(画像/PIXTA)
11月28日(金) 7:00
金融機関が空き家対策に本格的に取り組む事例が出てきた。埼玉りそな銀行が提供するサービス「空き家まるごと解決システム」だ。空き家の困りごとをワンストップで解決するという。どういったサービスなのか、なぜ金融機関が取り組むのか。埼玉りそな銀行に聞いた。
「空き家まるごと解決システム」とはどんなサービスか?空き家が社会問題化しているなか、金融機関が空き家対策に取り組む事例はこれまでもいくつかあるが、主に空き家のリフォームや解体に利用できるローンを提供するものだった。一方、埼玉県の地域金融機関である埼玉りそな銀行のサービスは、空き家が抱える問題を広範囲にカバーする内容になっている。
実際に空き家を抱えた所有者は、どこから手を付けたらよいかわからないといった場合も多い。同行のサービスは、金融機関が窓口となり、所有者がどうしたいのかに沿って、どういった選択肢があるかを検討し、同行が連携した事業者を紹介するなどして、解決に導くものだ。そのため、空き家管理や残された物品の整理、売却、賃貸、空き家再生・活用、解体などに関する、埼玉県内の空き家対策に強い16社と連携している。
紹介された連携企業に業務を依頼するなどの契約が成立すれば、それに対する費用は発生するが、同行窓口への空き家の相談については、特に費用は発生しない。また、連携企業に丸投げではなく、同行でも進捗状況を確認し、相談者が希望するまで伴走するようにしているという。
【連携協定締結企業(五十音順)】
主な連携内容連携企業空き家管理サービス近藤リフレサービス株式会社株式会社中央ビル管理株式会社ファイブイズホーム※株式会社メモリアル秩父※戸建て賃貸管理サービス武蔵コーポレーション株式会社空き店舗等のリノベーション株式会社ジェクトワン宿泊施設への再活用ハウスバード株式会社地域活性化株式会社シンミドウ解体・売却価格の試算イクラ株式会社バリュークリエーション株式会社遺品整理アルファクラブ武蔵野株式会社サンメンバーズ株式会社株式会社メモリアル秩父※空き家の売却株式会社カチタス近藤不動産株式会社株式会社中央住宅株式会社ファイブイズホーム※株式会社レジデンシャル不動産※主な連携内容が複数ある企業ただし、原則としてサービスの対象となるのは、所有者が埼玉県に居住している(空き家の所在が県外でも可、ただし対応できるサービスが限定される)、または、所有空き家が県内にある(埼玉県外に居住でも可、ただし同行担当者と連絡できる前提)、という場合に限られる。あくまで地域に根差したサービスなのだ。
なぜ金融機関がここまで空き家問題に対応するのか?ではなぜ、金融機関が空き家対策にここまで取り組むのか? 同行の社長・福岡聡氏は「地域金融機関として、持続可能な地域づくりに貢献する責任がある」という考え方を持っているという。住宅は人が住めば正の資産でも、空き家になると負の資産になる。地域の社会資産の劣化に歯止めをかけたい。地域の成長なくして金融機関の成長もないという考えのもと、タスクフォースを作って検討してきた。
空き家に関するタスクフォースの発足は2024年4月。空き家のオーナーや自治体へのヒアリング、同行社員約6000人へのアンケートなどから、ニーズの大きさを実感し、提供できるサービスの内容を検討してきた。同年11月からはサービスの試行を始め、2025年4月から正式に「空き家対策グループ」を創設した。10カ月間の試行の結果(2025年8月末時点)は、空き家の物件情報が114件、ニーズ(物件によって複数のニーズがある)の確認が146件、解決に至ったのが12件(解体1件・遺品整理4件・売却7件)という実績だった。
またこの間、連携企業の拡大・選定などにも時間をかけ、同行の趣旨に賛同し、試行段階から積極的に協力してくれた企業などと正式な協定締結を交わして、本年9月末に本格的なサービス提供の公表に至った。
また、県内の複数の自治体がこのサービスを評価しており、空き家対策の連携を強化していく予定もあるという。
金融機関側と空き家所有者側のメリットはどこに?では、金融機関側にはどういったメリットがあるのだろう?
このサービスは、直接的な利益を上げる仕組みではないため、連携企業から成約マージンをもらうわけではない。ただし、連携企業が事業を拡大させれば、引いては同行の融資につながる。また、空き家が利活用されて街が活性化すれば、同行の新しい顧客が増えるなどして、いずれ本業に回帰する。こうした長期的な展望のもとでサービスの提供に踏み切っている。
幸い同行には「くらしコンシェルジュ」という相談窓口や同行の県内を中心とした127の拠点(うち県内は124拠点)に個人に対する渉外担当が多数いるため、相談を受ける担当者は多い。加えて、行政書士などを講師に迎えた「空き家対策セミナー」を積極的に行い、空き家所有者へのアプローチを広げている。
一方、空き家所有者側のメリットは、地域の信頼を得ている金融機関が伴走してくれることにあるだろう。同行では進捗状況を本部で確認し、紹介先で対応が滞ることがないようにプロセス管理をしている。試行実績では、サービス利用者から「あきらめずに相談してよかった」といった声も多く、成約の有無にかかわらず、クレームの類は生じていないという。
とはいえ、空き家所有者のニーズが最も高い売却については、査定額が想定したよりもかなり低額、あるいは価格がつかないという場合もあり、地域連携でも解決に至らない事例も多いが、まずは相談してもらいたいという。
さて、筆者は空き家については2タイプあると思っている。1つは空き家が完全に放置されている場合。これについては、行政が対応するしか手立てがない。周囲に悪影響を及ぼす空き家を「特定空家」や「管理不全空家」と定めて行政指導を行ったり、所有者が不明確な空き家については所有者をさまざまな形で探したりする方法だ。
もう1つは、相続などで空き家を所有したが、利活用がしづらいなどでどうしたらよいかわからないという場合。今回の埼玉りそな銀行のサービスは、こうした空き家に効果的な方法だ。すべての空き家が利活用できるわけではないが、地域連携と伴走という形で、これまでよりも解決策が見つかる可能性が高そうだ。埼玉県に限らず、全国的に広がってほしいサービスだと思う。
●関連サイト
埼玉りそな銀行「空き家まるごと解決システム」の提供開始について
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