【連載】
南雄太「元日本代表GKが見た一流GKのすごさ」
第7回:早川友基(日本)
「とにかく、自分の思いどおりに体を動かすことができて、無理も利く。もともとポテンシャルが高いGKだと見ていましたが、去年くらいから圧倒的にパフォーマンスがすばらしくなりましたね」
横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールや流通経済大学付属柏高等学校で育成年代のGKコーチを務めながら、解説者としても活躍する南雄太氏がそう語って舌を巻くのが、鹿島アントラーズの守護神として君臨し、日本代表の常連にもなりつつある早川友基だ。
ガーナ戦とボリビア戦でゴールを守った早川友基photo by Ushijima Hisato
現在26歳の早川は、2021年に明治大学から鹿島に入団。桐蔭学園高校時代も含め、それまで年代別の日本代表でプレーした経験もなく、どちらかと言えば、今の日本代表メンバーのなかでは「遅咲きの選手」と言っていいだろう。
しかし、プロ入り2年目の2022年の終盤戦にレギュラーの座を勝ち取ると、翌2023年から鹿島の正GKとして定着。とりわけ今シーズンはチーム躍進の原動力になると、その活躍ぶりを高く評価されて7月のE-1サッカー選手権・中国戦で代表デビューを飾り、11月のガーナ戦とボリビア戦にも先発して2試合連続クリーンシートを達成した。
今季のJリーグで別格のパフォーマンスを披露している早川のプレーには、一体どのようなテクニックが潜んでいるのか。南氏が、そのすごみを詳しく解説してくれた。
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「早川選手ならでは、と言えるGKテクニックはたくさんあります。ただ、そのなかでも注目してもらいたいのが、体が伸びるセービングです。
シュートを止める時、多くのGKはボールに対して手から伸ばして(出して)しまいがちです。しかしそれだと、手が伸びる範囲が限られてしまいます。
最後にもうひと伸びするためには、まず頭と体を動かしてから手を伸ばすことがとても重要なのです。それによって、より遠くまで手が伸びて、シュートを止めるレンジを広くすることができます。
『ゴールに入った』と思われたシュートにも、早川選手の手が届いているのは、その初期動作と体重移動、そして最後のセービングの部分が抜群にうまいからです」
【普通のGKにはできないセービング】南氏はGKならではの視点で、さらに早川の特徴を紐解く。
「しかも早川選手には、そこにプラスアルファのテクニックが加わります。たとえば、自分の左側に飛んできたグラウンダーのシュートに対し、左手を伸ばしてセーブする時、単に体→左手の順に伸ばすだけでなく、体を動かす時に右腕もシンクロさせながら動かすことで、最後の最後で左手の届く範囲を広げています。
これは、ドイツ代表GKの(マルク=アンドレ・)テア・シュテーゲンなどもよく見せるテクニックですが、普通のGKではなかなかできないセービングです。早川選手はそのテクニックをマスターしていて、2024年第17節の横浜F・マリノス戦で天野純選手のシュートを止めたシーン(前半38分)などは、その典型例と言えるでしょう。
おそらく一般のファンの方には、あれは普通のセービングに見えるかもしれません。でもGK出身者からすると、別次元のセービングですね。しかも、逆モーションであれをやったわけですから、恐ろしいGKだと思います。
そしてもうひとつ付け加えるなら、早川選手は空中でも最後のひと伸びがある。
ジャンプしてシュートを止める時、よく見てみると、空中で足を蹴るようにして体を伸ばしているのです。そうすることで、手の届く範囲を広げるテクニックも兼ね備えています。これもヨーロッパのトップレベルのGKが見せる高度なテクニックのひとつで、日本でできるGKはほとんどいません」
早川が見せるセービングのテクニックを次々と解説する南氏が、さらに続ける。
「以前もお話しましたが、GKには『反応』と『反射』というのがあって、『反応』は来たボールに対して合わせて動くことを言い、『反射』とはまず自分で面を作ってボールを止める動きを言います。
実は、至近距離のシュートなどギリギリのセービングでは、『反応』ではなく『反射』をしなければならないケースが多いのです。早川選手は、ボールを最後までしっかり見ながら、その場面ではどちらを使うのがベストかを正確、かつ素早く判断することができています。
ボールスピードに対してプレジャンプのタイミングがずれたり、手を出すタイミングが合わなかったりすると、ボールを弾ききれなかったり、タイミングが合わずにストップできないことがあります。そういう時は『反応』ではなく『反射』を使うことで、よりシュートストップできる可能性が広がります」
【GK経験者でなければわからない】Jリーグの試合を解説することの多い南氏に、今シーズン目に留まったプレーを聞いてみた。
「ヴィッセル神戸戦(10月17日/第34節)の開始3分、大迫勇也選手の至近距離のシュートを止めたビッグセーブは秀逸でした。早川選手のブロック技術が際立っていたシーンだと思います。
このプレーは、単に反射でブロックしたのではありません。初期動作の段階で少し前に寄せて、間合いを詰めたうえで体を広げて面を作り、最後の最後で意図的に左足を上げて大迫選手のシュートをブロックしています。
おそらく大迫選手がシュートを放つ瞬間にボールが浮いていたのを見て、早川選手はシュートも少し浮かせてくると判断したのでしょう。大迫選手も、まさかGKが足を上げてくるとは思わなかったのか、GKの足の上を狙ってシュートしています。
ところが、早川選手は大迫選手の上をいった。あのわずかな時間のなかでの駆け引きで相手を上回り、最終的に決定機を防ぐことに成功しました。
あのプレー選択の判断はもちろんですが、初期動作からシュートブロックまでの間に凝縮されたハイレベルなテクニックの数々には、本当に驚かされました。しっかり理詰めで止めているので、あれが単なる偶然ではないことは明らかです。あのワンシーンだけを見ても、早川選手のGKとしてのすごみがよくわかるのではないでしょうか」
GK経験者でなければわからない数々のテクニック。南氏が解説してくれた早川のプレーを見ると、十分に世界で通用しそうなレベルにあると思われる。しかも現在、鹿島はリーグタイトル獲得に迫っており、仮に優勝したとなれば、間違いなく早川の貢献度が高く評価されるに違いないだろう。
南氏が「現在の国内最高峰GK」と太鼓判を押す早川の今後に、ますます注目が集まりそうだ。
(第8回につづく)
【profile】
南雄太(みなみ・ゆうた)
1979年9月30日生まれ、東京都杉並区出身。静岡学園時代に高校選手権で優勝し、1998年に柏レイソルへ加入。柏の守護神として長年ゴールを守り続け、2010年以降はロアッソ熊本→横浜FC→大宮アルディージャと渡り歩いて2023年に現役を引退。1997年と1999年のワールドユースに出場し、2001年にはA代表にも選出。現在は解説業のかたわら、横浜FCのサッカースクールや流通経済大柏高、FCグラシオン東葛でGKコーチを務めている。ポジション=GK。身長185cm。
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