(左から)埼玉県三郷市議・西尾秀貴氏(X―GUN)、千葉県南房総市議・林克治氏(ニューカリカ)、東京都西東京市議・長井秀和氏
高市早苗内閣が発足して、今、政治に注目が集まっている。その一方で「政治とカネ」問題で、政治家への不信感も募っている。そんな世界に飛び込んでいったお笑い芸人たちがいる。
彼らはなぜ、政治の道を選んだのか?そこはどんな場所だったのか?真剣に、少し笑いを交えながら語り尽くした!
【意外とマジメだった市議になった理由】
高市早苗政権の支持率は高く、多くの国民の支持を受けているようだが、一方で政治とカネの問題などで政治家に不信感を持っている人も多い。
「だったら、まだ庶民感覚のある芸人のほうが信頼できる」と彼らを当選させるケースも増えているのだろう。お笑い芸人が区議や市議になることも多くなった。そこで、彼らはなぜ政治家になったのか?どんな活動をしているのか?
長井秀和
氏(ながい・ひでかず/東京都西東京市議)、
林克治
氏(はやし・よしはる/千葉県南房総市議/ニューカリカ)、
西尾秀貴
氏(にしお・ひでたか/埼玉県三郷市議/X-GUN)の3人に集まってもらい〝芸人市議〟の本音を語ってもらった。
――まず、こういう形で集まっていただいた場合、気持ち的には「芸人」なのか、「市議」なのかどちらでしょうか?
西尾
僕は市議になってまだ3ヵ月ですし、どちらかというと芸人のほうが強いですね。8割以上、芸人です。
林
僕はこういう場でお話しさせていただく場合は、100%市議会議員です。議員を3年半ほどやらせていただいているんですが、調子に乗ったことを言ってると怒られるんですよ。どこで誰が見ているかわかりませんから。
――じゃあ、今回は面白いことは言えないですね。
林
そうですね。面白いことはあんまり言えませんが、興味深いことは言えますよ!
西尾
そっか。2、3年後は僕もそうなってるかも......。
長井
私も3年くらい市議をやっていますが、芸人的なことを求められるのはそんなにないんですよ。でも、市議になった当初から、いろいろな人の悪口を言ってます。特に創価学会の悪口はちょくちょく言っています。ですから、二刀流ということでしょうか。
西尾
二刀流の使い方が間違ってるよ。でも、長井君は芸人のときから悪口ばかり言ってましたからね。ペプシのイベントで「俺はコカ・コーラしか飲まない」とか。最悪ですよ。
長井
間違いない!
長井秀和氏
――皆さんは自己紹介するときなど、定番のパターンとかあるんですか?
長井
例えば、「前に芸人としてちょっとテレビに出てたことがあるので、私を知らなかったら『長井秀和』ってネットで検索してください。
するとフィリピンで美人局(つつもたせ)に遭ったとか、不倫していたとか、そういう臆測まがいのことが書いてあるんですが、全部、本当です!」と言います。するとたいてい笑ってくれます。
西尾
まあ鉄板ネタですよね。僕は「市議会議員でもあり、お笑い芸人でもあります」と言ってから「バッツ、グン!」という腕をクロスするポーズをします。まだやったことないですけど、イベントとかに呼ばれたら、それをやるでしょうね。
林
僕はおふたりに比べたら圧倒的に売れてなかったので、普通に自己紹介します。普段は地元の診療所の総務部長をやっているので、「〇〇診療所の総務部長の林です。あと市議もやっています」と後からそっと言います。
というのも、市議だとわかった瞬間に僕と話さなくなる人が割といるんですよ。僕と仲良くしているところを他人に見られたくないみたいなんです。
長井
それはあるね。
林
ふたりだけで会っているときは「頑張れよ!」とか言ってもらえるんですけど、大勢の人がいるイベントなどで会うとけっこう無視されます。
長井
その地区を地盤にしている長老議員がいるんですよ。そういう人の目を気にしているんでしょうね。ポッと出の私たちと話していると「あいつと仲良くしてただろ」とか嫌みを言われるんで。
林
だから、市議になったら老人会とかいろいろなイベントの司会をやらせてもらえるかなと思ったんですけど「林に司会をやらせたら、あそこの地区の票を持っていかれる」みたいなことがあるので、なかなか声がかからないんです。
林克治氏
――ところで、皆さんはなんで市議になろうと思ったんですか?
西尾
僕は都内に住んでいたんですけど、コロナ禍で仕事も貯金もなくなって埼玉県の三郷市に引っ越したんです。それで、近所にある「放課後等デイサービス」という障がいのある子供たちの学童みたいな施設でパートとして働き始めました。
一緒に遊んでいると子供たちがかわいくなってくるんですよね。で、親戚のおじさんみたいな気持ちになって「この子たちは大きくなったらどうするんだろう」と不安になったんです。
実は三郷市に引っ越したばかりのときに「市議にならない?」と声をかけられたことがあったので、それを思い出して「市議になったらこの子たちに何かできるんじゃないか」と思ったのがきっかけです。
――なんかいい話ですね。
西尾
はい。いい話ですよ。でも、市議に誘われてから実際に立候補するまでの間に、長井君のほうが先に立候補して当選しているんです。めっちゃ人の悪口を言ってるのにですよ。それで「ああ、一定のコアな人を味方につければ受かるんだ」と思いました。
長井
戦略的にはね。
――じゃあ、長井さんの影響を受けたわけですね。
西尾
いや、影響は一切受けてません。僕は人の悪口は言ってませんから。ただ、こういうやり方もあるんだなと。だから、次回落ちそうになったら、誰かの悪口をめっちゃ言うかもしれません。そういう戦略に出るかもしれませんね(笑)。
西尾秀貴氏
林
僕の住んでいる千葉県南房総市は約50%が65歳以上の高齢者なんです。診療所で働き出してから、お年寄りのご自宅に伺うことが多くなったんですが、実際の生活を見るとすごいゴミ屋敷だったり、朝から晩まで誰とも話さない人がいたりして、僕とのちょっとしたおしゃべりをすごく楽しんでくれたんです。
すると、だんだん心を開いてくれて「市は何もやってくれない」とかちょっとした不満を言うようになりました。そんなときに市議会議員選挙が迫ってきて、年齢的にもう市議に立候補しなそうな人を数えたら6人くらいいたんです。
それで、その話をお年寄りにしたら「ぜひ市議になってほしい」と言われたのでその気になって立候補しました。
――林さんは地元ですから、友達も多いんじゃないですか?
林
いや、友達はみんな東京に出ていっちゃってます。同級生も10人くらいしかいません。だから票にはならないんです。都市部のおふたりと違って、南房総市は本当に地方なのでひとりひとりに「お願いします」みたいな活動をする人がほとんどです。
でも、僕はそれが苦手だったので、登録者は1000人くらいだったんですがユーチューブで生配信とかしていたら意外と皆さん見てくれてたみたいで、それで受かったんだと思います。選挙が終わってから「入れたよ」みたいに声をかけられることが多かったですから。
――じゃあ〝南房総市の石丸伸二〟みたいな感じですね。
林
いや、僕のほうが先にネットを駆使してました(笑)。
長井
私の場合は、選挙のある半年くらい前から「宗教2世問題」が話題になっていました。主に旧統一教会の問題が中心だったんですが、私はかつて創価学会の2世信者だったので、宗教2世問題のイベントなどでスピーカーとして学会の内情を語らせていただくことが増えていました。
そこで、政治の世界でも宗教2世問題をなんとかしていきたいと思ったんです。だから、今でも市民からの相談は、圧倒的に宗教問題が多いです。
あと、私はユーチューブのチャンネルを持っていないんですが、やっぱりユーチューバーが拡散してくれるんですよ。選挙期間の最後の3日くらいは6、7人がずっとへばりついて中継してくれていました。
だから、自分の住んでいる市の選挙の動画などはけっこうな数の人が見てくれているんだなと思いましたね。間違いない。
【「もう入った?」が挨拶代わり】
――もともと芸人だと、思わず笑いを取りにいっちゃったりすることってないんですか。〝芸人市議あるある〟みたいなことってありますか?
西尾
思わず笑いを取りにいったというより、誰かが言い間違えをしたり、噛んだりすると口を手で隠して「プッ」みたいなリアクションをすることはありますね。ほかの市議はそんなことはまったくしませんけど、芸人のクセが抜けなくて、ついつい出ちゃうんです。
――林さんはツッコミですよね。思わずツッコみたくなるときってありますか?
林
市議の話し合いで「なんでやねん!」みたいなことは言わないですよ。せいぜい「またまた」くらいです。ただ、うちは市議の8割が自民党系なんです。あとは公明党と共産党などで僕は無所属です。なので、自民党系の市議に会うとほぼ毎回「うちに入る?」って聞かれます。
長井
自民党はいつもそうなんです。「もう党員になった?」とか。また、それを言って面白がっているんですよ。
林
県議の人に会っても「入った?」って言われます。
――ちなみに、市議になって大変だったことってありますか?
西尾
まだ3ヵ月なんですけど、必要以上に恐縮されるんです。この間、初めて地域の小学校の運動会に招待していただいたんですけど、僕より年上の校長先生から「西尾先生、本日はお忙しいところ誠にありがとうございます」って出迎えられて、どうしたらいいかわからなくなりました。
「西尾先生」とか呼ばれるのも、まだ慣れていないんですよ。まあ、慣れたくもありませんけど。
林
大変なことでいうと「投票ハラスメント」ですかね。選挙が終わってから、この人は絶対に自分に投票していないはずなのに「おまえに入れといたから」とか言ってくる人がけっこういるんです。市民の方だと、やはりむげにはできないですから。
長井
私は連絡先を公開していることもあって、市民相談がちょっと大変です。市民相談なのに8.5割は市外の人からの相談なんですよ。それも大阪とか長崎とか北海道とか。近くでも西東京市の近隣の三鷹市とかから連絡が来る。まあ、だいたい病んでる人からの電話ですけどね。
西尾
また、悪口。
――ちなみに、皆さんの最終的な目標はなんですか?
西尾
僕は最終的には障がいのある子供のことをいろいろサポートできればと思っているんですが、それはすぐにはできないと思いますので、まずは三郷市を広めることから始めたいと思っています。
三郷はドラマのロケなどに使われることも多いので、この間の一般質問で「ロケ地マップを作りましょう」と言ったんです。多くの人が三郷に来て、飲食店などを利用して、税収が少しでも上がればと思っています。
――林さんはいかがでしょうか?最終的なゴールは総理大臣とか?
林
いや、「市長になりたいとか、県議になりたいとかは絶対に口にするな」と言われているんです。もし口に出すと「あいつは何か勘違いしてる」と思われて敵がどんどん増えますから。本当に思ってませんし!
ただ、国会議員の比例にはちょっと興味があります。あれって、名簿に入れていただくだけですよね。
西尾
それは声をかけてほしいってことでしょ。
林
いやいやいや。あとは西尾さんと同じで、南房総市をできるだけ多くの人に知ってもらいたいです。
長井
私は、もし国政に出るのなら公明党の斉藤鉄夫代表と同じ選挙区(広島3区)から出たいというのはありますね。比例にちょこっと興味があるとか言ってる輩とは違って、大志がありますから。
林
......。
西尾
もう、全方向に悪口を言ってますね(笑)。
――ということで、最後になりますが、今回の座談会をきっかけに3人で「市議ーズ」みたいなトリオを組む可能性はあったりしますか?
西尾
何度も言っていますが、僕は市議になってまだ3ヵ月なので、トリオではなく先輩のおふたりにいろいろアドバイスをいただけるといいなと思います。
林
富山県議をやっているお笑いコンビ「母心(ははごころ)」の嶋川武秀(しまかわ・たけひで)さんや千葉県議のプリティ長嶋さんを差し置いて、市議でトリオを組むというのも波風が立ちそうですよね。
長井
どうせ、ネットニュースとかのタイトルとかに使いたいんでしょ。「市議ーズ結成!」とか。「3人でキングオブコントに出場か」とか。だったら適当に書いておけばいいんじゃないですか。
――本当ですか!?
長井
まあ、トリオとかやらないですけどね。
――では、皆さんのご活躍を心から祈っております。ありがとうございました。
長井
なんか嘘くさいけどね。
●長井秀和(ながい・ひでかず)
1970年生まれ、東京都出身。2022年12月から東京都西東京市議会議員。大学卒業後の1992年にお笑い芸人としてデビュー。「間違いない!」などの決めゼリフでブームを起こした
●林克治(はやし・よしはる)
1976年生まれ、千葉県出身。2022年4月から千葉県南房総市議会議員。1997年、マンボウやしろとお笑いコンビ「カリカ」を結成。後に一度解散し再結成。現在は「ニューカリカ」として活動
●西尾秀貴(にしお・ひでたか)
1970年生まれ、東京都出身。2025年7月から埼玉県三郷市議会議員。1990年、さがね・まさひろとお笑いコンビ「X-GUN」を結成。『ボキャブラ天国』(フジテレビ)などで人気に
取材・構成/村上隆保撮影/村上庄吾
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