1991年のブラジルGPを制したマクラーレンMP4/6が、ついにオークションの舞台へ姿を現すことになった。アイルトン・セナが悲願の母国初勝利を挙げた際に駆ったシャシーそのもの、MP4/6/1。落札見積価格は1200万〜1500万ドルとされ、希少価値の高さを象徴している。
【画像】F1の歴史の中でも特に注目を集めるモデル、アイルトン・セナが駆ったマクラーレンMP4/6(写真11点)
MP4/6は、F1の歴史の中でも特に注目されるモデルだ。ホンダ製3.5リッターV型12気筒エンジンを積み、13800rpmまで吹け上がるこのユニットは720馬力を発揮する。カーボンモノコックと6速マニュアルを組み合わせたシャシーは、現代のハイブリッドF1マシンとは別世界のフィーリングを持ち、1990年代初頭のフォーミュラカーの魅力をそのまま体現している。V12と手動変速機を備えたマシンが世界選手権を制したのは、このMP4/6が最後であり、技術史的にもひとつの区切りを示す存在だ。
シャシーMP4/6/1はシリーズ最初の個体で、1991年2月にはセナ自身がテストを行っている。エストリルでの試走は、その年の戦いに向けた重要な準備のひとつとなり、新型マシンのフィーリングを最初に確かめた歴史的な瞬間でもあった。その後、セナは同年ブラジルGPでこの車を駆り、ついに母国での初優勝を果たす。雨のインテルラゴス、ギアボックスにトラブルを抱え、終盤は実質的に6速固定になりながらも押し切った姿は、ファンの記憶に深く残っている。
とはいえ、今回の記事の中心に据えるべきなのは、そうした過去の栄光だけではない。むしろ、この個体がオークションに出品されるという事実こそが最も重要だ。レース後、マクラーレンはこの車を約30年にわたり保管し続け、社内の歴史的資産として扱ってきた。2020年に現在のオーナーへ譲られる際には、マクラーレン・ヘリテージがレース走行可能な状態にまで完全整備を施し、販売後もランザンテが点検とスタートアップを担当するなど、コンディション維持に細心のケアが払われている。
オークションへ向けて、MP4/6/1は再びランザンテによる最終チェックを受け、動態保存のまま次なるオーナーへ引き継がれる予定だ。さらに、マクラーレンの真正証明書をはじめ、外部スターター、燃料プライマー、エンジンプリアヒーターなど、V12エンジンの起動に必要な装備一式が付属する点も見逃せない。F1マシンの動態保存は専門的な設備が求められるため、これらの付属品は将来の管理において大きな意味を持つ。
アブダビ・コレクターズウィーク(12月2〜5日)に展示された後、この車は世界中のコレクターの視線を集めることになるだろう。フォーミュラカーの市場では、有名ドライバーのマシンにロードカーでは考えられないような価値がつくことも少なくないが、とりわけセナゆかりの個体は過去の取引からも高値傾向にある。だが、今回はそれ以上に「セナの母国初優勝車」という点が特別で、さらに「シリーズ1号機」「長期にわたりメーカー保管」という希少性が加わることで、類似する個体がほぼ存在しないという唯一性が際立っている。
MP4/6が1991年シーズンに残した戦績は、8勝、コンストラクターズとドライバーズ双方のタイトル獲得という明確な実績であり、その中心にあったのがセナの走りだった。そのキャリア最後のタイトルを支えたマシンという意味でも、MP4/6は歴史的な価値を持つ。だが、その中でもシャシーMP4/6/1は、特定の一戦を象徴する個体であり、コレクションとしての魅力はさらに深い。
今回の出品は、単に希少車を市場に放出するというコマーシャルな意味を超えて、「メーカーが守り続けた重要な車が個人の手を離れ、再び新たな場へ向かう」という点が非常に大きい。マクラーレンの手元を離れることがほとんどなかった車両であるだけに、こうした機会はきわめて限られている。セナゆかりの車両は世界的に需要が高いが、実際に市場に姿を見せる機会は数年に一度あるかどうか。その中でも、これほど純粋な形で歴史を宿した個体が出品される例はきわめて稀だ。
落札見積価格1200万〜1500万ドルという数字は、そうした背景を反映している。単に”高額”というよりも、希少性と保存状態、由来の確かさを踏まえた自然な評価額といってよい。オークションでは競争が激しくなることも考えられ、この額に収まるのか、それとも上振れするのかは注目されるところだ。
今回の出品は、F1の黄金期を象徴する一台がふたたび公の場に姿を見せる貴重な機会となる。長年大切に保存され、適切なメンテナンスを受けてきたMP4/6/1が、次の所有者のもとでどのように扱われ、どのような未来を歩むのか。その行方は世界中のファンやコレクターにとって大きな関心事であり、1991年のインテルラゴスで刻まれた物語が、これから先も新たな形で受け継がれていくことを期待したい。
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