セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(22)
節目の一戦、代表監督100試合目を勝利で飾った森保監督photo by Yanagawa Go!
2025年の全試合を消化したサッカー日本代表。前半は北中米ワールドカップのアジア最終予選を、後半は強化試合を6試合戦い、8大会連続8回目となる予選通過、ブラジル撃破と、それぞれ結果を残した。いよいよワールドカップ本大会の組み合わせ抽選会(アメリカ現地時間12月5日)も迫るなか、ご意見番のセルジオ越後氏に、来年に向けての展望を聞いた。
【代表強化、マッチメイクの難しさをあらためて感じた】年内最後の強化試合となったボリビア戦で、森保一監督が日本代表通算100試合の指揮を達成した。それだけ長く続けられたのは、大したものだよ。でも、もし彼以前の代表監督たちに伝えたら、「4年でやめなければ、俺も達成できた」「二度もアジア杯で負けているのに、なぜクビにならなかったのか」などと言うかもしれないね。
それは冗談にしても、この1年間を振り返ると、あらためて今の時代の代表強化、マッチメイクの難しさを感じたよ。
まずは3月からのワールドカップアジア最終予選。バーレーンに勝って史上最速での本大会出場を決めた。それ自体はうれしいことだけど、アジアのレベルの低さの裏返しとも言える。ヨーロッパや南米では厳しい予選が繰り広げられていることを考えると、手放しでは喜べなかった。
また、消化試合となった予選の残り3試合も、どうしても緊張感に欠けてしまったね。実際、バーレーン戦後のサウジアラビア戦では引き分け、続く6月の2試合では招集メンバーを大幅に入れ替えたとはいえ、オーストラリアに0-1で負けた。結局、この最終予選ではサウジに1勝1分け、オーストラリアに1分け1敗と力の差を見せられなかった。
7月の東アジアE-1選手権も、タイトル獲得(優勝)はすばらしいし、選手の頑張りに水を差すつもりはないけど、日本も韓国も国内組中心でベストメンバーからほど遠く、ワールドカップに向けての強化という意味での評価は難しかった。
期待していた9月、10月、11月のインターナショナルマッチウィークに関しては、ヨーロッパ勢と試合をするのが不可能な状況にあって、日本サッカー協会がマッチメイクを頑張ったと思う。メキシコ、ブラジルといったレベルの高い相手との試合ができた。そして、ブラジルには3-2で見事な逆転勝利を収めた。
でも、すべての試合がそういうわけにはいかない。たとえば今回(11月に)対戦したガーナとボリビアは、力的にはイラン、韓国、オーストラリアといったアジアのワールドカップ常連国と同じくらいか、むしろ下かもしれない。強化という意味では歯応えがなさすぎた。
森保監督や選手たちは「ワールドカップ優勝」を目標に掲げているけど、現実的には「ベスト8」が妥当だと思うし、僕はそこを達成してほしいと思っている。そして、そのための十分な準備ができたかといえば、やっぱり難しかったなという印象だ。
その意味では、来年3月の開催が噂されるイングランド戦には期待しているし、ほかにもヨーロッパや南米の強豪との試合が組めるかが来年の課題になる。
【ベスト8に入れるかは組み合わせ次第】一方で、選手層に関してはポジティブに見ているよ。伊藤洋輝、町田浩樹、高井幸大といった最終ラインの選手たちが次々と故障し、一時はどうなってしまうのかと心配したけど、鈴木淳之介、渡辺剛が台頭し、守田英正が離脱している中盤でも佐野海舟が猛アピールするなど好材料が多かった。
日本代表がいいプレーをできている時というのは、前線からのプレスがしっかりできている時。でも、体力の消耗が激しいので、90分続けるのは難しい。それだけに重要になるのが、選手交代枠5名のフル活用。連戦の続くワールドカップ本番までに、計算の立つ選手をどれだけ揃えられるかだね。
たとえば9月のメキシコ戦は、最初はよかったけど、徐々にプレスがかからなくなり、選手交代でまたペースを取り戻した。ボリビア戦も同様だ。ブラジル戦も引いて守った前半に2点を奪われたものの、後半は開き直って前からプレスをかけて逆転、そこから一気に3枚替えをして逃げきった。思い返せば、カタールワールドカップでも、前半は守って耐えて、後半にスーパーサブの三笘薫を入れて攻めていた。よくも悪くも、5人交代制時代ならではの(選手交代を次々に行ない、体力的な負担を分け合う)「駅伝サッカー」だ。
だからこそ来年の本番に向けて、離脱中の選手たちがどこまで戻ってくるかが命運を握りそうだね。彼らがいないと厳しい。特に、三笘にはそろそろ元気な姿を見せてほしい。
そして、ベスト8を達成できるかどうかは、組み合わせ次第。どのグループに入って、どの相手とどういう順番で対戦して、勝ち上がった時の相手はどこで、試合の開催地は......と、それらがわからない現時点では何とも言えない。
今回はヨーロッパ予選の試合をたくさん見たんだけど、スペイン、フランス、イングランド、ポルトガル、オランダ......と、強烈な国が多いね。特にノルウェーはすごいサッカーをやっていた。エースのハーランドを中心に8戦全勝37得点(5失点)という攻撃力。同じグループのイタリアは簡単に蹴散らされていて、気の毒なくらいだった。
ワールドカップベスト8に入るためには、そういう強豪に少なくとも一度は勝たないといけない。簡単ではないけど、やりがいはあるよ。ただ、それが優勝となると、まだまだ日本の現実的な目標としては捉えにくいね。
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