長濱ねる×山口周『未来を照らすコトバ』刊行記念対談【後編】「人生を豊かにするキーワード」を巡る対話で生まれた変化と気づき

ラジオ番組のパーソナリティを務める長濱ねる(左)と山口周(右)

長濱ねる×山口周『未来を照らすコトバ』刊行記念対談【後編】「人生を豊かにするキーワード」を巡る対話で生まれた変化と気づき

12月3日(水) 17:00

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ラジオ番組のパーソナリティを務める長濱ねる(左)と山口周(右)

ラジオ番組のパーソナリティを務める長濱ねる(左)と山口周(右)





独立研究家・著作家の山口周と俳優の長濱ねるの共著『未来を照らすコトバビジネスと人生、さらには社会を変える51のキーワード』が10月2日に刊行された。本書は放送開始から4年を迎えたJ-WAVE(81.3FM)のラジオプログラム『NTT Group BIBLIOTHECA -THE WEEKEND LIBRARY-』を初めて書籍化したもの。「週末にオープンする図書館」をコンセプトに、図書館長役の山口と図書館司書役の長濱がビジネス、人生、さらには社会をより豊かにするキーワードと参考図書について語り合った一冊となっている。

前編に続き、後編では人生のロールモデルや自身の長所の見つけ方、そして本書を手に取ってもらいたい人について語り合ってもらった。

***

──お話を聞いていると、本書は長濱さんのような若い方に多くの学びを与えられるのではないかと感じます。お二人は20代のビジネスパーソンについて、どのような印象をお持ちですか?

山口 今の20代は、生き方がちょっと窮屈になっている印象があります。本来はもっと自由で、いろんな仮説を持っていいと思うのですが、勝ちパターンの幅を小さく捉えていて、そこから少しでも逸脱すると「自分はダメだ......」と肩を落としてしまう。要は"いい人生"のあり方に多様性がない気がします。RPGで例えるなら「強力な武器を揃えてから、ミッションをクリアする」みたいな、狭い範囲の考え方になってしまっている人が多いように感じます。

──いい人生の定義が、限定的になっているんですね。

山口 僕も20代の頃はそうでした。でも、良き人生にはいろんな定義があるわけで。先ほどお話ししたように「人は人、自分は自分」と思えるようになれば、もっと楽に生きられると思います。

長濱 周さんがおっしゃったように、私たち20代はちょっと窮屈だなと感じることがあります。逆に言うと、今の時代しか知らないので「窮屈でなかった時は、どんなだったのだろう?」と想像することしかできなくて。

──窮屈になっている、その原因は何なのでしょう?

長濱 やはり今は、SNSの情報社会がいい意味でも悪い意味でも、私たちに影響を及ぼしている気がします。いい意味で言うと、同じ趣味の人と繋がりやすかったり、自分の好きなことを発見しやすかったりする。悪い意味だと、SNSは「監視されている」と言いますか。常に互いを見ている感じがしていて。少しでも周囲の輪から外れた途端に「それは変だ!」となってしまう。私のような表立った仕事をしていなくても、そうなる可能性が高いと思います。

──つまり、目に見えない同調圧力が働いていると。



長濱 はい。それはとても生きづらいですし、どうしても「失敗しないように、間違えないように」という保守的な思考になってしまう。何か選ぶ時も「どれが成功だろう?」「どれが正解だろう?」と囚われている感覚があって、試しにくい世の中になっているように思います。

──確かに、周りからはみ出すことが、いけないことのように感じますよね。

山口 その風潮はありますね。

長濱 難しいですよね。私は自分自身を表現したり発信したりする仕事なので、世の中の流れを見ながら「何がヒットするだろう」「何が見ている人にハマるだろう」と考えないといけない時もあるんです。その一方で、今までにない新鮮なモノに挑戦した方がいいだろうな、とも思います。あとは、同世代の人と話すとロールモデルがいない人が多くて。まさに私もそうなんです。そこも世代間として共通しているのかな、と思います。

山口 憧れている人はいますか?

長濱 パッと思いつく人はいないですね。

山口 それはねるさんの世代に共通して、みんなが誰かに憧れを持ちにくくなっているのでしょうか?

長濱 そう思います。もちろん「こういう大人になりたいな」とか「この人のこういう部分が素敵だな」と思うことは、たくさんあります。でも「生き様を真似したい」と思うようなことはあまりなくて。雑誌などのインタビューで「ロールモデルはいますか?」と質問していただく機会がありますけど、20代の子と一緒に取材を受けていても、やはり「いないです」と答える人は多いです。

山口 それは面白い話ですね。でも言われてみれば、僕も20代の頃に「尊敬する人は?」と聞かれて「いないです」と答えていました。逆に「みんなはよくパッと言えるな。そんなに単純ではないと思うけど」と不思議に思っていましたね。ロールモデルを聞かれて、恥も外聞もなく答えられるようになったのは、割とここ最近かもしれないです。

──何かきっかけがあったのでしょうか?



山口 自分の責任や役割を認識できるようになったことが大きいです。そうでないと、ロールモデルを見つけられない気がします。「どんな役割を期待されているのか」「世の中にどんな貢献をしないといけないのか」に対して、若い頃は無限の可能性があるわけです。逆に、ロールモデルを選ぶということは、他の可能性を捨てることになります。



長濱 なるほど。

山口 僕の場合は「これから会社を作って、大きく成長させよう」みたいなことは、もうさすがに考えにくい。そうすると孫正義さんとか、イーロン・マスクのような大企業の方達は、今の自分のロールモデルにはならないとハッキリしているわけです。ある程度の年齢やキャリアを重ねたことで、自分と似たような領域にいる人達が把握できて「あの人は参考になるな」と思える。責任や役割が明確になっていないと、模範となる人を見つけるのは難しいでしょうね。

──自分がどこのレールにいるのかが分からないうちは、目指すべき人が見えないと。

山口 そうですね。一方で、人のコピーをやっても劣化物にしかならなくて。僕がよく言っているのは「新しい組み合わせを作ることが大事」ということです。それこそ今、ねるさんは新しい組み合わせを作ろうとされていると思います。「女優」「文筆」など、一つひとつの仕事で見れば先達はいますが、それをいくつか組み合わせた時に、唯一無二の存在になりうる。それはねるさんに限らず、誰もがその可能性を持っているのです。

僕のようにコンサルタントを通して、大学で教えたり企業にアドバイスをしている方は大勢います。また、ラジオのナビゲーターをやっている方もたくさんいます。でも、それらを組み合わせた時に競合がいなくなる。自分と同じレールの人がいるのかと言うと、現時点では思い浮かばないですし、仮にいたとしたら「戦略としてまずいな」という話になります。"ロールモデルがいる"こと自体が、実は危険かもしれないですね。

長濱 私も、自分ならではの新しい組み合わせができたらいいな、と思っていて。自分自身にしかできないことを見つけつつ、人から「そこがいいよ」と言われたことも素直に受け入れて、自分の良さとして伸ばしていきたい。

以前は、私の良さとか得意なことが、自分ではよく分かっていなくて。そんな時、周さんが「やっていて苦じゃないことが、ねるさんの得意なことですよ」と教えてくださいました。そのおかけで「本を読むことは全然苦じゃないな」「じゃあ、人よりも読書は得意かもしれない」と知ることができたんです。今、自身の魅力が分からずに悩んでいる方は、少し視点を変えるだけで、自分だけの長所や魅力を見つけやすくなるのかな、と思います。



──改めて、『未来を照らすコトバ』をどんな方に読んでほしいですか?



長濱 この本はいわゆるビジネス書ではなくて、豊かに生きるための一冊だと思っています。まずは、ビジネス書に馴染みがない方や、自身でビジネスをやられている方にも、ぜひ読んでいただきたいです。あとは、私と同世代の方にもおすすめしたいです。周さんの金言を読むことで、生きやすくなるヒントがたくさん見つけられると思います。

山口 例えば、本書で取り上げている経済学者のダイアン・コイルが書いた『GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史』や、ジェレミー・リフキンの『限界費用ゼロ社会 <モノのインターネット>と共有型経済の台頭』など、それらの本を専門知識がない状態で読もうとすると、とてもハードルが高いと思います。『未来を照らすコトバ』は、そういった領域の本に対して、楽しみながら理解を深められる。言うなれば"登山道の入り口"みたいに、本書を通して「社会学」「心理学」「経営学」に興味を持っていただくのがいいと思います。

──ちなみに、お二人は本で得た知識をどのように記憶されていますか?

長濱 私は記憶に残っていない知識や言葉は、「自分には響かなかったんだな」と思うようにしていて。逆に、本を読んで腑に落ちた内容は、不思議と頭に残っていますね。その時に必要な言葉──自分が理解できた言葉だけが、自然と残っている気がするので、あまり「無理に覚えておこう」とは思っていないです。

山口 いいですね。僕は一時期、本を読んで気になった内容をメモして、後で検索するなど小賢しいことをやっていましたが、結局はほとんど役に立たなかったです(笑)。ねるさんがおっしゃった通り、本の内容を覚えておくためには、風を感じるような自然体の感性が重要で。その時に自分が読まなければいけない本とか、ある状況で思い返さなければいけない本は、頭でっかちになっていると出会えなかったり思い返せなかったりする。大事なことは、風が抜けるように心を開いた状態にしておく。そうすると本の知識がきちんと記憶できるのではないかな、と思います。

長濱 あと、小説を読んですごく好きな文章に出会った時は、スマホで写真を撮ることがあります。

山口 それは僕もやります。あとで読み返して「面白いな」「楽しいな」となりますよね。

長濱 そういう意味では「これは覚えておかなきゃ」と無理はせず、気軽に読書を楽しみながら記憶しています。

山口 そうですね。本の読み方も、あまり窮屈に考えない方がいいと思います。僕は後ろのページから読むのも好きなんですよ。パッと開いたところから読む。そのページが面白かったら、どんどん遡っていく読書も楽しいですね。ぜひ『未来を照らすコトバ』も、軽やかな気持ちで読んでいただきたいです。

【番組情報】

放送局:J-WAVE(81.3FM)

番組名:NTT Group BIBLIOTHECA -THE WEEKEND LIBRARY-

放送日時:毎週土曜15:00~15:54

ナビゲーター:山口周・長濱ねる

番組サイト:https://www.j-wave.co.jp/original/bibliotheca/

番組X(旧Twitter):https://x.com/BIBLIOTHECA813

番組Instagram:https://www.instagram.com/bibliotheca813

取材・文/真貝聡撮影/佐々木里菜

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