「時代が変わればルールや戦い方など、あらゆることが変化します。でも王座争いの最後のポイントになるのは人間力。そこは今も昔も変わっていないと思います」と語る堂本光一
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE39
シーズン終盤に入り、マクラーレンのランド・ノリスが勢いに乗っている。第20戦メキシコGPでシーズン6勝目を挙げてポイントリーダーに立つと、続くインテルラゴス・サーキットで行なわれたブラジルGPではスプリントと決勝の両方でポール・トゥ・ウインを達成。
ランキング2位につけるチームメイトのオスカー・ピアストリに24ポイント、ランキング3位のマックス・フェルスタッペンには49ポイントの差をつけた。
そして2025年シーズンのチャンピオン争いはいよいよクライマックスに突入する。第22戦のラスベガスGP(決勝11月23日)を皮切りに、カタールGP(決勝11月30日)、シーズン最終戦のアブダビGP(決勝12月7日)の3連戦が行なわれる。
果たして、アブダビGPが終わったあとに栄冠を手にしているのは誰になるのだろうか!?
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【衝撃的だったレッドブル2台のQ1敗退】ブラジルGPのノリス選手は週末に行なわれたフリー走行、スプリント予選、スプリントレース、予選、決勝の全セッションでトップを取り、今季7勝目を挙げました。まさに完勝でしたね。
8月末のオランダGPの終了時点でピアストリ選手はノリス選手に対して35ポイント差をつけてチャンピオンシップをリードし、このまま独走状態に入るのかという雰囲気もあったのですが、終盤戦に入ってノリス選手の強さが際立ってきました。
ただレースを制したノリス選手よりもインテルラゴスで衝撃的だったのはレッドブルとフェルスタッペン選手です。まず予選で角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手(19位)とフェルスタッペン選手(16位)がともにQ1で敗退したのは驚きでした。レッドブルが2台そろってQ1落ちしたのは2006年以来、実に19年振りのこと。
フェルスタッペン選手に至っては、2021年のロシアGPでパワーユニット(PU)の交換のために最後尾スタートが決まっていたのでタイムアタックをせずにQ1 落ちをしたことはありましたが、トラブルやペナルティ以外でQ1を突破できなかったのは2015年のF1デビュー以来、初めてのことでした。
ですからノリス選手の圧勝劇よりもショッキングだったのですが、決勝での追い上げもすごかった。フェルスタッペン選手はスタート前にマシンのセットアップを全面的に変更しただけでなくPUの交換も行ない、ピットレーンからのスタートを余儀なくされますが、素晴らしい速さを披露して3位表彰台を獲得するのです。
後半戦に入り波に乗るノリス(左からふたり目)は前戦のメキシコに続き、ブラジルでも優勝を飾った。ピアストリは5位に終わり、ノリスは残り3戦でチームメイトとのポイント差を24に広げた
【安定感した力を発揮するメルセデス】フェルスタッペン選手は3位に入り、逆転チャンピオンの可能性を辛うじてつないだ形ですが、レッドブルのマシンはインテルラゴスのような路面が荒れているサーキットはやっぱり苦手なんだと見てとれました。
夏以降、レッドブルは速さを取り戻していましたが、スムーズな路面のサーキットが多かった。そのために車高をギリギリまで落としてダウンフォースを稼ぐことができましたが、バンピーな路面のサーキットになるとマシンのバランスが急に乱れてしまう。
まったく同じことはフェラーリにもいえます。レッドブルとフェラーリのマシンは車高のセッティングがシビアで、性能を発揮する"ウインドウ"が本当に狭い。逆にマクラーレンはその幅が広いことがインテルラゴスで明らかになったと思いました。
ブラジルでは新人のキミ・アントネッリ選手がスプリントと決勝の両方でともに自己最高の2位表彰台を獲得しましたが、メルセデスもどのサーキットでも安定感があります。
メルセデスはマシン底面を流れる空気を利用してダウンフォースを稼ぐグラウンドエフェクトカーが採用された2022年以降、新しい車両規則にうまく対応できず、苦しいシーズンが続きましたが、ここまで持ち直してきました。メルセデスの底力を感じます。
現行の車両規則は今シーズン限りですが、マシンの実力はコンストラクターズ・ランキングの結果順になってきています。どのサーキットでも速いマクラーレンが断トツでトップにいて、それに続くのは飛び抜けた速さはないものの、安定感のあるメルセデス。
レッドブルとフェラーリはコースによっては力を発揮するのですが、ウインドウが狭いので成績に波があり、コンストラクターズ・ランキング2位争いでメルセデスからやや引き離されるという展開になっています。
【誰もが表彰台に上がる可能性がある】インテルラゴスの角田選手は走り始めからグリップ不足に悩まされ、フリー走行が始まった早々にクラッシュを喫し、せっかく投入された新しいフロントウイングを破損することに。そこから負のスパイラルに入ってしまったように見えました。
スプリント予選は18位に沈み、スプリントレースでは予選や決勝に向けてのデータ収集のために、ある意味、"お試しセッティグ"をさせられている感じでした。本人としてはもどかしいところがたくさんあったと思いますが、チームのために仕事をこなしていました。
そういう状況でも結果を出さなければならなかったのですが、決勝ではレース序盤にほかのマシンを接触し、10秒のタイムペナルティを科されます。それを消化するためにピットインした際にクルーがミスをして再びペナルティを科されるという不運が重なり、17位でレースを終えました。
今回のレースも決勝のペースは良かったと思いますが、週末を通して流れが悪い。ひとつのきっかけ、流れをつかんでくれれば、ポンッといい結果が出ると思うのですが......。同じことはピアストリ選手にも言えると思います。
マクラーレンがノリス選手を優遇しているとか、ピアストリ選手がタイトル争いのプレッシャーで力を発揮できなくなっているとは僕には思えません。
現行のレギュレーションで最終シーズンとなりマシンが成熟し、各チームのマシンの差は縮まってきています。誰もが表彰台に上がる可能性があり、誰もが予選のQ1で敗退してもおかしくないという状況になっています。
ちょっとしたことで歯車がかみ合わず、そこで流れに乗れないと、天国にも地獄にもなるのが今のF1だと思います。ファンとしてはメチャクチャ面白いので、できることならこのままのレギュレーションでもう1シーズン続けてほしいぐらいです(笑)。
そんな中でも突出した才能を持つフェルスタッペン選手と、勢いに乗るノリス選手はマシンのポテンシャルを引き出して、この終盤戦で結果を出し続けているように見えます。
【最後まであきらめずに戦うことが今後につながる】ブラジルGPが終わり、2025年シーズンのF1は残り3戦となりました。ついこないだ開幕して、角田選手がレッドブルに移籍することになり、ワクワクしながら日本GPに行ったという気がするんですけどね(笑)。時間が経つのは本当に速い。
チャンピオン争いはポイントリーダーのノリス選手とピアストリ選手の得点差は24、フェルスタッペン選手との得点差は49となっており、ノリス選手が圧倒的に有利です。でもノリス選手がラスベガスGPからの3連戦で1回でもリタイアすることがあったら、タイトル争いの行方はわからなくなってきます。
ここまで来たら、もう結果うんぬんよりも、ドライバーの持っている人間力というか、やっぱりこのドライバーはすごいと思わせるような走りを見せられるかどうかが大事だと思います。
僕が印象に残っているチャンピオン争いのひとつは、2006年の最終戦ブラジルGP。当時フェラーリに所属していたミハエル・シューマッハ選手の引退レースで、彼は優勝しなければ逆転チャンピオンになれませんでした。
ところがそんな状況で、レース序盤にほかのマシンと接触してタイヤがバーストしてピットインを余儀なくされ、ほぼ周回遅れとなってしまった。誰もが万事休すだなと思いましたが、シューマッハ選手はあきらめませんでした。
そこから凄まじい追い上げを見せて、表彰台まであと一歩まで迫る4位でフィニッシュしたのです。最後まであきらめない姿に心から感動しました。
シューマッハ選手は結果的にはタイトルを獲ることができませんでしたが、ピアストリ選手やフェルスタッペン選手にもそういうレースを期待してしまいます。
角田選手もそうですよね。フェルスタッペン選手のタイトル獲得と、レッドブルのコンストラクターズ・ランキング2位のためにしっかりと貢献することが彼の使命です。最後まであきらめずに戦って、今後につながるレースをしてほしいです。
☆取材こぼれ話☆2026年の日本GPの観戦チケットは10月中旬に発売されたが、すぐに指定席がほぼ完売した。
「すごいですよね。でも僕の周りではそんなにF1の人気が盛り上がっているような雰囲気はないけどなあ(笑)。ブラッド・ピット主演の映画『F1/エフワン』の影響も大きかったようですが、僕も遅まきながら映画を見ました。
まずF1のチームやドライバーがシーズン中によくここまで全面協力して映画を作ったなあと、そこに感心しました。僕が日本版の声優を務めた『ラッシュ/プライドと友情』(2014年公開)は1970年代のニキ・ラウダとジェームス・ハントのチャンピオン争いをテーマにしたものです。現代F1をテーマにしてあれだけの作品をシーズンと同時進行で製作したのはすごいことです。
ただ僕が気になったのは前半に出てきたマシンのサイズですね。映画にはメルセデスが協力し、F2のマシンを改造していたそうですが、横幅が小さいなあと(笑)。そこだけは残念でしたが、本当にいい作品でした。ラスベガスGPからF1とディズニーのコラボ企画がスタートするらしいので、それも楽しみです」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD)衣装協力/AKMヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛撮影/樋口 涼(堂本氏)写真/桜井淳雄
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