2025年11月21日、ラスベガスのウィンにて開催されるRMサザビーズのガラ・オークションは、今年の自動車界における象徴的な夜として語り継がれるだろう。F1ラスベガスGPの週末と重なるこの一夜に出品されるのは、ゴードン・マレー・スペシャル・ビークルズによるS1 LMである。わずか5台のみが製造されるこのモデルのうち、すでに4台のアロケーションは世界的なビジョナリーやクリエイター、ディスラプターといった人物たちに押さえられ、一般に開かれた枠はシャシー1番のみ。この夜の落札者が、世界で唯一”購入できるS1 LM”のオーナーとなる。
【画像】希少中の希少な1台、ゴードン・マレー・スペシャル・ビークルズのS1 LMがオークションに!(写真10点)
S1 LMは、1995年のマクラーレンF1 GTRのル・マン制覇三十周年を祝するために生まれた、GMSV初の特別モデルだ。F1 LMを手がけた本人が再び設計したという点でも特別な位置づけにあり、ゴードン・マレーが長年磨いてきた設計哲学を凝縮した車とされている。今回のオークション資料には”過去にマレーの右隣でマクラーレンF1をつくり上げた時代へ戻るような体験””理想の仕様をともに形にする旅”といった表現が並び、落札者がマレー本人やチームとともにS1 LMの最終仕様をつくり上げる機会が与えられることが強調されている。また、ゴードン・マレー・グループのエグゼクティブ・プロダクト&ブランド・ディレクターを務めるダリオ・フランキッティ(インディアナポリス500を三度制した名手)が、オーナーとの協働に深く関わることも示されている。
S1 LMの心臓部には、コスワースと共同開発した専用4.3リッター自然吸気V12が搭載される。最高出力は700馬力超、レッドラインは12,100rpmに設定され、極めて軽量で高回転なユニットとして構築されている。さまざまなモータースポーツ由来の素材と製法を採用し、レスポンスと高密度なパワーを極限まで追求したエンジンだ。これに組み合わされるのは6速マニュアルのみ。S1 LMが目指すのは最新技術の誇示ではなく、アナログ体験の頂点に位置するドライビングフィールであり、その思想を象徴する組み合わせと言える。
車重は957kgを目標としており、GMAらしい徹底した軽量化が図られている。軽さの追求はボディだけでなく、インテリアや構造部品、ミラー類の構成、素材選びにまで及んでいる。また、カーボンファイバーの造形には手作業の工程も取り入れられ、曲面や面の緊張感を彫刻のように整えていくことで、F1 LMの意匠を現代的に再構築した姿へと導かれている。
空力開発はCFD解析を基礎とし、今後風洞実験に進む段階にある。興味深いのは、この風洞テスト自体に落札者が立ち会える点だ。空気が車の上を流れ、揚力とダウンフォースのバランスを取る過程を目前で見る体験は、まさに”所有する前から物語の内側にいる”ことを実感させるだろう。
この車のオーナーになることは単に一台を手にするという意味では終わらない。落札後にはGMSVと直接契約を結び、完成車はイギリス・ウィンドルシャムにて引き渡される。輸入に伴う規制や税金は購入者の責任となるが、アメリカの場合は「ショウ・オア・ディスプレイ」規定の適用が可能で、GMSVが手続きをサポートするとされている。さらに、S1 LMのオーナーは今後発売されるGMA/GMSVのモデルに優先アクセスできる特権も得る。
S1 LMの開発には、マレー自身の個人的背景も影を落としている。病と向き合う過程でこの車の設計に励み、その時間が彼にとって精神的な支えとなったという。現在は寛解を迎え、S1 LMを”レジリエンスの象徴”として捉える思いが語られている点は、自動車の枠を超えた物語をこの一台に与えている。
極めて限られた生産台数、オーナーが車の形成過程に参加できる特別な体験、象徴的なデザインと高回転自然吸気V12、そしてマレーという稀有な設計者の歩みすべてが重なり、このS1 LMを唯一無二の存在へと押し上げている。ラスベガスの夜、この車が誰の手に渡るのか。その瞬間をもって、S1 LMは新たな章へ踏み出すことになるだろう。
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