パリ北部の巨大展示場、Paris-Nord Villepinte。シャルル・ド・ゴール空港に隣接するこの会場で隔年開催される Milipol Paris は、世界各国の警察・治安機関、メーカー、研究者が一堂に会する国際セキュリティ展示会だ。主催はフランス内務省とパリ警視庁、および欧州委員会の後援を受ける COMEXPOSIUM グループ。1970年代にテロ対策関連の専門展示として出発したこのイベントは、現在ではサイバーセキュリティから公共安全、国境管理、情報通信システム、そして介入車両に至るまで、治安分野の最新技術を俯瞰できる場へと拡大している。前回の来場者は約3万人。ヨーロッパ圏では治安・防災領域を扱う展示として最大規模であり、その注目度はいまや世界的だ。
【画像】フランスで開催される警察車両・特殊車両の見本市。その規模に驚かされる(写真28点)
会場を歩いてまず驚かされるのは、警察車両・特殊車両を扱うメーカーの充実ぶりである。セキュリティ展示というと高度な通信システムや電子デバイスを想像しがちだが、現場で運用されるプラットフォームの中心にあるのは依然として”車両”だ。高速道路での追跡、都市部での巡回、特殊部隊の展開、危険地域への進入など、いかなる装備体系も最終的な運用は車両の性能に依存する。Milipol は、そのための「警察車両の見本市」という側面を持ち合わせている。
今年もその傾向はより鮮明だった。
ランドローバーのブースには、欧州警察が最新SUVをどう治安用途に転用しているかを示す各種デモ車両が並び、イタリア警察仕様の Defender はその象徴だ。Yamaha と BMW Motorrad は、フランス国家警察や国家憲兵隊、さらにはベルギー警察まで、欧州で実際に採用される二輪パトロール車の”標準形”を見せてくれた。都市を走る軽量スクーターから高速巡回に特化した大型ツアラー、GS 系アドベンチャーまで、各国警察が求める運用要件の違いが如実に伝わる。
特殊車両の領域では、フランス国家警察 RAID が投入する Centurion D14 の存在が際立つ。Renault Trucks D Range を基盤にモジュラー装甲を組み合わせ、隊員を安全に現場まで運ぶための”動く拠点”を具現化したモデルだ。一方で Technamm が手掛ける Peugeot Landtrek ベースのタクティカル車両は、もっと軽快で、より”機動力”を重視したアプローチを示している。
電動化やIT統合の潮流も見逃せない。EXFO が Alpine を用いて通信計測機器を内蔵したドライブテスト車を披露し、IDEATEC は Renault 5 E-Tech Electric を使って都市型パトロール車の電動化を示唆するデモを行った。ここでは、治安車両とテクノロジーの境界そのものが曖昧になりつつあることを感じさせられる。
もちろん、華やかなショーアップも Milipol の魅力だ。McLaren GT の Police Nationale 仕様は純粋なデモ車両に過ぎないが、スーパースポーツが纏う警察意匠のインパクトは大きく、会場の象徴的存在となっていた。
Milipol を歩いていると、治安技術の進化は単に”強さ”や”防御力”を求める方向にだけ進んでいるわけではないことが分かる。軽量化、電動化、情報化、そして既存の市販車を巧みに治安運用へ転用していく柔軟性。その多様なアプローチこそ、現代の治安分野の複雑さを映し出している。
今回取り上げた車両群は、そのごく一部に過ぎない。それでも、Milipol Paris が示す”治安のリアル”は明確だ。現場は常に変化し、その変化に合わせて車両もまた進化していく。その最前線を垣間見られるのが、この展示会の最大の魅力なのだ。
写真・文:櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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