世界最大のレアアース採掘・精錬拠点である中国・内モンゴル自治区包頭市には「稀土路」(レアアース通り)と名づけられた道路がある
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか?『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「中国のレアアース規制」について。
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「製造ラインが止まって大変だ」。
各社から悲鳴が聞こえてきた。2010年、私が会社勤めを辞めてサプライチェーンのコンサルタントをやりはじめた時期だった。日中が尖閣諸島問題で対立。すると中国は日本へのレアアース禁輸措置をとった。
そのころ中国への依存度はほぼ100%で、あからさまなイヤがらせだった。商社経由で迂回(うかい)輸入したり、在庫をかき集めたりしてなんとかその場をしのいだが、日本企業調達部門のトラウマとして記憶に残った。
あれから幾星霜(いくせんそう)。欧米各国が中国への依存を強めるなか、日本は多角的なリスク分散を進め、中国依存度を大きく減らした。
オーストラリアと組み、新たなプラントを構築。またフランスともプロジェクトを進めている。今年10月、トランプ米国大統領と高市早苗首相の会談でレアアース安定供給網強化の共同文書が出されたのは、2010年のゴタゴタを経験した身からすると感慨深い。
ところで基礎知識を。レアアースとは磁石やLEDなどに使われる"調味料"と思ってくれたらいい。またレアメタルという言葉もある。意味の広さでいえば「レアメタル>レアアース」。
厳密ではないのだが、レアアースに電池で使用される材料類を足したらレアメタルくらいにイメージしておけばいいだろう。「レアメタル=レアアース+リチウム+チタン+コバルト+その他」だ。
レアアースは放射性元素を含むため、環境・人権規制が厳しい国では採掘・精錬にコストがかかりすぎ、ペイしなかった。米国では環境汚染の問題から閉鎖した精錬所がある。そこで各国が中国に「押し付け」て、安く調達してきた経緯がある。
その結果、レアアースの採掘、精製、製造の領域で中国が世界の大半を占めるにいたった。こうして中国は最大の政治的カードを手に入れた。中国が輸出を止めると、自動車、ハイテク、軍事、宇宙などのさまざまな業界が麻痺(まひ)する状況にある。
なお、10月末のトランプ・習近平中国国家主席の会談後、「中国がレアアース規制の開始を1年延期(停止)した」との報道があった。米国側はさもレアメタルの問題がすべて解決したように喧伝(けんでん)しているが、これは間違いだ。
中国は、おそらく米中首脳会談を見越して10月上旬に「中国原産のレアアースが価格の0.1%以上を占める海外製造品目について管理下に置く」などのすさまじく過激な方針を発表し、会談に合わせて「予定通り」に一部の規制を撤回・延期したに過ぎないように見える。それ以前からの既存規制の管理権限をすべて手放したわけではない。
日本政府は南鳥島のレアアース開発を進める方針だ。米豪EUとも連携する。正しい方向だ。入手できなければ経済が止まる"公共財"なのだから、国のバックアップは不可欠だ。
個人的には電池や基板などの使用済製品からレアメタルを取り出す技術開発の支援を推したい。他国ではこの種のスタートアップが台頭している。また各社で研究されているEV駆動モーター、ディスプレイなどのレアメタルフリー化にも期待したい。
日本だって、得意としている半導体用フォトレジストとかウエハーを禁輸したら世界中の経済が止まる。だけど日本はそんな道ではなく、調達先の分散という正攻法を選ぼう。それが成功法と信じて。
写真/時事通信社
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