ニューヨーク発、全米都市に"マムダニイズム"が拡大中!

マムダニ氏はニューヨークにおける家賃上昇を食い止める「家賃凍結」を掲げるなど、有権者の暮らしに焦点を当てた数々の政策で支持を得た

ニューヨーク発、全米都市に"マムダニイズム"が拡大中!

11月22日(土) 9:30

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マムダニ氏はニューヨークにおける家賃上昇を食い止める「家賃凍結」を掲げるなど、有権者の暮らしに焦点を当てた数々の政策で支持を得た

マムダニ氏はニューヨークにおける家賃上昇を食い止める「家賃凍結」を掲げるなど、有権者の暮らしに焦点を当てた数々の政策で支持を得た





ゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長選への出馬を表明した頃からその躍進をいち早く予想、12月下旬に『社会主義都市ニューヨークの誕生』(学芸出版社)を出版予定の矢作弘氏。

龍谷大学名誉教授でアメリカ都市の研究者である同氏が"マムダニNY"の課題と可能性、そしてアメリカで広がる「民主社会主義」の展望を語った!

【マムダニ躍進の背景】 大企業や富裕層への課税強化を行ない、家賃の値上げ凍結や最低賃金引き上げなどで富の再分配を実現すると公約して当選した、ニューヨーク新市長のゾーラン・マムダニ。

グローバル資本主義の中心であるニューヨークで「民主社会主義者」を自任する市長が誕生したのは歴史的な事件です。しかも、この現象は全米に波及する可能性が大いにあります。

民主社会主義とは、「革命や独裁といった暴力的な手段ではなく、選挙を通じた民主的プロセスで社会主義を実現しよう」という立場です。

生活インフラや医療、教育といった暮らしに不可欠な部分を私企業に任せるのではなく、社会全体で運営して人々が公平にアクセスできるようにする。なおかつ大企業や富裕層に高い税金をかけ、その再分配で富の集中を是正していく。

要するに、「公共による所有と再分配」を柱とする政治思想であり、現在のアメリカで支配的な「新自由主義」(自由競争を奨励し、政治の市場介入を否定)とは対立します。

ニューヨークではウォール街や不動産業界がマムダニの政策に危機感を募らせており、トランプ大統領も「共産主義者の狂人」などと何度も罵倒。来年1月の市長就任後は連邦資金の分配カットまで示唆しています。

しかし、トランプのレッテル貼りとは違い、マムダニは選挙戦において社会主義的な理想論を訴えたわけではありません。

マムダニを支持した人々は彼が民主社会主義者だから支持したわけではなく、市民を悩ませる生活苦に対し、「アフォーダビリティ(暮らしやすさ)」の確保を一貫して訴え続けたことに共感して投票しました。それは出口調査からもわかります。

実は、マムダニは圧勝したわけではありません。対立候補のアンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事の41.6%という得票率に対し、マムダニは50.4%と僅差でした。しかし、その中身は大きく違います。



クオモの主な支持層は中高年でしたが、マムダニは主に45歳未満から支持を得ました。特に18~29歳からの得票率は約7割と圧倒的でした。

今のニューヨーク市民の最大の関心事は、候補の政治思想ではありません。物価高や高い失業率に対する対策です。とりわけ家賃高騰はすさまじく、過去5年で2割近く上昇しており、1LDKの平均家賃は日本円で月額約50万円にも達します。

平均的な年収の世帯でも収入の半分以上を家賃に費やさなければ暮らせない街になってしまいました。

だから、その主張が反対派から「過激すぎる」「現実的ではない」と批判されても、将来に不安を抱える現役世代や若年層は「とにかく現状をなんとかしてほしい」とマムダニに投票したのです。

しかも、これはニューヨークに限った動きではありません。同じように社会主義的な主張を掲げる政治家が近年、マムダニ以外にもアメリカの各都市で躍進しています。



【実はトランプもビビっている?】 そのひとりが、マムダニの選挙戦のモデルケースになったといわれる、ボストン市長のミシェル・ウーです。2021年に36歳という若さで当選し、米国内の人口50万人以上の都市で初の東アジア系(台湾系アメリカ人)にして女性の市長となりました。

ウーは社会主義者を自任してはいませんが、貧困エリアの市バス無料化を実現するなど、富の再分配と福祉の充実を重視する点において、マムダニと近い政治的立場にあります。

また、彼女は不法移民対策において反トランプ政権の姿勢を明確にしており、トランプから「あいつは極左だ」というレッテルを貼られている点もマムダニと似ています。

また、マムダニの選挙戦と時を同じくして、シアトルで市長の座を争い、勝利したのが、43歳の女性政治家であるケイティ・ウィルソンです。

市民運動家としてキャリアを積んできたウィルソンも、住宅問題の解決や物価高騰対策を掲げて大きな支持を獲得しました。

そして、こちらも同時期に実施されたミネアポリス市長選では、アフリカ系移民2世で民主社会主義者として活動する、オマール・ファテ(35歳)が現職候補と接戦の末に敗退しました。しかし、得票率の差はわずか数%でした。



このような社会主義的な政策を掲げる若き政治家たちの躍進について、アメリカの高級紙『ニューヨーカー』は、反トランプ政権というだけでなく、民主党の主流派への異議申し立てという側面もあると指摘しました。

マムダニら社会主義的な政治家の躍進に危惧を抱いているのは、保守派だけではありません。本来は味方であるはずの民主党内部からも、「彼らの主張は左に偏りすぎだ」という批判が絶えずあります。

というのも、彼らが支持を得ている選挙区は、伝統的に民主党支持であり、選挙のたびにリベラルと保守に投票結果が揺れる「スイングステート」ではないからです。

ニューヨークのように、もともとリベラルな思想を持つ住民が多いエリアならともかく、中立的な選挙区では、社会主義的な思想は拒否され、選挙で負ける可能性がある。だから、党の中心に据えることはできないというわけです。

一方で、民主党主流派の中道を固持する政治姿勢は、日々の生活に苦しむ人々にとって、煮え切らないものにも映っています。それが近年は民主党が支持を落とす原因となり、トランプの台頭を許してしまったのも事実です。

思えば、トランプも政治思想は真逆ですが、党内の主流派に「過激すぎる」と批判されながら大衆の支持を獲得したという意味では、マムダニと似ています。

当時のトランプは共和党にとっては異端者であり、党内のエスタブリッシュメントからの支持ではなく、有権者の熱烈な支持により大統領まで上り詰めました。

そう考えると、トランプがマムダニを執拗に罵倒する理由も推察できます。トランプはマムダニに〝第二のトランプ現象〟の萌芽を見ているのではないでしょうか。

自分がたどってきた道を、政治的には正反対の相手がやろうとしている。ということは、次に倒されるのは自分だ――そのように感じていたとしても不思議ではありません。

果たして、マムダニが巻き起こしたムーブメントは、アメリカの新たな政治的潮流になるのか。それは今後の市政次第ではありますが、アメリカ政治が重要な局面にあることは間違いないでしょう。

12月下旬発売予定の『社会主義都市ニューヨークの誕生』(学芸出版社)

12月下旬発売予定の『社会主義都市ニューヨークの誕生』(学芸出版社)





取材・文/小山田裕哉写真/共同通信社

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