「(クロスは)珍しく余裕をもって出せましたね。鎌田(大地)選手が(ゴール前に)入ってくるのが見えて、トラップしてもらえるようなボールを出したんですが、少しでかくなって、そこは(コントロールできた)彼がすばらしかったですね」
久保建英は、試合開始早々の先制点アシストをそう振り返っている。その証言は、彼のプレー理念を端的に表していた。敵とどう対峙し、味方とどう連係し、何を求めているのか。
右サイドで久保が得意のドリブルを始めたとき、立ちはだかるディフェンスはいなかった。所属するレアル・ソシエダではマンマークが日常的だけに、珍しいシーンだ。敵の隙を見逃さず、同じ絵を描いてゴール前に入った鎌田にクロスを送った。「えぐったらマイナス」はひとつの掟だが、そこでタイミングを計ってボールを出せるところに"世界標準"はある。鎌田のコントロール&キックも出色だったが、久保自身がそれを信じていたはずだ。
「周りを生かし、周りに生かされる」
そんなトータルフットボールの理念を、久保は体現していた。それが3-0の勝利に結びついたのだ―――。
ボリビア戦で日本代表の攻撃を牽引した久保建英と鎌田大地 photo by Fujita Masato
11月18日、国立競技場。久保は実力の落ちるボリビアに対し、定石どおり、立ち上がりの勝負で流れを決する。
開始1分、久保は中盤でフリーになっていた鎌田を見つけてパスする。何気ないプレーに映ったが、そのパスに慌てて食いついてきたひとりを鎌田が外すことができるキックだった。これで鎌田はアドバンテージを得て、スルーパスを選択し、小川航基がGKと1対1になっている。得点には至らなかったが、ディテールで相手を凌駕できる見本のプレーだった。
「史上最強」と言われる日本代表のなかでも、久保と鎌田は別格だろう。ふたりとも少しも力みがない。だからこそ、簡単に相手の裏を取ることができる。もちろん、それは卓抜とした技術やビジョンや経験の裏付けがあるからだが、冒頭に記した開始4分の先制点は象徴的だ。
その後も、久保は敵ふたりを引きつけ、右ウイングバックに入った菅原由勢を使って、クロスを演出している。サイドでの菅原とのパス交換はテンポがよく、距離感が抜群で、ポジションの入れ替わりもスムーズだった。おかげで、久保は右サイドでアドバンテージを持ってドリブルから脅威を与えていた。ここでも、「周りを生かし、周りに生かされる」という連係力の高さが出た。
【"虎の穴"で叩き込まれたキャラクター】久保は周りにいる選手によって、プレーを最適化することができる。たとえば、本来は得点力のある左利きの右アタッカーである堂安律が右ウイングバックにいるときは、トップ下的なプレーで連係を試みている。実際、ガーナ戦では堂安のゴールをアシストしていた。一方、右利きでサイドバック的な特性のある菅原がいるときは、サイドアタッカーのようにも振る舞い、菅原のオーバーラップを生かす一方、自らもクロスで鎌田のゴールをアシストした。
久保はサッカーIQが高いからこそ、素早く周りに馴染み、同時に自分の能力も最大限に生かせる。それはバルセロナのトータルフットボールの教えに基づいている。ボールプレーの質の高い連動を追求しているから、ポジションは電話番号のようなもので、どこにいても"通話"ができる。ポジションに関係なく、技術やアイデアを出せるのだ。
バルサの下部組織「ラ・マシア」で育ったリオネル・メッシは人知を超えたような誰とも比較できない選手だが、同じルーツの久保と本質は似ている。左利きで右サイドからのドリブルで切り込むだけでなく、トップ下でも、ゼロトップでも、あるいは左サイドでも、"サッカーが求めるプレー"ができると言えばいいだろうか。それは"虎の穴"で叩き込まれたキャラクターだ。
後半10分、久保は典型的なプレーを見せている。
鎌田のバックパスから谷口彰悟が縦につけたパスを、久保は中盤で受けている。そこで相手を誘って逆を取るようにターンし、ダンスを踊るように入れ替わった。そして、ラインの裏を狙って走った小川にスルーパス。シュートには至らなかったが、一連のプレーはかつてシャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタが得意としたプレーで、バルサの中盤の選手たちが身につけている技だ。
来年のワールドカップに向け、久保が森保ジャパンの中心であることは間違いない。
ただし、11月に日本が対戦したガーナやボリビアのような相手はいないだろう。ガーナはアフリカ予選を通過し、ボリビアは大陸間プレーオフに回っているが、来日して親善試合を戦ったようなチームは本大会には存在しない。日本はこうした試合が嘘に思えるほど、難しい戦いを強いられるはずだ。ブラジルに勝ったのも同じ理屈である。
だからこそ、久保が最高のコンビネーションを発揮できるかどうかはひとつのカギになる。
ボリビア戦で言えば、左ウイングバックはほとんど機能していなかったし、ふだんはウイングバックで使われている中村敬斗は、ゴール近くのアタッカーで起用されたほうが明らかに脅威だった。想定される以上の激闘を勝ち抜くためには、最適解を見つける努力を惜しんではならない。
【関連記事】
◆日本代表、ボリビア戦の勝因はプレッシング だが90分もたない「限界」は解決できるのか
◆日本代表のワールドカップまでのチェックポイント3つガーナ戦快勝も先送りになった課題とは
◆ガーナ戦で出色の働きを見せた佐野海舟は遠藤航&守田英正を上回る戦力になれるか
◆日本代表、ガーナ戦快勝にも潜む見直すべきポイント 左右サイドそれぞれの問題とは
◆日本代表にほしい鈴木優磨、小泉佳穂を招集する余裕 Jリーグ優勝争いとの関係が希薄すぎる