久保建英にとってのベストゲームではなかった。しかし、"勝負勘"のようなものは存分に見せた。相手がわずかに受け身になった刹那をとらえ、最大限のダメージを与えるプレーは格別だった――。
ガーナ戦で数多くのチャンスをつくっていた久保建英 photo by Nakashima Daisuke
11月14日、豊田スタジアム。森保一監督が率いるサッカー日本代表はアフリカのガーナ代表と対戦している。結果から言えば2-0の完勝だった。
展開は、お互いに3-4-2-1というフォーメーションを用い、"ミラーゲーム"になっている。攻守の切り替えの早さで相手を上回りゴールに向かう。そのコンセプトもほとんど同じだった。
そうなると、選手個人の力量の差が出る。
日本の選手たちの力量は各所で少しずつ上回っていた。それがほとんど一方的な展開につながった。ガーナがボールを持っている時間は日本とほぼ変わらなかったが、最終ラインどころか、中盤のラインも越えられず、いや、ファーストプレスにも苦しみ、ほとんど自陣でボールをつないでいただけで、攻め手が見つからなかったのである。
「日本は攻守の切り替えがうまく、中盤でボールを奪われると、それをストライカーに決められました」
ガーナのオットー・アッド監督はそう言って白旗をあげたが、戦術的、技術的にあまりに脆弱だった。
森保ジャパンは、開始15分を高い強度で戦っていた。敵の出鼻を挫き、試合の流れを決める。ひとつの定石だ。
その攻防で潮目を作っていたのが佐野海舟だろう。中盤で相手の攻撃を確実に潰した。トランジションの意識も高かった。また南野拓実、堂安律は得点者として目立った活躍を見せた。
一方、シャドーに入った久保は、サッカーIQの高さを見せた。
たとえば5分、久保はインサイドで佐野のパスを受ける。ポジショニングのよさだけでなく、間髪入れずに相手のラインの乱れを見抜き、南野にパス。シュートはGKに防がれたが、確実にゴールに迫った。
10分には、久保はガーナの選手の関節が外れたかのように伸びる長い足にボールを絡め取られ、珍しくボールを失っている。だが、すかさず食らいついてパスを出させず、クリアのようになったボールを味方が回収した。これを境に、久保のプレー強度は一段上がった。情動と知性が高い次元でつながったのだ。
【南野の先制点につながる何気ないプレー】右サイドを久保は堂安とのパス交換で前進し、堂安が左足で巻くクロスを入れると、これがヘディングでクリアされる。しかし再び押し込んで左サイドでFKを得ると、久保が蹴る。この日はCKも含めてプレースキッカーを託されていた。このキックは相手のカウンターにつながりかけるが、久保自身が蓋をし、ピンチの芽を摘み取った。また、インサイドでボールを受けると、左から攻め上がった鈴木淳之介を使い、パスが南野につながり、シュートはCKに。久保はサインプレーから南野にグラウンダーのパス、これをフリックするとエリア内で堂安がゴールを狙った。
たった5分ほどの間にこれだけの攻撃バリエーションを見せ、相手を追い込んでいた。
そして16分、中盤で味方が敵の縦パスを潰す。佐野が奪い取ったボールを受けた久保は、再び佐野へ迅速に丁寧に預ける。これにより佐野はスピードを落とさずに前へ運ぶことができ、南野にラストパス。南野は完璧な軌道のシュートを打ち込んだ。
「佐野選手がすばらしいですね。ボールを運んでくれると思って出しました。ファーストタッチから、"こうしてほしい"という形で持っていってくれましたね」
久保はそのシーンをこう振り返っているが、そのパスが少しでも遅かったら、少しでもずれていたら、攻め直しになっていただろう。何気ないパスだからこそ、知性を感じさせた。タイミングと技術のディテールで勝っていた。
その後も久保はドリブルで仕掛け、アドバンテージを作った。中盤ではボールを触って、リズムを作り出した。パスが合わない場面も少なからずあったが、積極性を失わなかった。右サイドをドリブルで攻め上がり、ラストパスは逆サイドの中村敬斗と合わなかったシーンは、ワールドカップ本大会でも得点パターンになりうる攻撃だった。
後半に入って勝負を決めた2点目。15分という前半とほぼ同じ時間帯、久保はゴール前でボールを受けると、相手を引きつけながらタメを作っている。何度も潜り込むような仕掛けを見せていただけに、相手に飛び込ませない。そこで、右にポジションを取った堂安にパス。堂安はドリブルで相手を翻弄すると、左足でニアに打ち込み、ネットを揺らした。
それはひとつの得点パターンだ。
「堂安選手がニア狙うのは初めてじゃないので。前の試合でもその形はあったと思います」
久保はそう説明したが、得点のお膳立てを狙ってしたわけだ。
ガーナ戦の久保は豪快に得点を決めたわけでも、3人抜きドリブルを披露したわけでもない。派手さはなかった。しかし、攻撃を作る緻密さや知性を感じさせた。
「タケの最大のストロングポイントはコンビネーション力」
それは現在もレアル・ソシエダ関係者の間での定評だが、連係、連動するなかで生み出すプレーは際立っている。上田綺世、佐野、堂安、南野、中村と近い距離を取ったとき、無数の攻撃パターンがあった。ガーナがあまりに雑で工夫がなかったことを差し引いても、それはワールドカップ本大会でも武器になるだろう。鎌田大地がコネクションに入ることで、さらに完成度は上がるはずだ。
11月18日、日本代表は国立競技場でボリビアと年内最後の試合を行なう。
【関連記事】
◆日本代表、ガーナ戦快勝にも潜む見直すべきポイント 左右サイドそれぞれの問題とは
◆日本代表にほしい鈴木優磨、小泉佳穂を招集する余裕 Jリーグ優勝争いとの関係が希薄すぎる
◆谷口彰悟「サッカー人生のターニングポイント」となったブラジル戦「すがりついででも、ワールドカップのピッチに立ちたい」
◆日本代表のメンバーは1年前よりパワーダウン 実力者を酷使した結果、実力者が消えた
◆日本代表の「ミスキャスト」は今回も? 「穴」は3バックの端とウイングバックの間