高齢者の”孤独死”なくしたい! カギは「シェアハウス」「二拠点居住」、不動産会社イチイが孤独・孤立に挑む

(画像提供/たぬきち商事)

高齢者の”孤独死”なくしたい! カギは「シェアハウス」「二拠点居住」、不動産会社イチイが孤独・孤立に挑む

11月18日(火) 7:00

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外国人の賃貸住宅サポートで知られるイチイは、高齢者の住まいの問題にも早期から注目してきました。住宅だけでなく、地域との繋がりや住民同士の関係性に着目し、支援団体と連携した活動が高く評価されています。イチイの代表取締役である荻野政男(おぎの・まさお)さんに、高齢単身者の孤独・孤立を防ぐためのコミュニティづくりについて詳しく伺いました。

高齢単身者の賃貸住宅への入居は断られてしまいがち

高齢単身者が賃貸住宅へ入居しづらい背景には、いくつかの理由があります。
まずは「孤独死」の問題。オーナーも不動産会社も、孤独死によって告知義務が発生して入居者募集の際に賃料低下を余儀なくされたり、特殊清掃や残置物処理の負担が増えたりすることを恐れて、高齢単身者の入居を避ける傾向があるのです。また、入居者が意思能力喪失、いわゆる認知症になった場合、意思疎通が難しくなることに対する拒否感もあります。

連帯保証人・身元保証人を立てられないことが問題になることも。

「連帯保証人の代わりに家賃債務保証会社を活用するのはいいのですが、家賃の問題だけではなく、何かあった時に対応できる身元保証人がいないことが問題です。身元保証人がいない高齢者を入居者として受け入れるのは、オーナーや不動産会社にとって非常に負担が大きいと言えます」(荻野さん、以下同)

高齢者が賃貸住宅を借りられない背景には、オーナーや不動産会社の懸念や負担がある(画像提供/イチイ)
高齢者が賃貸住宅を借りられない背景には、オーナーや不動産会社の懸念や負担がある(画像提供/イチイ)

このような状況を鑑みて、国は2025年10月1日から改正した「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(以下、住宅セーフティネット法)に基づいた各制度をスタート。中でも「居住サポート住宅」は、居住支援法人(※1)が住宅確保要配慮者(※2)に対して入居支援はもちろん、入居後の見守りや安否確認、生活支援、介護・福祉サービスへのつなぎなどのサポートがセットになった賃貸住宅の制度です。居住支援法人が入居後もサポートし続けることで、オーナーや不動産会社の不安や負担を軽減し、高齢者が賃貸住宅に入居しやすい環境につながることが期待されます。

※1:居住支援法人:住宅の確保に特に配慮が必要な人(住宅確保要配慮者)が、民間賃貸住宅へスムーズに入居し、安定した生活を送れるよう支援を行う法人で、住宅セーフティネット法に基づいて、都道府県が指定する
※2:住宅確保要配慮者:住宅の確保に特に配慮が必要、つまり住まいを借りにくかったり選択肢が少なかったりする高齢者や低額所得者、障がい者、子育て世帯、被災者など

高齢者の契約数が増える中、高齢者専門のシェアハウスも運営

イチイは、2007年にシニア事業部を立ち上げ、高齢者向けの賃貸事業を始めました。最近はシニア事業部だけでなく、営業店舗でも高齢者の契約が増えており、過去5年間の実績では、高齢者の新規契約者数は年間約400~500件、契約数全体の約7~10%を占めています。

2021年からは、先に挙げた高齢者の入居における孤独・孤立の問題を解決する一つの方策として「シニアライフ田無」という高齢者向けシェアハウスを運営。4世帯入居のこぢんまりとした60歳以上の女性専用のハウスです。イチイは、高齢者向け賃貸住宅の物件検索サイト「グッドライフシニア」を運営しており、この専門サイトによって自社で集客ができることで、シニアライフ田無を満室運営しているそうです。

60歳以上の女性4名が暮らすシェアハウス「シニアライフ田無」にて(画像/イチイ)
60歳以上の女性4名が暮らすシェアハウス「シニアライフ田無」にて(画像/イチイ)

「もし他の企業や団体が同じような高齢者向けシェアハウスを提供したとしても、世の中には高齢者専門の入居者募集サイトがほとんどありません。そのため、一般の物件検索ポータルサイトに掲載することになりますが、高齢者が住みやすいような物件やサービスの工夫について表現したり、検索条件で指定したりすることなどはできないため、本当にそれを必要としている高齢者にはなかなか情報が届かないのが現状です。

高齢者が安心して入居できる物件の認知促進や積極的な集客活動で必要な人に情報を届けることも、居住支援の一部と言えます」

シニアライフ田無の共用リビング(画像/イチイ)
シニアライフ田無の共用リビング(画像/イチイ)

支援団体と協力し、高齢者向けシェアハウスを地域交流の拠点に

シニアライフ田無の地下と1階は地域交流拠点「プラスライフ田無 地域センター」として活用。フリーマーケットや、老後の暮らし方をテーマにしたセミナーなどを開催しています。

シニアライフ田無の地下と地上1階に併設されたプラスライフ田無 地域センター(左)。物件前の掲示板では地域に向けたイベントの告知を行う(右)(画像/イチイ)
シニアライフ田無の地下と地上1階に併設されたプラスライフ田無 地域センター(左)。物件前の掲示板では地域に向けたイベントの告知を行う(右)(画像/イチイ)

プラスライフ田無 地域センターで開催された「リユースフェス」の様子(画像/イチイ)
プラスライフ田無 地域センターで開催された「リユースフェス」の様子(画像/イチイ)

さらにイチイは、「屋根のない長屋プロジェクト」を提供する、たぬきち商事と協働してシニアライフ田無における見守り体制を構築しています。

たぬきち商事の屋根のない長屋プロジェクトは、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けることを目標に、誰にでも訪れるままならないことを顔の見える関係のなかで支え合う仕組みを提供しよう、という活動です。

例えば、買い物や各種手続きの代行、通院時の送迎や付き添い、身元の引き受け、事務委任・死後事務委任など。この活動が入居時の契約や家賃債務保証の仕組みとセットで提供されることにより、先に挙げた高齢者の賃貸入居への懸念をかなり軽減することができます。

地域住民の希望者(住民たぬきち、バディ)が支援者となって地域の困りごと解決に貢献する「バディ制度」の導入や、地域住民の助け合いのインセンティブとなる地域通貨「happa(はっぱ)」の導入など、たぬきち商事が提供するさまざまな仕組みがプロジェクトを円滑にしています。なお、happaの原資は屋根のない長屋プロジェクトの会費ですが、たぬきち商事のイベントや助け合いの謝礼として使ったり、地域のお店での商品購入に使用することで、地域の交流と活性化を促す利点があります。

「屋根のない長屋プロジェクト」の基本的な仕組み(画像/たぬきち商事)
「屋根のない長屋プロジェクト」の基本的な仕組み(画像/たぬきち商事)

イチイは、自社が管理する物件に住む高齢入居者を対象に、この仕組みを進め、安心して暮らせる環境づくりに努めています。たぬきち商事は、横浜市金沢区並木のショッピングモールビアレヨコハマと横浜市神奈川区の一軒家を拠点として運営しており、八王子の中野山王でもまもなく運営開始。横浜市(神奈川県)を中心に、行政・医療介護・福祉・商店会や店舗・自治会・支援団体などといった地域資源と連携しながら、賃貸や施設を含む住まい全般での多世代に向けたサポートを展開しています。

イチイとたぬきち商事は、それぞれの強みを活かしながら活動の幅を広げているところ。この取り組みは、まさに国を挙げて今後展開される予定の居住サポート住宅制度で求められる機能とも言えるでしょう。

イチイとたぬきち商事が協働で提供する居住サポート住宅のスキーム(画像/イチイ)
イチイとたぬきち商事が協働で提供する居住サポート住宅のスキーム(画像/イチイ)

福島県いわき市をはじめ、高齢者の二地域居住を推進

さらにイチイは、高齢者の二地域居住を推進する活動にも力を入れてきました。二地域居住は、高齢者の健康促進と移住先地域での地域経済活性化を両立するモデルとして荻野さんたちが期待を寄せているものです。

イチイと福島県の関連不動産会社、エステートギャリオンは、高齢者などが集う場所として提供・運営している古民家「我笑囲亭(わっしょいてい)」を、住民間の交流促進や地域文化発信だけではなく、二地域居住を検討する人たちにとっても「移住先としての魅力発信の拠点」として機能させてきました。

福島では古民家を利用した交流サロンを地元の人たちに開放し、地域の魅力発信の拠点に(画像/イチイ)
福島では古民家を利用した交流サロンを地元の人たちに開放し、地域の魅力発信の拠点に(画像/イチイ)

また、現在は「おとなの住む旅」という二地域居住の情報提供サイトを運営しており、月間1万5000件以上のアクセスを記録しているそうです。

二地域居住を推進するサイト「おとなの住む旅」(画像/イチイ)
二地域居住を推進するサイト「おとなの住む旅」(画像/イチイ)

今後を見据えて不動産会社が「エリアケアマネージャー」になるべき

今後、日本で高齢者に対する住宅賃貸がどうなっていくのかと荻野さんに聞くと、次のような答えが返ってきました。

「家族が少なくなってきている以上、住まい方は変わらざるを得ません。特に首都圏では、高齢単身者がどんどん増えていきます。現在、賃貸住宅で一人暮らしをしている40代~50代は、家族を持たないまま20年が経過して高齢単身者になる人も多いのではないでしょうか」

賃貸住宅における管理会社の役割は、今は入居契約や入居中のクレーム対応、建物・設備の維持管理、そして退去時の手続きなどが主ですが、荻野さんは「入居者が変わってきている以上、今後はそれだけでは不十分」だと語ります。

「今後の高齢者の入居を考えたとき、『エリアケアマネジメント』というアイデアが浮かびました。『エリアケアマネジメント』とは『エリアマネジメント』と『ケア』を組み合わせた造語で、私は『エリアケアマネージャー』となることにこそ、不動産管理会社の将来像があると考えています。

例えば、外国人や高齢単身者が入居している住宅の防災対策を考える場合、近隣の人同士で助け合う地域連携は欠かせません。不動産会社が主体となって、入居者と町内会、地域包括支援センター、福祉の担当者などをつなぐ役割が求められるでしょう。

そういった観点で、当社はいま高齢者向け住宅の管理に取り組んでいますし、日管協(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)では、万一の災害時にも避難が遅れがちな高齢者向けの防災マニュアルの作成に着手しています」

荻野さんの考える地域包括ビジネス「エリアケアマネジメント」の考え方(画像/イチイ)
荻野さんの考える地域包括ビジネス「エリアケアマネジメント」の考え方(画像/イチイ)

高齢者などの住宅確保要配慮者と地域の連携、賃貸住宅のあり方を広い視野で捉えて、今後に活かそうと奔走している荻野さんは「大小さまざまな課題に気付き、少しずつでも改善を図ることで暮らしやすい世の中になることを願っている」と話します。

自分自身で「20年後にどうなるのだろう?」という視点を持って、住んでいる地域の居住支援活動にも注目しながら、多くの人が安心して住み続けることができる仕組みづくりを応援したいものです。

●取材協力
株式会社イチイ
グッドライフシニア
おとなの住む旅
株式会社たぬきち商事


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