人生に迷ったとき、元気がほしいとき、あるいはただ日常を忘れて泣きたくなるとき――そのような瞬間にそっと寄り添う存在がアニメである。アニメには人生のヒントや生きる力が詰まっている。
本コラム『アニメ大先生』は、「人生で大切なことはすべてアニメが教えてくれる」をテーマに、アニメを通じて得られる学びや気づきを綴る連載である。
【連載第13回】異色のグルメコラム! 9度目の登板となる八木美佐子アナが今回メスを入れるのは、『クレヨンしんちゃん』の公式スピンオフ『野原ひろし 昼メシの流儀』。日頃から食レポで舌を磨くアナウンサーの鋭い目線は、アニメ内の「食」をどう捉えるのか?独自の視点から、大人のグルメアニメが持つ魅力を語る。
◆アナウンサーお墨付き!食リポ真骨頂の『野原ひろし 昼メシの流儀』
最近、あるものを見つけました。新人アナウンサー時代に自分で作っていた『食リポノート』です。局アナ時代は食リポのロケが多く、食べた感想に使えそうなフレーズを、気になるたびに書き溜めていました。きっと今の私にとっても心強い虎の巻に違いない――そう期待してページをめくりました。
「海の宝石箱や~!」
「お肉のIT革命や~!」
そこに並んでいたのはグルメリポーター・彦麻呂さんの名フレーズ。もはや『食リポノート』というより『彦麻呂ノート』でした。私はページをそっと閉じました。
そんな私が今、グルメ界にぜひ推薦したい人物がいます。野原ひろしです。
『野原ひろし 昼メシの流儀』は、『クレヨンしんちゃん』でおなじみの父ちゃん・野原ひろしの”ランチへの情熱”に焦点を当てたアニメです。お小遣いと昼休みをやりくりして、束の間の幸せを楽しむサラリーマンの姿が描かれます。
例えば本格カレー店では、周りの女性グループの会話をさりげなく盗み聞きし、「辛いほうが多分モテる」という理由だけで超激辛を選択します。
しんのすけなどお馴染みの家族は登場せず、本編とは一歩距離を置いたスピンオフだからこそ、ひろしの等身大のかっこ悪さとかっこよさが際立ちます。
面白いのは、その”昼メシ”の魅せ方です。料理が登場した瞬間、画面いっぱいに本物の実写がバーンと差し込まれます。湯気やツヤがダイレクトに訴えかけてきて、夜中に観るのは危険なほどお腹が空きます。
そんなビジュアルの説得力に負けないくらい、ひろしの食リポも見事です。彼は決して難しいグルメ用語は使いません。私は自認「彦麻呂さんの弟子」(?)として、味をうまく例えることに命を懸けていましたが、「長すぎる」とディレクターさんに言われたこともありました。ひろしは「うまい~!」など簡単な言葉でも表情が豊かで、観ていると引き込まれるのです。
カメラを意識すると、咀嚼のタイミングやコメントの間合いすら迷っていた新人時代の私に観せたい作品でもあります。当時の『彦麻呂ノート』に書き足したいところです。となると、晴れて『ひろし&彦麻呂ノート』に改題になります。歌手グループ「ヒロシ&キーボー」みたいですね。
ひろしの”昼メシの流儀”とは、店でメニューを眺めて作戦を立てること、全力で味わうこと、そしてその一食が仕事の活力になると信じること、だと思います。そこには「家族のために働く父親」としての誇りと、「昼休みのなかで自分を労わる」視点が一貫しています。自分のために選んだ一食を丁寧に味わうことが、その日の自分を肯定する小さな儀式になっていくのかもしれません。
当たり前だけれど、つい後回しにしがちな「食べること」は「生きること」。笑えて、お腹が鳴って、働く自分を少し労わりたくなる――『野原ひろし 昼メシの流儀』は、食べることの尊さを思い出させてくれるアニメです。
【関連写真】八木さんの「昼メシの流儀」を写真でチェック!
【関連記事】
・【アニメ大先生】『ガンダムW』色褪せないメッセージが熱い!30年目の“エンドレスワルツ”
・【アニメ大先生】リマスターで蘇る押井守監督『天使のたまご』余白が生む美学
・【アニメ大先生】良いアニメに国境はない!中国アニメ映画『羅小黒戦記2』を日本人にも見てほしい理由
・【アニメ大先生】注目秋アニメ!「強さの意味」を問う一撃『ワンパンマン』
・【アニメ大先生】切ない青春が大爆発!劇場版『チェンソーマンレゼ篇』