初のフルシーズンでさらなる高みを目指す19歳の瀬川琉久 photo by B.LEAGUE
前編:瀬川琉久(千葉ジェッツ)インタビュー
京都・東山高校3年生だった昨シーズン途中、プロ契約で千葉ジェッツに加入。4月以降は先発として強豪のポイントガード(PG)として堂々たるプレーぶりを見せ、そのポテンシャルの高さを示してみせた。フルで戦う2025-26シーズン、瀬川琉久(せがわ・りく)はどのような躍動を見せるのか。
先日、11月下旬から行なわれるFIBAワールドカップ2027アジア地区予選Window1の日本代表チーム・直前合宿メンバーにも選出された。日本代表として世界の舞台での活躍とNBA入りという高い目標を持つ19歳に、自身の現在地やバスケットボール観について語ってもらった。
【開幕からここまでは、納得がいっていません】
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昨シーズン途中(2025年1月)からBリーグ入りした瀬川選手にとって、2025−26はフルで戦う初めてのシーズンです。チームはここまで故障者も少なく好調を維持していますが、自身のプレーにはどのような評価を与えていますか。
「正直、開幕からここまでプレーをしてきて、自分では納得がいっていません。プレータイムも思ったようには伸びていないですし、スタッツに残ったと言えるような結果もなかなか出せていません。ちょっと、こう、迷っている部分はあるんですけど、この間の(11月5日のシーホース)三河戦では少し余裕を持ってプレーができて、吹っきれたなと思っています(13分02秒の出場で6得点、2アシスト、3リバウンドでチームの勝利に貢献)。これからが本当の勝負だと思っていますし、あとは代表活動があるので、もっと自分をアピールしないといけないと思っています」
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納得がいかないというのは、フルシーズンを戦う立場だからこそ感じているところでしょうか。
「うーん、どうなんですかね......昨シーズンは(正PGの富樫)勇樹さんがケガをして、自分がファーストオプションくらいの感じでやっていて、自分が攻めることに対してあまり抵抗がなかったというか、自分がやらなければ誰がやるんだ、くらいだったので思いきってプレーができたと思います。ただ、今シーズンは勇樹さんも健康にプレーをしていますし、また昨シーズンとは役割が違うなかで『こんなふうにやってもいいのかな』とか、(元NBAドラフト1巡指名のナシール・)リトル選手が新たに来たこともあり、彼を生かしていかないといけないとか、いろいろ考えすぎている部分はあると思います」
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昨シーズンはおっしゃるとおり、終盤に富樫選手の故障があり、その間、瀬川選手に出番がめぐってきて、先発出場をする試合も続きました。それにより当初描いていた成長の過程が早まった、または早まったぶんより早く成長しないといけないという思いにはなったのでしょうか。
「そうですね。加入する前は正直、まずロスターに入ることに苦労するだろうと思っていました。そう簡単には試合に出られないだろうし、見て学ぶことが多くなると思っていたので、思っていた以上に早いタイミングでプレータイムをもらいましたし、思っていた以上に結果を残したところがありました。周りからも昨シーズンを超える活躍を期待されている部分はあるので、そこに対するプレッシャーは結構あります。
昨シーズンは環境に恵まれていて、自分が成長したからといより、チャンスをものすごくもらえたからこそ、あれだけの結果が残せました。そこへのプレッシャーはたくさんあるので、早く成長して、ちゃんと自分の力で結果を残せる選手になりたいと思うようになりました」
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今シーズンの出来には納得いっていないとのことですが、プロ入りからここまでの手応えとしてこの世界で通用していると感じているのか、あるいはまだまだだと感じているのか、どちらでしょうか。
「通用しているか、していないかでいうと、どこを目指すかによって、全然、違うと思います。Bリーグの選手になりたいという目標であれば、通用しているというふうに思います。ただ、自分はそこではなく、日本代表や世界を見ながらやっているので、周りの人たちは『すごいね』とは言ってくれるんですけど、自分のなかでは全然、まだまだやらなきゃいけないことがたくさんあるなと思っています」
【廉さんとしゃべるときは関西弁です】
チームメートにも物怖じせずに声がけする瀬川(左。中は金近、右はリトル) photo by Yutaka Makino
――
少し脱線します。瀬川選手は関西出身ですが、話を聞いていると、関西弁は出ないのですね。
「敬語になると標準語になるんですよ。タメ口だと関西弁になるんですけど」
――
チームには同じく関西出身の金近廉選手がいますよね。
「ああ、廉さんとしゃべるときは、もう関西弁です」
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そうなのですね。記者会見など、取材では関西弁で話しているのを見たことないです。
「変じゃないですかね?敬語で関西弁は」
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見てみたいとも思います。キャラクターがより出るかもしれないので。
「僕は、標準語でいかせてもらいます(笑)」
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失礼いたしました(笑)。瀬川選手は高校時代からトップ選手で認知度の高い選手ですが、そこからジェッツという強豪であり、人気のあるクラブに入りました。そうした環境に身を置くと高い目標へ向かっていくという部分おいて、人によっては自分を見失ってしまうかもしれません。瀬川選手はそうならないように戦っている部分があるのでしょうか。
「そうですね。自分を見失ってしまう人っていうのは、自分の軸を持っていない人だと思うんですよね。自分は小学校からバスケットをやっていますけど、親の教育もあって自分というものを常に持つ習慣が、身についていると思っています。もちろん自分がどうすべきかわからないときも、これまでたくさんありました。そのなかで、自分の軸は何か、自分とは何かっていうところにたどり着けるように努めていますし、それは今もできています。そこに関しては、常に自分と向き合うことだけを意識してやっています」
――
瀬川選手には物怖じをしない印象を持つ人たちが多いのではないかと思います。渡邊雄太選手なども瀬川選手について「自分がその年齢の頃には考えられないくらい、いい意味で生意気」だと言っていました。ご自身ではその自覚はありますか。
「いやあ、みんな物怖じしないって言ってくれるんですけど、物事に対しても、めちゃめちゃ怖がりですよ。例えば短期間だけ海外へキャンプに行くとなったときでもめちゃめちゃ緊張しますし、めっちゃ準備しちゃうんですよ。ほかの人なら『行ったらなんとかなるやろ』っていう感じでも、僕はいろいろ調べてから行きます。正直、自分がなんでそう言われているのか、あまりわからないところがあります。
ただ、物事に慣れるのが人よりちょっと早いんじゃないかとは思っています。今はそこまでしませんが、(プロ入り後)最初の頃はコートに立つ前のベンチでは緊張していたんです。でも、コートに立ってしまえば緊張はなくなるので、慣れるのはちょっと早いんじゃないかと思っていますし、だから物怖じしないように見えているんじゃないでしょうか」
――
ほかのことではともかく、バスケットボールの時にはスイッチが入るんじゃないですかね。
「かもしれないです」
【自分のためになることに対しては躊躇がなくなる】
瀬川は守備も積極的。PGではBリーグ第9節終了時点で3位(平均0.5)のブロックショットをマークphoto by Kaz Nagatsuka
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渡邊選手がそのように言うのも瀬川選手のコート上での態度やプレーぶりを観察してのことだと思いますが、実際、コートに立てば怖いものがなくなる感覚はあるのではないでしょうか。
「そう言われると確かに、僕は自分が得をするというか、自分のためになることに対しては躊躇がなくなるというのはあります。たとえば練習でも遠慮せずに得点を取りにいく。それって自分にとってはプラスじゃないですか。でも、なかにはちょっと気を使ってしまう人もいる。僕の場合は自分の成長につながるものに対しては前向きにやれる性格なんじゃないか、だからこそ周りからすればそういうふうに見えるのかもしれません」
――
司令塔のPGを担っていることも、若いからといって引いていてはダメだという意識になるのではないでしょうか。
「それはものすごくありますね。一番最初に(ジェッツで)練習をした時に、やっぱり遠慮をしている自分がいたのですが、そういうのはチームに浸透してしまうと思うんですよね。浸透してしまったあとに自分を出していくのは結構、難しいと思っていたので、最初は無理をしてでもコミュニケーションを取ったり、先輩に『もっと、こうしてください』と要求することは意識しながらやっていました」
――
2年目のシーズンですが、味方がミスなどをしたら怒るまでいかないにしても、より強めに指摘したりするのですか。
「いや、自分はそんな怒ったりはしないですね。自分も怒られるのは嫌いなんで(笑)。あんまり怒らない......怒らないというか、試合中に言うのはいいと思うんですけど、(怒っても)いいことってあまりないじゃないですか。お互い、気分がネガティブになっちゃうので。だから試合中はできるだけポジティブな声がけをしようと思っています」
つづく
Profile
せがわ・りく/2006年8月14日生まれ、兵庫県出身。小学校時代からバスケットボールを始め、全国ミニバス、全国中学、ジュニアウィンターカップとそれぞれの全国大会を制覇。東山高校(京都)に進学後も1年時から主力として活躍し、3年時には夏の全国高校総体(インターハイ)優勝の原動力に。2024年にはU18アジア選手権日本代表に選出され、チームのベスト8進出に貢献した。2025年1月に千葉ジェッツに加入。主力にケガ人が続く状況のなか、4月以降は先発PGとして起用され、CS(チャンピオンシップ=プレーオフ)でも全5試合に出場を果たし、Bリーグの最も印象に残った選手に贈られるMIPを受賞した。卓越したボールハンドリング技術とキープ力、得点力、守備力を備えた万能性が特徴。
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