岩井俊二監督の長編映画デビュー作「Love Letter」(97)の4Kリマスター版と、竹中直人が主演と監督を務めた「東京日和」(97)デジタルリマスター版という中山美穂さんが主演した代表作2本のBlu-ray&DVDが、12月3日に発売される。これを記念して、岩井監督と竹中監督の史上初の対談が実現した。お互いの作品についての感想や、気になった点、そして中山さんとの思い出や、映画女優としての彼女の魅力について語り合った2人の対談をお届けする。
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【フォトギャラリー】初対談が実現した岩井俊二監督と竹中直人監督ならびに「LOVE LETTER」「東京日和」場面写真
◆お互いの映画について
――まずは、お互いの映画を観られた感想から聞かせてください。
●竹中直人(以下、竹中)
「Love Letter」は公開当時に観て、本当に感動しました。今日、岩井監督と初めて対談させていただくことになり、改めて観直してみて、もう1つ思い出したことがあります。当時、日本映画はほとんどビスタサイズで撮られていたけど、「Love Letter」はシネマスコープで撮っていた!と、30年前にも感動したことを思い出しました!
本当に素敵な映画で、中山美穂さんがあまりにも美しかったし、酒井美紀さんもとても素敵でした。「Love Letter」を観た後、酒井さんと何かのお仕事で一緒になって、「Love Letter」の美樹さん、すごく良かったです!と話したことも覚えています。ただ、「東京日和」に美穂ちゃんをキャスティングした時に「Love Letter」が良かったとは言えなかった気がします。あまりにも素晴らしい映画でしたから。。
――岩井監督からも「東京日和」についての感想をいただけますか?
●岩井俊二(以下、岩井)
本当に素晴らしい映画でした。美穂ちゃんを公私ともに知っている側からすると、彼女にとてもふさわしいキャスティングだったかと。あのヨーコの一風変わったところや、意表を突くところなど、美穂ちゃんに一番演じてほしい役柄でした。また、夫婦の純愛物語をあんなふうにのっぴきならないところまでを描き、純愛を貫くなんて。2人の関係性が非常にピュアなところまでたどり着いているところがすごいと思いました。最後は、柳川を2人で散歩するだけで、映画が進行していきますが、そういう境地にまでたどりつけるなんて非常に稀有なことです。夫婦の純愛ラブストーリーを実現した、奇跡のような映画だなと思いました。僕は大好きな映画です。
◆2人が気になったシーンの舞台裏とは?キャスティング秘話
――それぞれの作品で、気になったシーンがあれば教えてください
●竹中
「Love Letter」は本当に素晴らしい映画でした。映像設計が見事でしたね。図書館のシーンでの揺れるカーテンとか…。すべては岩井さんの映像世界にあるどこか忘れられない記憶の映像なのかもしれないのですが、それがまるで自分の記憶として捉えられるシーンがたくさんある映画でした。
本作を観たのはもう30年前ですが、ずっと残っているカットがたくさんあります。ロケーションの素晴らしさはもちろんですが、美しい風景と美穂ちゃんの佇まいが見事に融合しているんです。無駄なカットがいっさいない。本当にこれぞ映画だ、と深く感銘を受けました。その中で、敢えて上げるなら、氷の中のトンボのシーンです。それが何かを象徴しているようで、とても切なく感じました。
――酒井美紀さん演じる中学生時代の藤井樹が、父親の葬儀の後、道端で氷に入ったトンボを見つけるシーンですね。あのシーンの狙いや意図を、岩井監督からお聞きしたいです。
●岩井
そうですね。最近思い出したのですが、「スワロウテイル」(96)で、胸にアゲハ蝶の入れ墨を彫るシーンがあるんです。実は本作より先に台本があったのですが、そことリンクしているというセルフオマージュのようなものです。映画でも同じぐらいの時間帯で、ここで何をさせようかという時に、ああいうシーンを作りたいと思いました。
また、それとは別に、自分が高校時代ぐらいの時に書いたちょっとした短編みたいなのがあったのですが、その中にトンボが出てくるシーンがありまして。それは誰かが死んだ日に見たトンボというような設定でした。それで、あそこにトンボを置いてみようかなと思い、配置してみたというのが実際の話です。もちろん物語を整合性の中で挿入しないといけないので、そこを整えつつ入れていきました。
――それは、岩井監督のファンにはたまらないポイントですね。
●竹中
あとは、自転車置き場でのシーンも深く残っています。特に鈴木蘭々さんの存在がすてきでした。
――蘭々さん、確かにインパクトの大きいキャラクターでした。
●岩井
蘭々については、なんとなくご本人にもああいう印象があったと思いますが、蘭々に決まってからは、ほぼ当て書きみたいな感じになりました。蘭々とは以前、彼女の主演ドラマ「GHOST SOUP」を一緒にやっていて、本人のポテンシャルは痛いほど分かっていたので。いつも蘭々とやる時はこっちが振り付け師みたいになります。動きは2人でコラボして作っていくから、ここでこう振り返ってこうだよねとか、ツーカーで作れる楽しさがあります。
●竹中
劇中の蘭々さんは、ちょっとゆうれいぽい感じがして面白かったですね(笑)。僕はそういう変な人がとても好きです。自分が「無能の人」(91)という映画を撮った時、神戸浩という個性派俳優に出演してもらいましたが「Love Letter」にも出ていましたね!でもね、「あ、神戸の出番これだけ?!」って安心したりしてね。やっぱり僕自身も俳優をやっているので、俳優に嫉妬しちゃうんです。「岩井作品に出てんじゃん!」って。だから、日本映画を観るのがとっても怖いんです。役者がいい芝居をしていると、本当にドキドキしちゃうんです。僕は嫉妬心が強いから、「ちきしょー!」と思ったりすることもあります(笑)。
――では、岩井監督からも「東京日和」をご覧になって印象的だったシーンを教えてください。
●岩井
本当に素敵なシーンがたくさんありましたが、一番に思ったことは、ロケーション愛が強いということでした。きっとワンカット、ワンカットを、竹中さんが大好きな場所で撮っているんだろうなと。普通ならもう少し曖昧な、どこでもいいような画が出てくるはずなのに、本当に綺麗な写真集を見ていくみたいなすごいロケーションが続いていく点が素晴らしかったです。特に、柳川で美穂ちゃんが、お堀で船に座っているという幸福な時間が素晴らしいなと思いました。
◆映画女優としての中山美穂の魅力
――では、中山さんの映画女優としての一番の魅力についてもお二人にお聞きしたいです。
●竹中
美穂ちゃんは、何とも言えない危うさがあります。でもそれはご本人が発しているエネルギーなんだとも思います。美穂ちゃんご自身の魅力がスクリーンに反映される、反射するという感じかですね。だから撮る側もちょっと危なっかしい気持ちになりながら見守る感じです。「東京日和」の役がそうだったという訳ではなく、美穂ちゃん自身がどこ揺らいでいるような空気感があって、それがたまらないのです。安定を望まず揺らぐ美しさとでも言うのでしょうか…。35ミリフィルムの世界に合うようなイメージです。撮影初日からそう感じた印象があります。
だから、「ここで泣いてほしい」なんて、余計なこと言っちゃダメなんです。ぼくはあるシーンでそんな事を言ってしまった。最低な演出家だなと、深く後悔しました。それでも美穂ちゃんは、想像していた以上に応えてくれました。とてつもない魅力のある人です。当たり前のことですが、ただただ見つめているだけでそのシーンが持ってしまう。「はい、カット」と言いたくない。ずっと長回しでいいのです。彼女は映画女優です。とてつもなく深く淡いエネルギーを持っていらっしゃった。
――確かに映画女優という言葉がしっくり来ます。
そういえば、こんなこともありました。ある日、日活の撮影所でセット撮影をしていた時、ライティングの準備でかなり時間がかかってしまって。美穂ちゃんを3時間以上待たせてしまったんです。あまりに申し訳なくて美穂ちゃんの楽屋を訪ねたんです。「時間がかかってごめんね」って。すると美穂ちゃんが「全然大丈夫です。」と言ってくれて。でもね、美穂ちゃんの楽屋に… なんと!壁いっぱいにクリスチャン・スレーターの写真をたくさんコラージュしてあったんです。待っている時間に作業したんでしょうね。日活撮影所のひとつの楽屋は2週間くらい美穂ちゃん専用の楽屋でしたからね。ぼくはびっくりして、「うわ!クリスチャン・スレーターだ!」と言ったら「はい!大好きなんです!」ってすごくうれしそうにこたえてくれて。本当に可愛かったです。
「東京日和」では、美穂ちゃんの少女の部分と、すごく大人の部分…そして、さらに変わっていく何かにつながっていくようなギリギリのところにいたんじゃないでしょうか…分かりにくい表現でごめんなさい。でもそれが、柳川という場所に行ったとき、美穂ちゃんが圧倒的に違う空気を見せてくれたんです。極端に言ってしまえば脱皮したというか、また新たな中山美穂が現れたというのかな…それはぼくにとってすごい体験でした。監督を務めたときにしか観ることの出来ない表情の変化を僕は見ることができました。今は“女優”という言葉を使っちゃいけないんだけれど、やはり“映画女優”という言葉だけは活かしてほしいと思います。女優です。女優と言う言葉はとってもロマンチックです。
――岩井監督からも中山さんの魅力をいただけますか?
●岩井
「東京日和」を拝見した時、きっと本番中と、カットがかかった後の素の本人とのギャップが少なかったんじゃないのかなと勝手に思いました。美穂ちゃんって、本当にあそこに出てくるヨーコみたいな雰囲気の人だったので。ヨーコの奇行とはまた別の話ですが、雰囲気や竹中さん演じる旦那さんとの距離感、職場での居場所を見ても、ああ、美穂ちゃん本人も本当にこうだったよなと、自然に思えました。
日常的にも、本当に独特な雰囲気を持つ人で、人との距離感の取り方もああいうふうでした。芸能活動自体についても、おそらく本人の中でも噛み合っているような、噛み合ってないようなところがあり、どこかこうしっくりきてなかった面もあったのではないかと。でも逆に、そこがまた彼女の独自の魅力になっていたんです。
彼女は、すごくなりたくて芸能人になって「今すごく幸せです!」とは言い難いところにいた気がします。実際に、自己同一性みたいなところで逡巡されているようなところも、僕はお見かけしていました。女優や、タレント、歌手だったりする人生を目指す多くの人にとっての彼女は、ある種、人生の夢を手に入れた人だと思いますが、かなり早い段階でそこに行ってしまった彼女は、そのこと自体が人生となり、じゃあこれからどう生きたらいいんだろうということに直結していったんじゃないかなと、僕は思っていました。
なお、12月3日のBlu-ray&DVD発売当日に、竹中と音楽を担当した大貫妙子が登壇する「東京日和」トークショー付き特別上映会が
東京・池袋HUMAXシネマズで行われることが併せて発表された。詳細は劇場公式サイト(https://www.humax-cinema.co.jp/ikebukuro/news/124572/)で確認できる。
【作品情報】
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東京日和
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撮影:近藤誠司