Jリーグ残り2節で首位キープ。"もがき続けた名門"が9年ぶり悲願へ!"名将"鬼木 達は鹿島アントラーズをどう変えたのか?

Jリーグ開幕時に高卒で鹿島へ入団した鬼木 達。その後、川崎Fに移籍。引退後は同チームで監督を務め、J1を4度制して国内屈指の名将に。今季から古巣に戻り、現在、9年ぶりのリーグ優勝へ向け邁進中

Jリーグ残り2節で首位キープ。"もがき続けた名門"が9年ぶり悲願へ!"名将"鬼木 達は鹿島アントラーズをどう変えたのか?

11月27日(木) 6:00

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Jリーグ開幕時に高卒で鹿島へ入団した鬼木 達。その後、川崎Fに移籍。引退後は同チームで監督を務め、J1を4度制して国内屈指の名将に。今季から古巣に戻り、現在、9年ぶりのリーグ優勝へ向け邁進中

Jリーグ開幕時に高卒で鹿島へ入団した鬼木 達。その後、川崎Fに移籍。引退後は同チームで監督を務め、J1を4度制して国内屈指の名将に。今季から古巣に戻り、現在、9年ぶりのリーグ優勝へ向け邁進中





国内最多20冠の主要タイトルを獲得してきた名門クラブ、鹿島アントラーズが9年ぶりのJ1制覇に迫っている。快進撃の立役者は今季から監督に就任した鬼木 達。その"名将"がチームに植えつけ、選手たちが呪文のように口にする言葉とは?

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【9年ぶりでもピリつかない"名門"の空気感】

鹿島アントラーズが9年ぶりの明治安田J1リーグ制覇に近づいている。

9年といえば、小学1年生が小学校を卒業するだけでなく、中学校まで卒業してしまう年数だ。それだけの年月が流れれば、当然のごとく、前回のJ1優勝を経験した選手は少なく、エースストライカーである鈴木優磨、元日本代表の柴崎 岳、植田直通、三竿健斗の4人のみ。その少なさは、毎年のようにタイトルを積み上げてきたこのクラブが、どれだけ優勝から遠のいていたのかを物語る。

ただ、不思議なことに選手たちに浮足立つ様子はない。普通、9年ぶりともなればどこか落ち着きがなく、そわそわした空気が流れるものだ。

サポーターの期待は日に日に大きくなり、優勝が近づけば取材に訪れるマスコミの数も格段に増える。優勝経験のないチームが、いつもと違う空気感にあてられ、大事な場面で力を発揮できず、よそ行きの戦いになってしまうことはよくあることだ。

しかし、鹿島の選手たちは地に足を着けて日々を過ごしている。クラブハウスや練習場を訪れれば、シーズン当初と変わらぬ姿勢で切磋琢磨する選手の姿を見ることができる。

その空気感は選手たち自身も感じている。前回優勝時、プロ2年目で誰よりもギラついたものを見せていた鈴木は、当時と変わらぬ空気が流れていることを認める。

約4年前、海外挑戦を経て鹿島へ復帰した際に「優勝させるために帰ってきた」と語っていた鈴木

約4年前、海外挑戦を経て鹿島へ復帰した際に「優勝させるために帰ってきた」と語っていた鈴木





「そんなにピリついてないんですよね。なんか本当に優勝争いしてんのかな、ぐらいな感じなんで」

普通は起きることが起きない状況こそ、9年ぶりのタイトル獲得に近づいている理由かもしれない。だとしたら、それをもたらしたのは今季から監督に就任した鬼木 達だ。



【鬼木体制の転機となった第2節】 タイトルから遠ざかっていた期間、鹿島はずっともがいてきた。クラブが目をかけて育ててきた選手たちが、チームの中心を担うべきタイミングで続々と海を渡り、海外クラブへ移籍していく。その繰り返しでなかなかチームの成績は安定しなかった。

その結果、毎年のように監督交代を繰り返し、アントニオ・カルロス・ザーゴ、レネ・ヴァイラー、ランコ・ポポヴィッチといった監督たちが期待に応えられず、シーズン途中で解任されてきた。それでもすべてのシーズンで5位以内に踏みとどまってきたのは、常勝クラブの意地だろう。

ただ、シーズン終盤まで優勝争いに加わることができたのは、最終節で優勝を取り逃がした2017年のみ。それ以来、鹿島はなかなか優勝争いに絡めなくなっていった。

転機は、今季から鬼木監督が就任したことだ。

17年、鹿島をかわし、川崎フロンターレを最終節で逆転優勝に導いたのが鬼木監督だった。監督1年目のシーズンでクラブ初タイトルをもたらしたことを契機に、川崎Fは黄金時代を迎える。

三笘 薫ら、現在の日本代表を支える選手たちを数多く輩出した名将が、現役時代を過ごした鹿島に戻ったことで、迷走が否めなかった変革の方向性も定まることが期待された。

ところが、滑り出しは順調ではなかった。シーズン開幕前の宮崎キャンプでは、昇格組の岡山に完敗。その後もなかなか勝てない試合が続き、開幕戦でも湘南にいいところなく敗れてしまった。

特に、昨季21得点を挙げたレオ・セアラと15得点の鈴木がシュートを放つ場面は少なく、チームづくりがうまくいっていないことがうかがわれた。

しかし、第2節の東京ヴェルディ戦から戦い方がガラリと変わった。どちらかといえば、パスをつないで相手ゴールに迫ろうとしていた開幕戦とは違い、球際の戦いやプレッシングを強調した選手たちは、試合開始直後から相手を圧倒。息をつかせない激しい守備で東京Vを4-0の完勝で沈めた。レオ・セアラと鈴木の2トップもそれぞれ2得点の大活躍だった。

「1戦目は自分の反省ばかりです」と鬼木監督は振り返る。

「自分も新しく鹿島に来て、自分が目指すものとかそういうものを、少しでも多く出しながらトライしたい。それが方向性として重要だなと思っていました」

しかし、鬼木監督はわずか1試合で軌道修正を施した。

「やりたいこともありますけども、今、選手がやれることをよりフォーカスしながら、その中で取り組んでる部分を少しでも取り入れながらやっていければいい」

そう言ってチームに求めるバランスを調整した。具体的には、ビルドアップの技術や、狭いスペースでも前を向いてパスを出す能力は、一朝一夕では身につかない。新たな技術の向上に日々取り組みながらも、試合ではそればかりに固執せず、今できることを主としつつ、習得した技術を少しでも出せるようトライすることを促した。

鹿島の選手たちは、もともと球際や守備への献身性を備えており、まずはそれを土台に戦い、少しずつそのバランスを技術に寄ったものへ移していく。この戦い方の指針はシーズンを通じて変わらず、結果が出ても出なくても、技術の向上に前向きに取り組む姿勢へつながっていった。



【「自分たちから崩れない」という"名将"の教え】 とはいえ、すべてがうまく運んだわけではない。

第2節から4連勝した鹿島だったが、第8節から3連敗を経験。追い込まれた第11節の岡山戦で勝利し、そこから7連勝を遂げるも、第21節で町田に敗れると、そこからシーズン2度目の3連敗。指針は定まっていてもチームは成長段階にあり、必ずしも結果が出るとは限らなかった。

ただ、だからといって、試合に負けても戦い方への疑問や不満が噴出することはなかった。試合に出ている選手はもちろんのこと、ベンチになった選手もベンチ外になった選手も、全員が同じ方向を向いて戦う。もともとファミリーとしての結束力を特長とする鹿島において、今季の一体感は格別のものがあった。

その姿勢をもたらしたのは何か。鬼木監督が説く「自分たちから崩れない」という考え方が強く影響したのは間違いない。この1年、選手たちは呪文のようにその言葉を唱え、試合結果に一喜一憂することなく、勝っても負けても、次の試合では戦い方をより向上させることに意識を集中させた。

シーズン佳境に来日したクラブアドバイザーのジーコさん(左)。9年ぶりJ1優勝を神様も見守っている

シーズン佳境に来日したクラブアドバイザーのジーコさん(左)。9年ぶりJ1優勝を神様も見守っている





「自分たちから崩れない」という考え方は、さまざまな場面に通じる。3月の連勝で首位に立ったとき、鈴木は次のように話していた。

「自分たちから崩れないっていうのが大事になる。結局、自分たちが崩れなかったら、周りは勝手に崩れていく。自分たちにも苦しい時期も来ると思いますけど、そこをしっかり全員で乗り切ると言ってます。今は勝ってますけど、そこに向けてチーム全員で頑張っていきたいです」

チームとして、タイトルを目指すために共有した意識ではあるものの、それはチームがタイトルを獲得するためだけではない。選手個人の価値を示すためにも大切なことだ、と鬼木監督は何度も何度も選手たちに説いてきた。

「勝っていく上では自分たちから崩れないことが重要だ、という話は鹿島に来てからもずっと言ってますし、以前のチームでも言ってきました。

選手同士の競争の中では、先発としてピッチに立てなかったり、サブに入れなかったり、いろんなところでネガティブになることもあるとは思うんです。でも、そうなってしまうと違う選手にチャンスが行く。

つまり、チームとして自分たちから崩れないということだけでなく、選手個人としても自分で崩れないことにつながる。ちょっとしたところですけど、チームのためにというよりも、自分がまずどうしなきゃいけないか。それが最終的にチームの力になる」

それでも結果が出ないときはある。そんなとき、鬼木監督は「結果(が出ない責任)はすべて監督にある」と一切の言い訳をせず、自分にベクトルを向けてきた。

今季、鹿島は安西幸輝をはじめ、3人の主力選手が相次いで今季絶望となる大ケガで戦線を離脱せざるをえなかった。

そうした大きなアクシデントに見舞われる中、自分から崩れることなく、やるべきことに集中した結果、多くの選手が進化と成長を遂げた。3人が欠ける前の春先のチームより、今のチームのほうが強くなっていることは誰もが認めるところだろう。



【監督も選手も平常心。「勝つだけなんで」】 第36節、満員の観衆が詰めかけたメルカリスタジアムに横浜FCを迎えた鹿島は、前半こそ苦戦したものの、後半に入ってレオ・セアラの今季19点目のゴールで先制すると、すぐさま知念慶が追加点。相手の反撃を1点に止め、2-1で勝利し首位を守った。

次節(11月30日)、鹿島が勝利し、2位の柏が敗れれば優勝が決まる状況だが、鈴木は表情をピクリとも動かさない。

「もう勝つだけなんで。自分たちができること、やんなきゃいけないことにまた焦点を当てて頑張っていきます」

自分たちが勝ちさえすれば、どのチームも追いつくことはできない。逆に言えば、勝たなければ相手は追いつき、追い越していく。ましてや9年ぶりのJ1制覇となれば、かかる期待や重圧もそれだけ大きく膨れ上がる。

2016年以来のJ1制覇へ残り2試合。闘将・小笠原満男さん(中央)の「背番号40」を譲り受けた鈴木が栄冠へ導けるか

2016年以来のJ1制覇へ残り2試合。闘将・小笠原満男さん(中央)の「背番号40」を譲り受けた鈴木が栄冠へ導けるか





鬼木監督は、プレッシャーはあって当然だと話す。

「緊張しないってことはないと思う。自分自身も、いつも『これで大丈夫かな』という不安との闘いでもあります。ただ、最後は『最善の準備ができた』と思うからこそ、思い切り行動を起こせる。準備のところで最善を尽くすことで、緊張から楽しみやワクワクに変わっていくものだと思います」

今季も残り2試合。周囲の喧騒をよそに、鹿島の選手たちは、目の前にある、やるべきことだけに集中している。

取材・文/田中 滋写真/時事通信社

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