ヤクルトの北村恵吾は8月3日、1年半ぶりに一軍昇格を果たすと、その日の試合で代打3ランを放ち、そのまま二軍の戸田に戻ることなくシーズンを終えた。
46試合に出場し、打率.267、5本塁打、19打点、出塁率.364、得点圏打率.370、OPS.839の成績を残した。
9月には、村上宗隆の定位置である「4番・サード」4試合任された。結果は15打数4安打、1打点、3四死球。
そして11月8日、ヤクルトはMLBに対して、村上のポスティング申請を行なったことを発表。来年、北村が『4番・サード』のポジションを奪う可能性もある。
今季46試合に出場し5本塁打を放ったヤクルト・北村恵吾photo by Sankei Visual
【目の前で見せつけられた本物の4番】当初、北村は「4番については意識していませんでした」と話していたが、「やっぱり4番を意識していたというのは、確実にありました」と振り返った。
「結局、変に意識して、自分のバッティングができなかったですね。周りからは『おまえが打つなんて思ってないから(笑)』と、声をかけてもらっていたんですけど......。さすがにムネさん(村上)の代わりというわけではありませんが、ホセ(・オスナ)や(山田)哲人さんという自分よりすばらしい選手が揃っているなかでの4番でしたから......。3番や5番を打たせてもらっている時はなにも感じなかったんですけどね」
そして北村は「4番って、チームの一番の顔だと思っているので」と、次のように話した。
「アマチュア(中央大)時代はたくさん4番に座って、大事な打順だということはわかっていました。チームの勝敗を左右する場面で必ず打席が回ってくるし、そこで打てば勝てるし、打てなければ負けに直結します。4番で試合に出た時、相手の4番だった阪神の佐藤輝明選手、中日の細川成也選手がホームランをポンポン打つんですよ。
自分が思い描く4番の理想像を、目の前で見せつけられた気がしました。自分にはまだまだそんな力がなくて、悔しくて......守りながらずっと『クソー』って思っていました。ひと振りで試合の流れを変えるホームランを打つ姿を見て、『これが4番だよな』と実感しましたし、勝負強さも含めて、本当に『すげぇな』と」
【森下翔太に負けたくない】前述したように、来年、ヤクルトは村上という大黒柱を失う可能性が高い。
「ムネさんを間近で見ていて、本当にすごいという言葉しか出てきません。自分ひとりでその代わりを務めるなんて絶対に無理ですし、まずは自分の持っている力をしっかり発揮して、試合に出られるポジションを確立したい。来年のキャンプインからは、ムネさんのポジションを狙うライバルとして茂木(栄五郎)さんをはじめ、多くの選手が競争に加わってきます。
そのなかに食い込んでいくには、結果を出し続けるしかありません。今はサードでもセカンドでも、試合に出られるのであればどこでもやりたいという気持ちです。池山(隆寛)監督に『恵吾を使いたい』と思ってもらえるようなバッティング、プレーをしたいと、本当に強く思っています」
また北村にとって中央大の同級生である森下翔太(阪神)も、プロ野球の世界ではライバルだ。
「大学時代に見てきたなかでは、翔太は『マジすげぇーわ』と感じる、ぶっちぎりのナンバーワンでした。だから、ライバルだと思ったことはありませんし、去年は自分がまったく試合に出られず、どんどん遠い存在になったというか......。
でも今年は、同じ舞台でプレーすることができました。一緒にご飯を食べることもあって、選手としてのあいつのすごさをあらためて感じました。だからこそ、少しでも近づきたいと思うようになったし、自分もずっと一軍にいて、同じ舞台でプレーしたい、負けたくないと思いましたね」
【坪井コーチとの二人三脚】この10月、北村は宮崎でのフェニックスリーグに参加。試合後は特打、特守に明け暮れた。バッティングでは、坪井智哉コーチとしっかり話し込みながら練習に取り組んだ。坪井コーチはこのオフ、二軍から一軍の打撃コーチに配置転換となった。北村が言う。
「坪井さんは本当に恩師というか、ずっと寄り添ってくれて、遅くまで練習につき合ってくれました。それはあたり前のことじゃないですし、感謝しかないです。一軍でのナイターが終わるとすぐ電話をして、その日のバッティングの感覚を伝えていました」
坪井コーチは北村に「なんで打てたのか、なぜ打てなかったのかを自分で説明できるようにならないと長続きしないよ」と、その重要性を説いたという。
「今は自分の理想の形が見えてきたことで、だいぶ説明できるようになりました。そのうえで、まず自分が感じたことを話すと、坪井さんが『オレはこう思うよ』と意見を返してくれる。『ここがしっくりこない』と伝えれば、時間を逆算してなぜそうなったのかを分析してくれる。そして、翌日の早出練習でそのポイントを意識して取り組むと、すぐにいい時の感覚に戻れる。あれは本当に大きかったですね」
【勝負勘に長けている】10月27日、フェニックスリーグ最終戦。西都原運動公園野球場では、宮出隆自打撃コーチが北村のフリー打撃のピッチャーを務めていた。
「ありがとうございました」
打撃練習が終わり、北村は宮出コーチにそう言うと、少し間を置いてからもう一度「ありがとうございました」とお礼した。
宮出コーチは2013年にヤクルトの二軍打撃コーチに就任し、その後は一軍打撃コーチ、一軍ヘッドコーチ、再び二軍打撃コーチとして選手を指導してきた。そして、この日をもって現場を離れることが決まっていた。
宮出コーチが北村について、次のように語る。
「恵吾は駆け引きが上手というか、勝負勘に長けているというか、それが武器ですよね。考える能力ってなかなか身につかないものですが、恵吾は入った時から持ち合わせていました。プロ野球は誰かが抜ければ、そこに新しい人が入ってくる世界。今年、一軍である程度結果を残せたことは、来年につながっていくと思います。
そこで油断せず、課題をしっかり突き詰めるオフにして、来年をいい形で迎えて競争に勝って、4月のスタメンに自分の名前があったらうれしいじゃないですか。彼がこれからどんな選手になっていくのか。今後は一ファンとして見守っていきます(笑)」
北村は、今年の活躍が自分ひとりの力でないことは十分理解している。
「一軍、二軍ともに、本当にたくさんの方に助けていただきました。宮出さんに限らず、バッティング投手を務めてくださるコーチや裏方さんもそうですし、投げてもらえることは決して当たり前ではありません。感謝の気持ちを日々感じています。少しでも結果を残して、恩返しというわけではありませんが、一軍で成長した姿を見てもらいたいと思っています」
11月の松山秋季キャンプでは、池山新監督からキャプテンに指名され、チームに元気と活気をもたらした。
来年、恩返しのヒット、ホームラン、走塁、ナイスプレーを積み重ねていく。
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