今中慎二が語る2025年シーズンの中日野手編

（投手編：投手陣にゲキシーズンを戦いきるための体力や精神力、若手育成に必要なことにも言及した＞＞）

中日OBの今中慎二氏に聞く2025年シーズンの中日総括。その後編では、今季も得点力不足に悩んだ野手陣を振り返った。



今中氏は上林誠知を「一番頑張った」と評したが......。photo by Sankei Visual





【「積極的にいけ」＝「初球からいけ」ではない】――投手編では、立浪和義前監督時代からメンバーがほぼ変わらず、新しい戦力の台頭がなかったという話がありました。野手陣はいかがですか？

今中新外国人のジェイソン・ボスラーがある程度活躍したのと、ルーキーの石伊雄太がマスクをかぶる機会が多かった、というくらいですね。石伊は頑張っていたと思いますよ。いい場面で打ったり、バッティングでもある程度アピールできていたと思います。

――チーム打率や得点はリーグワーストでした。

今中メディアやわれわれのような人間がいろいろ言うこともあってプレッシャーを感じているのか......。例えば、無死二、三塁のような絶好機で打席に入るバッターたちが、通常のバッティングができていません。ノーサインなら普通に打てばいいんですけど、「なんとかしなければ」という気持ちが強すぎるのが手に取るように伝わってきます。



「三振はダメ」だと怖がるのではなく、「このピッチャーなら三振はしない」といった気持ちで打席に入れればいいんですけどね。チャンスの場面なのに、なんで自分たちがピンチを背負った感じになっているのかと。相手に読まれそうなタイミングでセーフティースクイズをしてしまったり。セーフティースクイズの場合はバッター任せですが、それならスクイズのサインを出して、失敗したらベンチの責任としたほうが点が取れるような気がします。

――今中さんは以前、昨季の打線について「意図を感じない打席が多い」と言っていましたが、あまり変化はなかったでしょうか。

今中打者が「積極的にいけ」＝「初球からいけ」だと思ってしまっているように感じます。そうではなく、狙い球が来たら打てばいいし、違うボールが来たら見逃せという話なのですが、ストライクゾーンにきたらだいたい打ちにいってしまう。「今のボール、本当に狙ってた？」というボールまで振っちゃうから凡打になってしまう。もったいないなと。

絶好機の場面で、ピッチャーがど真ん中に投げるわけがありません。きたとしても投げミスをした時だけで、普通に考えれば厳しいところから投げてきます。野手は投手ともっと会話をして、「こういう場面ではどう攻める？」など、投手心理を聞いておいたほうがいいですよ。そういうことをわかっていれば、もう少し余裕を持って打席に入れるはずです。

【相手投手をラクにしている】――打つべきではないボールを見逃すだけで有利になる？

今中ピンチの場面で投手が投げるのは、高めの速いボール球か、低めに落とす変化球が多い。そういったボールを振るか振らないかで、バッターの有利・不利がまったく変わってきます。

今の中日の野手陣は、そういうボールを振ってしまうんです。相手にストライク先行のカウントを作らせないようにすれば、バッターはゆとりができます。一方で阪神の各バッターは、低めのボールは振りません。見逃せるから投手は苦しくなり、ストライクゾーンにボールがくる。それを仕留めて打率を上げていますよね。

――打席に入る前の心構えの問題でしょうか。

今中そういうものがわかっていないならば、伝えてあげないといけません。ただ漠然と積極的に打って、「積極的にいきました」と言って片付けられる問題ではないです。「あのボールを狙っていました」とか、何かしらあるだろうと。

中日に限った話ではありませんが、どのチームのバッターも「積極的」と口にすることがやたらと多いんです。積極的にいって結果が出る時は、ポンポン点が入っている時。入らない時は相手がどんどん攻め込んでくるので、あっさり終わってしまうんです。

今の先発ピッチャーは、役割として６回くらいをまかされることが多い。それなのに、打者側が序盤から積極的にいってしまうと、相手の先発が５回で50球前後しか投げていないこともある。積極的にいってもいい場面や、選手によって積極的でもいいバッターもいます。でも、みんなが積極的にいったら、相手の先発はラクですよ。

――全員が積極的に打ちにいき、あっさり攻撃が終わってしまうケースが多かったですか？

今中そういうケースがかなり多いです。特に１、２年目の投手に抑えられる時って球数が少ないんですよね。６回くらいまでスイスイ投げられて、そのあとにリリーフに託されると、もう点が入らない。今の野球は、球数を投げさせれば早くマウンドを降りてくれる、ということも頭に入れないといけません。

苦手としている東克樹（DeNA）に対する場合などは、粘って粘って５回で100球を投げさせればいいんです。そうして、あとのピッチャーから点を取ればいい。打てないからといって、狙い球でもないストライクゾーンにきたボールを打って凡打を重ねれば、８回100球くらいのペースで投げられてしまいますよ。

【内野はポジションを与えずに競争を】――積極的にいってもいいバッターと、そうでないバッターの違いとは？

今中田中幹也などはよく粘りますし、自分の仕事をやっています。岡林勇希はあまり粘れませんが、打線の上位にいるこの２人が粘るだけで、どれだけ相手が嫌かということです。打つだけではなく粘る。そういう戦術に徹することもあっていいんじゃないかと思います。

――打線でポジティブだった部分を挙げるとすれば？

今中シーズン後半でよかったのは、打線が固定できたことじゃないですか。岡林、田中、上林誠知、細川成也、ボスラーと上位を固定できたことはプラス要素です。細川が歩かされた時に、ボスラーが好打した場面もありました。下位打線まで気の抜けない打線を作るの難しいので、上位打線でなんとか点を取ることですね。

なかでも上林は、打って走って、一番頑張りましたよね。来季も期待できるんじゃないですか。ただ、３番を任せるならフォアボールが50個以上は欲しいです。それよりも、問題はショートですよ。

――ショートは期待されていた村松開人選手が厳しかった印象です。

今中守備力がまだまだですし、バッティングもあの内容ではなかなか使えません。来季は誰がどこを守るのか。セカンドは田中がずっと出られればいいのですが、そうはいかないでしょう。

かといって、福永裕基のセカンドも少し厳しい。オフや来春のキャンプでしっかり守れるようになれればアリかもしれませんが。サードは高橋周平、石川昂弥らがいますが、石川の動きではサードは厳しいです。森駿太がどれだけ出てくるかというのもポイントになりそうですね。そう考えていくと、内野は固定できる選手が少ないので、バッティングを重視するのか守備を重視するのか、どちらかの選択になるでしょうね。

――やはり固定するのが理想でしょうか？

今中オープン戦の結果を見てからじゃないですかね。今季は競争になるかな、と見ていましたがそうならなかった。石川にこだわってポジションを与えていましたが、何もできませんでした。やはり競争をさせないと、チームの底上げにはなりません。特に内野は"どんぐりの背比べ"なので、ポジションを与える必要はないですよ。

外野は細川、上林、岡林がいて、そこに入っていける外野手がいるのかという状況。内野は大シャッフルでもいいですし、結果次第で決めるのがいいのかなと。「調子のいい選手しか使わない」くらいにすれば、みんな頑張るんじゃないかと思いますよ。

――来季からバンテリンドームに「ホームランウイング」が新設されますが、その影響についてどう考えますか？

今中それで得点力が上がるかといえば、それもまた疑問です。当然、相手のホームランも増えるわけですし、中日にとっていい影響があるかというと、微妙じゃないですかね。

球場が狭くなるので、ホームランを警戒してフォアボールが増えるでしょう。今の中日投手陣は「打たれたらどうしよう」と弱気になって勝負を避ける傾向があるので。警戒すればフォアボールは増えますが、「打たれてもいいや」と思えば減るんです。野手陣がある程度打って、バックアップしてあげることも必要ですね。

【プロフィール】

◆今中慎二（いまなか・しんじ）

1971年３月６日大阪府生まれ。左投左打。1988年のドラフト１位で、大阪桐蔭高校から中日ドラゴンズに入団。２年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多勝（17勝）、最多奪三振賞（247個）、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは４年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。

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