蘇る名馬の真髄
連載第23回:エルコンドルパサー
かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第23回は、世界の頂点にあと一歩まで近づいたエルコンドルパサーにスポットを当てる。
豪華メンバーが集ったジャパンカップを制したエルコンドルパサー(中央)photo by Sankei Visual
自分こそが世界最強だと信じ、それを証明しようと勝利を目指す――。『ウマ娘』のエルコンドルパサーは、そんな思いを強く抱いて強豪馬との戦いに果敢に挑んでいく。
これほどまでに「世界最強」にこだわるのは、このウマ娘のモチーフである競走馬・エルコンドルパサーが関係している。
アメリカ生まれの同馬は、1997年に日本でデビュー。破竹の5連勝を飾り、GⅠNHKマイルカップ(東京・芝1600m)を制覇した。どのレースでも圧倒的な強さを見せており、これからどんなキャリアを積んでいくのか、誰もがその行く末に胸を躍らせた。
ちなみに、この世代には同じく外国産馬のグラスワンダーがいた。こちらもデビューから無傷の4連勝でGⅠ朝日杯3歳S(中山・芝1600m)を制しており、2頭の鞍上はともに的場均騎手が務めていた。いずれ両雄がぶつかった時、的場騎手はどちらを選ぶのか。そんな話題も当時よく聞かれたものである。
2頭の対決はすぐに訪れた。エルコンドルパサーがNHKマイルカップを快勝したあと、夏場の休養を経て挑んだGⅡ毎日王冠(東京・芝1800m)で実現したのである。
その際、的場騎手が選んだのはグラスワンダー。エルコンドルパサーは、蛯名正義騎手と新コンビを結成した。このレースは、エルコンドルパサーが2着。グラスワンダーは骨折明けということもあって5着に敗れた。勝ったのは、快速サイレンススズカだった。
続いてエルコンドルパサーが挑んだのが、国際GⅠのジャパンカップ(東京・芝2400m)。この一戦は、同馬にとって極めて重要だったと言える。
というのも、この頃からエルコンドルパサー陣営は「翌年の海外挑戦」を計画していた。この一戦の結果次第で、本当に海外へ行くのか、行くとしたらどのようなレースに参戦するのか、方向性が決まっていく可能性があったからだ。
その点において、エルコンドルパサー自身が超えなければならないハードルもあった。それは、それまで1800m以下のレースしか経験していない同馬が、ここで2400mという距離の壁を乗り越えられるかどうか、である。
しかも、その壁は強力なライバルたちによって、より高くなっていた。海外招待馬はもちろんのこと、この年のGⅠ日本ダービー(東京・芝2400m)を勝ったスペシャルウィークに、前年の年度代表馬エアグルーヴら日本勢も豪華な顔ぶれがそろっていたのだ。
当日のオッズは、1番人気スペシャルウィーク、2番人気エアグルーヴと続き、エルコンドルパサーは3番人気だった。大歓声のなかでゲートが開くと、エルコンドルパサーは2、3番手につけた。スペシャルウィークとエアグルーヴもその後ろを追走。有力各馬はいずれも先団でレースを進めた。
エルコンドルパサーは終始この位置をキープして直線へ。馬場の真ん中を早々と抜け出して先頭に立った。
問題はここからだ。初めて経験する2400mの距離で最後までもつか、である。
直線半ばを迎え、内からエアグルーヴが、外からはスペシャルウィークが襲いかかる。完全に3頭の争いになった。しかし、エルコンドルパサーは譲らない。むしろ、じわじわと力強く伸びていく。距離不安はおろか、最後は逆にライバルを突き放したのだった。
先頭でゴールに飛び込んだのは、エルコンドルパサー。2着にエアグルーヴ、3着にスペシャルウィークが入線した。ゴール後、蛯名騎手は右手を大きく突き上げて大観衆に応えた。
この勝利をステップにして翌年、エルコンドルパサーは異例の長期海外遠征を敢行。6カ月近くフランスに滞在した。その間、GⅠサンクルー大賞(フランス・芝2400m)を制覇。「世界最高峰」と言われるGⅠ凱旋門賞(フランス・芝2400m)にも挑み、勝利まであとわずかの2着と健闘したのである。
世界の頂点を目指したエルコンドルパサー。海外の強豪に立ち向かったその勇姿を、我々はいつまでも忘れることはないだろう。
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