星野伸之の若手サウスポー考察セ・リーグ編
2025年の新人王が間もなく発表される。投打の若手が予想される中で、セ・リーグはサウスポーも何人か候補に挙がっている。そんなセ・リーグ注目の若手左腕について、長らくオリックスのエースとして活躍し、移籍した阪神でも開幕投手を務めた左腕で、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に印象を聞いた。
ルーキーながら5勝、1ホールドの成績を残した阪神の伊原photo by Sankei Visual
【阪神のドラ1ルーキーは「ベース上の球が強い」】――まず、阪神のドラフト1位ルーキーのサウスポー、伊原陵人投手についてお聞きします。28試合に登板し(先発17試合)、5勝7敗1ホールド、防御率2.29の成績を残しましたが、ピッチングをどう見ていましたか?
星野伸之(以下:星野)シーズン序盤はリリーフで使われていましたが、そこで合格点のピッチングを見せて先発ローテーションに入りました。今年の阪神の春季キャンプでブルペンを視察した時、現場のスタッフにどんな感じのボールを投げるのかを聞いたら、「ベース上の球が強いんです」と言っていたんです。
シーズンに入ってからのピッチングを見ても、バッターが振り遅れていましたし、確かにベース上でボールが伸びている感じは見受けられました。ただ、シーズンが進み登板数が増えるごとに徐々に疲れがたまっていったんでしょうね。シーズン終盤は右バッターに対してのクロスファイヤー(利き腕と対角線上のコースに投げ込む真っ直ぐ)をカットされたり、ヒットにされたりしていました。
そうなった場合にバッターを打ち取るために重要なのが、「アウトローをどれだけ攻めきれるか」ということになるのですが、そこは来シーズンへ向けて今後の課題のひとつですね。
――ピッチングのテンポもいいですし、足を上げるタイミングを少し変えるなど、いろいろな工夫も見えます。
星野そうですね。それと、ルーキーで普通にやれている、戦力になっていることはすごいですよ。プロで何年も投げているような雰囲気がありますね。バッター目線でボールの出どころが見にくい感じもありますし。ただ、一番印象に残っているのは、やはりベース上のボールの強さです。球速はそこまで速いわけではないのですが(今季の最速は147キロ)、少し甘いボールでもけっこうファウルをとれていましたから。
――今シーズンは先発もリリーフも経験していますが、それぞれに適正を感じますか?
星野先発でもリリーフでも、浮き足立つことなく自分のピッチングができているように感じます。シーズン序盤にリリーフで使われ始めた頃からしっかり抑えていましたし、準備の仕方なども上手なんじゃないですか。
ただ、2イニング投げた試合のあと、中1日で1回1/3を投げさせたりしていたので、「こんな感じで使うのか」とちょっとびっくりもしました。「藤川球児監督は、伊原の肩のスタミナがどれくらいあるのかを見ていたのかな」とは思っていましたけどね。結果的には回またぎを含めてリリーフで6試合投げ、それをクリアした直後に先発ピッチャーとしての調整に入っていましたから(4月20日に初先発。初勝利を挙げた)。
――ストレートのほか、カットボール、スライダー、チェンジアップなど多彩な変化球を操りますが、印象的な球種は?
星野やはりストレートですね。先ほどベース上での強さがあるというお話をしましたが、実際に強かった。リリーフの時もずっと点を取られませんでしたし、「ハートも強いんだろうな」と思っていました。今年の経験を糧に、来シーズンはさらなる飛躍が期待できるピッチャーです。
【ヤクルトのドラ3ルーキーは「大胆に投げる」】――次にヤクルトのドラフト3位ルーキーの荘司宏太投手についてお聞きします。今季45試合に登板し、2勝1敗28ホールド、防御率1.05と抜群の安定感を見せました。ピッチングの印象はいかがですか?
星野今のリリーフは150キロ台中盤から160キロ近いストレートを投げるピッチャーも増えてきましたので、荘司のストレート(今季最速148キロ)が速いかといえばそうではないのですが、彼は腕の振りがいい。なので、コースが甘いボールでもバッターが差し込まれてファウルになるケースがよく見られました。
それと、あの狭い神宮球場でこれだけ多くの試合を投げていて、防御率1.05は立派な成績です。少々甘くなっても「腕だけはしっかり振っていくんだ」という意識が高いのかもしれません。
――真上から力強く腕を振り下ろす投球フォームが特徴ですね。
星野日本やメジャーでも活躍した岡島秀樹ほどではないですが、頭を振りながら投げるタイプですね。どの球種を投げる時でも、頭を振りながら腕を真上から強く振り下ろすので、チェンジアップ(被打率.145)も効きます。
スライダーやカーブもたまに投げますけど、ストレートの被打率(.083)も低いですし、このふたつの球種だけでも十分だと思います。まだプロの経験が少ないルーキーという利点もあるのかもしれませんが、とにかく大胆に投げることができるピッチャーですね。
体格もいいですし、マウンド度胸もある。プロ1年目とは思えない風格も感じます。来シーズンはまたゼロからのスタートになると思いますが、今オフの過ごし方も大事になってくるでしょうね。ヤクルトの首脳陣にとっては、すでに計算できるピッチャーのひとりだと思います。
(パ・リーグ編:注目する若手左腕オリックス曽谷龍平は「もっとピッチングの幅を」>>)
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000奪三振を記録している。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。
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