急増する出没・人的被害。ライフル銃解禁は対策の切り札になるのか!?
11月13日から解禁された、クマ駆除における警察官のライフル銃の使用。これを効率良く運用するには、どういった技術や装備が必要なのか?元警察官で機動戦術部隊(通称・RATS)に所属していた田村忠嗣(たむら・ただし)さんにお聞きします!
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【警察の特殊部隊でも対クマ訓練は未経験】
11月13日から、クマ駆除において警察官によるライフル銃の使用が可能になった。警察官がライフル銃を運用することは、国内のクマ対策の決定打となるのか?そこで、今回お話を聞いたのが、元埼玉県警機動戦術部隊(通称・RATS)の田村忠嗣さん。
ゴリゴリの元特殊部隊員で現在は「田村装備開発」で警察・自衛隊などプロ向けの装備品開発を行ないつつ、YouTubeチャンネル『ガチタマTV』では最新の戦技や海外のハンター事情なども紹介。警察以上に見識の広い田村さんが考えるクマ対策を紹介します。
――今回、ライフル銃を扱う警察官2人、そのサポートに2人というチーム構成が明らかになっています。この人員についてどう見ますか?
田村
正直、厳しいでしょう。
――でも、ライフル銃を扱うのは銃器対策部隊の隊員。それこそ、サミットでの対テロ警備、空港や原発警備も行なう特殊部隊員なのでは?
田村
警察の特殊部隊は〝対人〟を想定した訓練を行なっています。これに関しては優秀ですが、対クマを想定した訓練はありません。現在、現場に派遣された隊員らが急ピッチで地元猟友会のハンターから指導を受けていますが、クマの駆除を想定した技術を習得するには時間がかかり、隊員数も足りないでしょう。
――隊員数は何人ぐらいが理想ですか?
田村
最低でも10人。例えば、ライフル銃の射手2人、彼らに射撃の指示を出す観測手が2人。そして数人に槍を持たせます。
――槍って......。警察官なら拳銃を持っていますよね?
田村
市街地に侵入したクマと対峙する場合は、初弾命中が極めて重要となります。もし、初弾でクマの脅威を排除できなかった場合、クマに対して追加の発砲を行なうと、射線の関係上、市民を危険にさらす可能性があります。
クマが警察官に突進してくる場合は、最後の手段として槍などが必要なのです。
――そもそも、クマ相手に接近戦なんて無謀なのでは?
田村
クマ猟の経験のあるハンターに聞くと、「クマは銃声に対して逃げるのではなく、そこに向かってくるケースが多い」と言います。なので、そこを数人の隊員が槍で突くという戦術になります。
そして、ライフルを持った隊員が森林でクマと接近戦を行なう場合は、照準は雑でもいいのでとにかく反射的に撃つ「インスティンクト射撃」の訓練が必要です。こういった訓練は警察の特殊部隊でもほとんど行ないませんが、近距離戦闘では素早く射撃できる技術が重要となります。
出合い頭に接敵した場合の技術であるインスティンクト射撃を行なう田村さん
田村さんが着用するのは襟が高く設定され、全身に対刃物性能を持った高性能防護服「AIGIS-CQC」。このような射撃技術やアイテムもクマ駆除に有効なはずだ
――では、警察に足りない装備とは?
田村
弾薬です。警察や自衛隊が使用する弾薬の多くは人間の体を貫通しやすいタイプでクマへの効果は薄い。海外でクマのような大型の生物を狩猟する場合は、弾着時に体内で弾頭が変形して広範囲でダメージを与えるホローポイント弾を使用するのが常識です。
しかし、ハンターはこの弾薬を使用できますが、警察や自衛隊は法的に使用が難しい。なので、行政がホローポイント弾を管理し、クマ駆除時に限定的に使用できるようにするといった法整備も必要でしょう。
――弾薬以外にも必要な装備品はありますか?
田村
夜間用の暗視装置、熱源を検知してそれを映像化するサーマル光学照準器などが有効に使える装備品となります。
そして、ドローンです。サーマル光学機器を搭載したドローンで索敵することで、効率良くクマの発見・追跡が行なえます。ただし、これらは警察には十分に配備されておらず、ライフル銃と同じで扱える隊員も限られています。
田村さんが開発した「クライシスナイフ」。これを棒に取りつけ、槍として戦うことも可能
「TTGD携行止血帯」は、出血時にマストなアイテム
――では、警察の特殊部隊隊員をクマ駆除に大動員するというのは?
田村
警察の特殊部隊が配置されるのは政府機関や空港などの超重要拠点のある地域になります。「◯◯県警の特殊部隊隊員◯人、クマ駆除に派遣」と報道されたら、国内のセキュリティ的には大問題なので難しいでしょう。
――実は、クマ駆除は自衛隊に担当してもらうのが正解?
田村
圧倒的に自衛隊です。一部の警察特殊部隊を除き、多くの警察官の射撃練度は低く、自衛隊員とは大きな差があります。そして、自衛隊には大口径ライフル、ドローンや各種光学機器もそろっています。
ただ、現役の自衛官であっても狩猟経験のある人間は少ない。やはり、対人と対クマでは気配の感じ方や立ち回りがまったく異なるので、自衛官であってもハンターの指導が必要不可欠だと思います。
――現在、ハンターの不足や高齢化も問題となっています。これに対する考えは?
田村
現役の警察官や自衛官、そのOBなど射撃経験のある人間には「狩猟免許」や「銃砲所持許可」の取得を簡易化する制度が必要だと思っています。例えば、新米のハンターがクマ駆除で使用するライフル銃を所持するには、現状では特例を除き10年近くかかります。
現在、弊社の自衛隊OBが狩猟免許を取得しようと講習に通っていますが、高齢の競技射手が不用意に銃口を人に向けるなど銃の取り扱いがあまりにもずさんだと嘆いていました。こういった問題点も、最新の銃火器に関する取り扱いに長けた自衛官が加わることで解消できるでしょう。
――最後に狩猟と深い付き合いがある、田村装備開発取締役兼農家の田村憲道さんがクマ駆除の現状を語ってくれた。
「昔はクマ狩りで食ってたハンターがいっぱいいたし、私のような農家は本当に感謝していました。ただ、近年は狩猟では生活できません。それこそ高い弾薬は1発1500円以上します。射撃練習も気軽に行なえず、若いハンターを育てる環境になっていません。
また、昔は〝穴狩り〟と呼ばれる冬眠中のクマを撃つ猟も盛んでした。こういった狩猟方法も現代のナビゲーション技術と融合して進化させれば、より効率的な駆除ができると思っています」
クマ駆除には、警察や自衛隊の協力、そしてハンターの経験を生かした官民一体の新制度の導入が必要かと!
取材・文・撮影/直井裕太写真/時事
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