今年のトライアウトには、2021年のドラフトで1位指名を受けたソフトバンクの風間球打、阪神の森木大智が参加していた。ふたりは横浜DeNAの小園健太と共に「高校BIG3」と称され、将来を嘱望された逸材だった。
2021年のドラフトでソフトバンクから1位指名を受けた風間球打photo by Nisida Taisuke
【ふたりのドラ1右腕が戦力外に】風間はノースアジア大明桜のエースとして、高校3年時に甲子園に出場。秋田大会では最速157キロを計測し、"世代最速"として大きな注目を集め、ソフトバンクからドラフト1位で指名された。背番号「1」を託された期待の右腕だったが、プロ入り後は故障やイップスに苦しみ、4年間で一軍登板はゼロ。今年は育成契約となり背番号は155へと変わったが、今オフに戦力外通告を受けた。
一方の森木は、中学時代の全国大会で軟式球として史上初の150キロを記録した「スーパー中学生」として脚光を浴びた。高知高校に進学後は甲子園出場こそ叶わなかったものの、球速は最速154キロまで伸び、阪神からドラフト1位で指名された。
「藤川球児の再来」と期待され、1年目に一軍で2試合に登板したが、その後は一軍のマウンドから遠ざかる。風間と同様、今季は育成契約となり、二軍では14試合で防御率13.81と結果を残せず、10月に戦力外通告を受けた。
「高校BIG3」と騒がれたふたりのドラフト1位が並んで立ったトライアウトのマウンド。その再起をかけた舞台に最初に上がったのは風間だった。3人の打者と対戦し、結果はセカンドゴロ、ショートゴロ、フォアボールの無安打1四球。
「緊張しました。もうちょっとストライク先行で投げられたらよかったんですけど、今できる限りの全力は出せたので、悔いはないです」
投球後の風間は悔しさをのぞかせながらも清々しい表情だった。この日の最速は143キロ。それでも投球の感覚は悪くないという。
「もちろん、もともと球速が速い自分を見てきたので、どうしてもそこに戻りたいっていう気持ちはこの4年間、ずっとありました。でも去年までは球速が出ても感覚は悪かったので、納得できない真っすぐが多かった。
今年は球速が出なくてもいい感触のボールが増えてきたんです。自分の悪いところはヒットを打たれるよりも自滅が多かった。でも見方を変えれば、打たれにくいボールを投げられていた4年間だったとも思います」
【森木と実際に会うのは初めて】4年間はあまりにも短かった。1年目は右ヒジのケガ、2年目は腰椎分離症を発症し、ほとんどの期間をリハビリ組として過ごした。3年目にようやくファームの公式戦で初登板を果たしたものの、6試合で防御率5.40。育成契約となった今季は小指を骨折して手術を受け、二軍戦にも登板できなかった。こうして4年間のプロ生活は、結局、一度も"本来の自分の投球"を見せることがないまま幕を閉じた。
「自分は1年目に入った時、ヒジをケガしてしまって......。その時はいい状態でプロに入れた感覚があったので、完全に治すというより『少しでもやりながら治したい』という気持ちが強かったんです。そのまま痛みを抱えてキャンプに入ってしまい、フォームも崩してしまった。
そこから思うように投げられなかったというのがあって、そこは少し悔いが残ります。でも、この4年間は自分にとっていい経験でした。ミスをうまく次につなげられなかったところもありますけど、そこはポジティブに捉えていきたいです」
高校時代は甲子園に出場し、森木と共に世代屈指の注目選手と称された。しかし、2021年のU−18野球W杯は新型コロナの影響で延期となったため、意外にも森木と直接会うのはこの日が初めてだったという。
「電話で話したことはあったんですけど、実は会うのは今日が初めてで、思わず敬語で話してしまいました。でも『全然いいよ、タメ語で』って、すごくラフな感じでした(笑)。(4年で戦力外となり共感は?)もちろんあります。大智がどう思っているかはわかりませんけど、僕は4年間ずっと苦しんできて、"出したい自分"がいるのに出ないんですよ。イメージはあるのに、実際に投げると何かが違う。大智も同じなんだろうな......と思いながら見ていました。このあと、どんな野球人生になるかはわからないですけど、切磋琢磨して、いつかお互いに『いい野球人生だったな』と言えるようになりたいです」
かつて「スーパー中学生」と騒がれた森木大智photo by Nishida Taisuke
【自分にはまだまだ伸びしろがある】続いて、森木が深々と一礼してマウンドへと向かった。安芸で秋季キャンプ中の阪神ドラフト同期の高卒組、前川右京と中川勇斗から「高知までミットの音が響くくらい、ブチ投げてこい!」と激励を受け、その言葉に背中を押されたのか、先頭の広島・松山竜平に投じた初球は149キロのストレート。見事に決まり、会場をどよめかせた。
しかし続く2球目の高めをセンター前へ運ばれると、川原田純平にはフォアボール。3人目の山足達也はショートゴロに打ち取り、森木は2カ月ぶりとなる実戦のマウンドを終えた。
「多少緊張はしましたけど、久しぶりの実戦を楽しむことができました。シーズン中は制球面があまりよくなかったので、今日はゾーンで勝負できたこと、そして新球のツーシームを見せられたことがよかったです。まだまだ改善点はあると思いますが、その中でも自分らしさは出せたと思っています」
結果こそ1安打1四球と振るわなかったが、この日は持ち味である力強いストレートだけでなく、シーズン後のキャッチボール中に「すごく動いたので使えると思って」習得したという新球・ツーシームもコーナーに決め、器用な一面も見せた。
「やっぱり僕の持ち味は、真っすぐの強さで押していくところです。(トライアウトでは)真っすぐの質や制球力が見られると思っていたので、その部分を見直すため、この1カ月はキャッチボールからしっかり取り組んできました。シーズン中よりいい姿を見せたかったし、少しでも成長した姿を示せるように。そんな強い思いを持ちながら今日まで過ごしてきました」
やはり、森木の真っすぐは魅力的だ。プロに入ってからの4年間は思うような結果を残すことができなかったが、それでもいまだ自分のなかに眠ったままの力を信じているという。
「自分にはまだまだ伸びしろがあることを、あらためて感じています。今日の投球は、自分の出力からすると30%くらいしか出せていませんでした。制球面で少し苦しんだこともあって、マックスの力を出しきれなかったし、体の使い方や配球など、野球の面で自分が考えていることを全然表現できなかった。もっと自分を開放して、自分の上限であり、限界を見てみたい」
森木の原点は、150キロを投げて騒がれた高知中学・高知高校時代にあるという。あの頃から森木は、「世界一のピッチャーになる」という明確な目標を掲げて練習に励んできた。その目標は、今も変わっていない。僕の目標は、一番大きなことを言えば、世界一のピッチャーになること。そこはブレずに、チームを勝たせる投手になるため、これからも邁進していきたいです」
風間も森木も、まだ今秋ドラフトに名を連ねた大学4年生と同じ22歳。ここからいくらでも巻き返すことはできる。新たなステージで、かつて「世代ナンバーワン」と称されたそのポテンシャルが花開くことを期待したい。
風間も森木も、まだ今秋ドラフトされた大学4年生と同じ22歳。ここからいくらでも巻き返すことはできる。新たなステージで、世代ナンバーワンとされたポテンシャルが花開くことを期待したい。
【関連記事】
【こちらの記事も読む】戦力外の現実とようやくつかんだ自信 徳山壮磨26歳、"新球"ツーシームに賭けたトライアウトのマウンド
【こちらの記事も読む】選手会が守り抜いた「トライアウト存続」の舞台裏復帰率2〜6%の現実と新たな価値
【動画あり】赤ヘル軍団の中でも特にすごかった!金本知憲と前田智徳の共通点とは?
【動画あり】北別府学との不仲説や正田耕三への飛び蹴り事件...高橋慶彦さんが真相を告白!
【動画あり】宮本慎也が選ぶベストナイン「プロ野球の歴史のなかでNo. 1だと思います」