上尾ハーフで入賞を果たした國學院大勢(左から嘉数、青木、野田) photo by Sugizono Masayuki
後編:國學院大が上尾ハーフで再び生み出した上昇気流
11月15日の上尾シティハーフマラソンでは、國學院勢の強さが目立った。日本人学生歴代10位となる1時間00分45秒の好タイムで優勝した青木瑠郁(4年)だけではない。青木に続きルーキーの野田顕臣、4年生の意地を見せた嘉数純平が入賞を果たし、吉田蔵之介も存在感を見せつけた。
全日本大学駅伝で味わった失意を払拭する快走。箱根本番に向け、勢いを取り戻した。
前編〉〉〉國學院大学・青木瑠郁が覚醒した前田康弘監督の言葉
【ルーキー野田がU20日本新で高らかに存在をアピール】1年生の野田顕臣は、初ハーフマラソンでU-20日本記録を塗り替える1時間01分29秒をマークし、6位入賞。レース終盤からの追い上げには、目を見張るものがあった。持ち味のスタミナを生かし、ぐんぐんとペースを上げた。
「離されても食らいついていく気持ちでいきました。1年なりに少し強さは発揮できたと思います」
出雲駅伝、全日本大学駅伝には出走しておらず、箱根駅伝のメンバー選考を兼ねた11月15日の上尾に照準を合わせていたという。遅れてきたルーキーは強度の高いポイント練習の前にロングジョグを入れるなど、型破りの練習方法で周囲を驚かせながら地道に距離を踏んできた。
「夏以降、ここに向けて、自信を持って臨めるようにひたすら取り組んできましたので」
客観的に見ると、タイム、順位ともに及第点だろう。ただ、本人は現実をシビアに見つめていた。國學院大には試合に出ていない強い先輩たちがまだまだいるという。さらにチームの秘密兵器と明かす同期の存在には刺激を受けている。
「髙石樹(高知工業高出身)は僕より練習で走れていて、今もめちゃくちゃ強いんです。3大駅伝にデビューしていないだけで、かなりの力を秘めています。レースに出ている選手の裏で、頑張っている人たちは多いですね。本当に選手層が厚くて......。自分はメンバーに入るか、入らないかぎりぎりのところです」
上尾では学生トップレベルの力を持つ1位の青木、2位の桑田駿介(駒澤大2年)との差も痛感させられた。
「どれだけ強い選手がいても、がむしゃらについていくつもりだったのですが、まだまだ自分は力不足でした」
それでも、初めて挑む箱根路へのイメージは膨らませている。希望している区間は10区。大舞台に思いを馳せると、自然と声も弾む。
「総合優勝のフィニッシュテープを切るのが、僕の夢のひとつ。1年生から区間賞を取って、チームに貢献したいです」
昨年は福岡の大牟田高校で全国高校駅伝の4区で区間賞を獲得し、準優勝に貢献。都大路の沿道からの声援に何度もガッツポーズで応え、話題にもなった個性派である。大舞台に物怖じしない勝負強さは、前田監督も買っている。
「高校の時から実績を残していて、メンタルが強い。勝負のレースでは絶対に引かないですから。ロングのロードが得意なので、箱根(20km以上)の距離は一番はまると思います。確実に戦力になってきますし、箱根の候補にもなってくるのかなと」
【箱根一本に合わせてきた嘉数が力を証明】一方、4年生の意地を見せたのは、7位入賞した嘉数純平だ。前回の箱根駅伝は6区で出走するなど、スピードに自信を持つ実力者。夏以降は故障の影響で合宿でもほとんど練習できず、出雲駅伝、全日本大学駅伝は回避するしかなかったという。走れない悔しさを覚えつつも、箱根駅伝一本に絞って調整してきた。
上尾の1週間前に体調を崩す、思わぬアクシデントに見舞われたが、大事なレースを欠場する選択肢はなかった。前田監督から出場意思を確認された時もはっきりと「走れます」と伝え、自己ベストを大きく更新する1時間01分30秒でまとめてみせた。
「前田さんから『ここでしっかり結果を出してこい』と言われていたので。結構、プレッシャーはあったのですが、よかったと思います」
ただ、想定外だったのは、最後に後輩の野田に追い抜かれたこと。苦笑しながら振り返る。
「正直、ノーマークだったんです。16km付近くらいで先頭の(青木)瑠郁に離された時、後ろから野田が上がってきて、マジか、と思いました。めちゃめちゃビックリして。ラストに抜き返したかったのですが、ずっと一定の差のままで......。強かったですね」
1秒差で先着された悔しさよりも、どこか呆気に取られているようだった。嘉数もまた野田と同じようなことを口にしていた。戦力の充実ぶりだ。前年度は出雲駅伝、全日本大学駅伝で2冠を達成し、箱根駅伝は総合3位になっているが、それよりもレベルは高いという。
上尾ハーフで1時間02分01秒と好走したチーム内の4番手は、前回の箱根路でアンカーを務めた吉田蔵之介(3年)である。『山区間』に備える選手たちを含め、距離の長い箱根に狙いを定め、調整している選手たちも少なくない。
前田監督はうれしい悲鳴を上げていた。短い調整期間で十分な結果を残した嘉数の走りにも舌を巻き、16人のメンバー選びについては熟考していくという。
「冷静に1回、紐解かないといけませんが、これまでの過去を振り返っても、一番難しい選考になると思います」
上尾の前日に行なわれた日本体育大学長距離記録会の10000mでも伊勢路を走った尾熊迅斗と飯國新太の2年生コンビが28分30秒台と自己ベストを更新しており、あらためて存在をアピールしていた。
4位で終わった全日本大学駅伝のあと、気を引き締め直した國學院大の士気はぐっと高まっている。伊勢の失意から一転、上げ潮ムードで箱根の初優勝を目指す。
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