バリー・ボンズの7度に次ぐ、史上2位の4度目のMVP受賞となった大谷翔平photo by Getty Images
前編:投票記者が語る2025年メジャーリーグMVP
ナ・リーグのシーズンMVPが11月13日に発表され、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が満票での受賞を果たした。エンゼルス時代の2023年から3年連続4度目で、いずれも満票での受賞。複数回の満票受賞は大谷しかおらず、メジャー史上でも稀有な存在になったことが、あらためて感じられた。
2025年の大谷は主に1番に座り、昨季を1本上回る自己最多&球団記録の55本塁打を放ち、打率.282、102打点、20盗塁という見事な成績をマーク。投手としても6月に2年ぶりに復帰し、14試合の登板で1勝1敗、防御率2.87、47イニングで62三振という優れた数字を残し、ドジャースのナ・リーグ西地区4連覇の立役者になった。
この"二刀流"としての貢献度は、実際にほかの選手をどれくらい引き離していたのか。カイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)、フアン・ソト(ニューヨーク・メッツ)、ヘラルド・ペルドモ(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)といった候補選手のなかで、大谷に近い評価を勝ち得た選手は存在したのか。ナ・リーグMVPの投票権を持っており、大谷に1位票を入れたMLB.comのサンディエゴ・パドレス担当記者、AJ・カッサベル氏に選考過程をじっくりと振り返ってもらった。
【相手のゲームプランに与える影響は特別】私は今回、大谷翔平に迷いなくMVP票を入れた。理由は単純で、彼がナ・リーグで最も優れた選手だったからだ。正直に言えば、もし大谷が投手として一度も登板していなかったとしても、私は彼に1位票を入れていたと思う。
去年ほど圧倒的な打撃成績ではなかったにせよ、今季の彼は依然としてリーグ最高の打者だった。そして、彼はマウンドにも立った。その投手としての価値が上乗せされた瞬間、彼は完全に突き抜けた存在になった。打つだけでも驚異的なのに、投げるという要素が加わるのだから、もう議論の余地がなかった。
だからこそ、MVPの1位票は「悩む」という感覚すらなかった。ユナニマス(全員一致)になるだろうと予想していたが、実際にそうなったのは当然だと思っている。私はシーズンを通してパドレス戦で大谷を見てきたが、彼の存在が相手のゲームプランに与える影響は本当に特別だ。
2025年の大谷はパドレス戦では打率.184、1本塁打と優れた成績を残したわけではなかった。だが、いつ打席に回ってくるのか、その前後の打者をどう攻めるか――常にそのことを考えさせられる。対戦相手にここまで構造的な変化を強いる打者は、アーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)くらいしか思い浮かばない。そういう意味でも、私にとって大谷は「最も価値のある選手」そのものだった。
取材に応じてくれたパドレス番のカッサベル記者photo by Sugiura Daisuke
【個人的に重きを置く遊撃手であることの価値】悩んだのは2位以下の順位だ。私は最終的に、大谷に次ぐ2位にヘラルド・ペルドモ(打率.290、20本塁打、100打点、27盗塁)を入れ、3位にカイル・シュワーバー(打率.240、56本塁打、132打点)を選んだ。ペルドモについては、おそらく説明が必要だろう。
私がペルドモを2位に置いた最大の理由は、遊撃手(ショート)というポジションで非常に優れた数字を残した点だ。私は遊撃手の守る選手に特別な価値を置いている。彼らは守備範囲や肩、判断力など、チーム全体の守備の中心を担う存在であり、打撃に多少ムラがあっても、ポジションそのものの価値が大きい。ペルドモはそのショートでしっかりと結果を残し、守備の安定感も高かった。
昨季のMVPレースを思い返すと、大谷とフランシスコ・リンドア(メッツ)がトップ2で、シーズン終盤までは拮抗しているという見方があった。最終的には9月に大谷が抜け出したが、それまではそれほど大きな差はないと見た選者もいたようだ。私の中では、ペルドモの今季はリンドアの昨季とは大きく違っていない。打撃面ではほぼ遜色なく、守備も堅実。リンドアほど守備で突出していたわけではないにせよ、ポジション価値を考えれば非常に高く評価できるシーズンだった。
一方で、シュワーバーやフアン・ソト(打率.263、43本塁打、105打点、38盗塁)のような純粋な打者は、打撃のインパクトは大きくても、ペルドモのような守備の価値を生み出していない。私は守備の価値を強く重視しているため、2位の比較は非常に難しかったが、ペルドモを選んだのは自然な決断だった。パドレス戦で彼を何度も見てきた経験も、彼の評価を後押しした。彼が試合の細部に与える影響はかなり大きい。
昨季の大谷とリンドアが「接戦だったか?」と問われると、今年よりは差は小さかったかもしれないが、私はそこまで僅差だったとは思っていない。ただ、リンドアが明確な2位だったことは確かだし、ペルドモの今季がそのリンドアの昨季と大きく違っていたとは感じていない。だから私は、ごく自然な流れとして「大谷1位、ペルドモ2位」を選んだ。昨季の「大谷1位、リンドア2位」がしっくりきたのとまったく同じ感覚だ。
繰り返しになるが、1位の大谷と2位ペルドモの差は大きかった。やはり大谷の価値には遠く及ばないにしても、ペルドモはかなり過小評価されている選手だと思う。彼はリンドアがやってきたような多くの要素をこなし、遊撃手として確かな価値をチームにもたらした。そういう選手を正当に評価することも、投票者としての私の役割だと考えている。
つづく
【関連記事】
【後編はこちら】MLBベテラン記者が明かすなぜ選手間投票と記者投票の結果が異なったのか
山本由伸&ドジャース「ワールドシリーズ第7戦9回裏1死満塁」の裏側
「人格や覚悟はカネで買えない」大谷翔平と山本由伸がで世界中に証明したもの
ドジャース2連覇、MLB史に残る激闘の分水嶺
「二刀流への疑問」を吹き飛ばした大谷翔平の「1試合3本塁打&10奪三振」