った侍たちを描く本作。映画『侍タイムスリッパー』が大ヒットを記録した一方で、地上波のゴールデンタイムでは時代劇が放送されることがなく、“時代劇離れ”は顕著だ。そのため、本作のヒットは“異例”と言える。
しかし、これだけ人気を集めたことは不思議ではない。『イクサガミ』がヒットしたのは必然とも言える。その理由を語りたい。
292人の武士と殺し合う命がけのゲーム
本作は、かつて“人斬り刻舟”と呼ばれた剣豪・嵯峨愁二郎(岡田准一)が主人公。
ある日、「武芸に優れた者は天龍寺に集まれ、金10万円を与える」という怪文書を目にし、感染症・コロリ(コレラ)の流行で苦しい生活を強いられる家族や村人を救うため、京都へ向かう。
そして、参加者である武士292人と配布された木札を奪い合いながら東海道の7つの関所を通過し、東京を目指す命がけのゲーム“蠱毒”に参加する、という内容だ。
『イカゲーム』『カイジ』を想起させる理由
一言で言えば、本作は“デスゲーム作品”である。SNSでも指摘されている通り、同じくデスゲーム形式で世界的ヒットとなった『イカゲーム』(Netflix)と似た構造を持つ。“ヒットの法則”を踏襲した作品と言える。
実際、第1話で蠱毒の全貌を聞かされ、血相を変えて辞退しようとする侍たちが、主催者側の人間・槐(二宮和也)に仕える隊員たちによって容赦なく銃殺されるシーンは、『イカゲーム』の「だるまさんがころんだ」を彷彿とさせる。
さらにこの場面で、狼狽する侍たちに槐が「黙りなさい!」「私は参加の意志はすでに確認しましたよ?」と声を荒げる姿は、『賭博黙示録カイジ』(講談社)でエスポワール号内でデスゲームの主催者側の利根川幸雄が「Fuck You」「ぶち殺すぞ……ゴミめら……!」と言い放つシーンとも被る。
人気デスゲーム作品との類似性により、視聴者がストーリーを直感的に理解できた点も支持を集めた要因だろう。
映画レベルの迫力。アクションの完成度が桁違い
とはいえ、本作が『イカゲーム』の“パクリ”に陥っていないことも重要だ。作中では、時に山の中で、時に街の中で、繰り広げられる戦闘シーンは迫力十分。自宅のそれほど大きくないテレビで視聴していたが、映画館で観ているような没入感を覚えるほど、画の引力が強い。
また、どこか“ゲームっぽい”ところも戦闘シーンの魅力だ。1話で門から出るために、愁二郎が乱戦を潜り抜けようとする様には爽快感があり、人気ゲーム『無双シリーズ』が頭に浮かぶ。加えて、4話の茶屋内での戦闘シーンは、VRゴーグルをかけてプレイする対戦ゲームのような、「実際にその場にいる」と錯覚してしまうほどの映像体験を味わえた。
首が跳ねられたり、血が飛び散ったりなど、グロい描写は多い。それでも画面に引き込まれてしまうのは、「ゲームで見たことがある」という既視感と、「ゲーム内でしかできない動きを生身の人間が再現している」という真新しさが両立しているからだろう。こうしたフレッシュかつハイクオリティな戦闘が、『イクサガミ』を単なるデスゲーム作品ではなく、強いオリジナリティを持つ作品へと押し上げている。
岡田准一はアクションの“引き出し”が規格外
主役の岡田の存在感も当然無視できない。映画『ザ・ファブル』の出演をはじめ、アクション俳優として高い評価を集めているが、そのキャリアは本作でも遺憾なく発揮されている。槍や弓を持った侍や鉄砲を持った隊員と対峙するが、愁二郎の“獲物”は基本的に刀だ。対戦相手は違えど、同じ“プレイヤー”だとパターン化しやすい。
しかし、対戦相手によって前転して攻撃を回避したり、刀で弓を叩き落としたりなど、バリエーション豊かな戦い方を見せており、飽きることはない。加えて、かつての仲間・櫻(淵上泰史)と対戦する5話では、愁二郎は鎖鎌や槍といった多種多様な武器を使いながら応戦していた。戦闘シーンにおける引き出しの多さに驚かされる瞬間ばかりで、岡田が積み上げてきた経験値だからこそ成立しているシーンは少なくない。
戦いで乱れる“前髪の破壊力”に嫉妬
なにより、岡田の放つ色気が圧倒的だ。髭はいわば、不潔感を象徴するパーツであり、似合わないケースも多々あり、かなり人を選ぶ。しかし、岡田に似合わないわけがなく、不潔感も感じさせない。むしろワイルドさが増し、愁二郎に強キャラとしての説得力をもたらしている。
さらには、その髭からは「過去に参加した戊辰戦争で受けた心の傷」「コロリで娘を亡くした悲しみ」など、愁二郎が背負っているさまざまな葛藤が哀愁として伝わってくる。髭のないスマートな口まわりでは、愁二郎というキャラに奥行きは伝わりにくかったように思う。髭が色気をはじめ、いろいろな魅力を愁二郎に与えていた。
また、普段は“デコ出しヘアー”ではあるが、激しい戦闘の際には髪型が乱れる。その際、だらりと垂れた前髪が大きな瞳にかかり、素顔が完全にハッキリ見られなくなる瞬間も色っぽい。髪の隙間から覗く眼光は、鋭く、それでいて血生臭い。目にかかる前髪はその眼光を間近で見られるのだから、ついつい嫉妬心が芽生えてしまった。
今年45歳となり、渋みが本格的に溢れ出し、アクション俳優としての経験も積み重ねる中、「いまこそ全盛期なのでは?」と感じずにはいられない。そんな岡田が主演を務めているのだから、本作のヒットは必然だ。今後さらに大ヒットとなるか、期待が高まる。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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