「本当に一人で作れたのか?」安倍元首相銃撃事件の公判で明かされた銃器密造の過程と残る謎

凶弾に倒れた安倍氏はその後、国葬が営まれた。皇族以外では吉田茂に続き戦後2例目

「本当に一人で作れたのか?」安倍元首相銃撃事件の公判で明かされた銃器密造の過程と残る謎

11月14日(金) 7:30

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凶弾に倒れた安倍氏はその後、国葬が営まれた。皇族以外では吉田茂に続き戦後2例目

凶弾に倒れた安倍氏はその後、国葬が営まれた。皇族以外では吉田茂に続き戦後2例目





「戦後史において前例を見ない、極めて重大な結果・社会的反響をもたらした」―。3年以上の時を経てまとめ上げた冒頭陳述で、検察側は事件をこう評した。

2022年7月、奈良市で遊説中の安倍晋三元首相を銃撃し、殺人罪などに問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判である。

公判で改めて明らかになった点の一つが、山上被告の「武器製造」に賭ける異様ともいえる執念だ。極左テロが相次いだ1970年代には手製爆弾の製造法が記された「腹腹時計」が地下で出回り、鉄パイプが凶器として用いられるなどしたが、銃器の密造をたった1人でやってのけた前例はない。

【ひとり自宅で銃器を密造】 「テロリストのアジトのように感じた」。11月5日、奈良地裁で開かれた山上被告の第5回公判でそう証言したのは、事件当日の2022年7月8日、山上被告の自宅を家宅捜索していた警察官だ。山上被告が犯行に使ったもののみならず、複数の銃器を自作した現場である。

「この警察官は事件発生直後、機動隊の爆発物処理班や科学捜査研究所の職員らと奈良市内の山上被告のアパートにガサに入ったそうです。ガサは、爆発物が仕掛けられている可能性も考慮し、事前に周辺住民を待避させた上で、防護服を身につけた機動隊員が先に入るなど厳戒態勢で実施されたことを証言しました。

警察官の証言によると、自宅は銃を密造するための万力やハンドドリル、火薬類が散乱し、足の踏み場もない状態だったとか。部屋の様子を『テロリストのアジト』と形容したのもうなずける内容でした」(全国紙社会部記者)

山上徹也被告の公判が行われている奈良地裁

山上徹也被告の公判が行われている奈良地裁





法廷では山上被告が犯行で使用した「改造銃」の威力を検証した結果も明かされた。警察官の証言によると、銃身が二つあるその銃から発射された弾丸は、厚さ4ミリのベニヤ板4枚を貫通するほどの威力があったのだという。

検察側が示した冒頭陳述によると、山上被告はその銃を、演説中の安倍氏から「約5・3メートル」という至近距離より発射。発射された2発の散弾からは「金属製弾丸12発」が放たれ、うち2発が安倍氏の「左上腕部及び右前頸部」に命中。3発が「前頸部及び前胸部」をかすめ、この銃撃で負った銃創によって安倍氏はほぼ即死に近い状態で亡くなったとされる。山上被告はこうした殺傷能力の極めて高い「改造銃」を10丁も製造していたことが公判では明らかにされた。

「犯行に使われたのは2つの銃身がある改造銃でしたが、山上被告の自宅からは銃身が9つもある改造銃も押収されていたようです。いずれも金属製パイプを銃身にしたもので口径も12・5ミリから22ミリと小さいものですが、狙撃によって安倍氏を死に追い込んだことからも明らかなようにいずれも威力、精度ともに相当なものでした」(同)

検察側の冒頭陳述によると、山上被告はこうした改造銃のほか、弾丸の発射に必要な火薬までをも自作していた。「インターネット通販」で購入した原料をアパートに持ち込み、「電子はかりで計量」するなどして「混合した原料を粒状に加工、乾燥」させて「黒色火薬合計2キログラムを超える約2251・22グラムを製造」するに至ったという。

【単独での製造は「相当困難」】

驚くべきは、こうした武器の製造を山上被告はたった1人でやってのけたということだ。日本では1974年の三菱重工爆破事件など、極左テロが相次いだ70年代に国家転覆を企む若者らが、アパートでパイプ爆弾などの密造に手を染めていたことがあったが、銃・火薬を自製して犯行に及んだ前例はない。山上被告はネット通販やホームセンターで購入した器具や薬剤を使って「殺人兵器」を作り上げたわけだが、そもそもそんなことができてしまうものなのか。

兵器の製造に詳しいある軍事ジャーナリストは、「今はあらゆる情報がインターネットで手に入れられる時代。2014年には3Dプリンターで銃を密造した大学職員の男が銃刀法違反で逮捕される事例がありましたが、山上被告のケースが特異なのは自作した凶器を実際に犯行に使ったという部分です。それほど山上被告の殺意が根深いものだったということなのでしょうが、ネットなどで製造法を知ることができて材料も集められたとしても、その製造法を正確に再現することは技術的には相当難しいといえるでしょう」と指摘する。

【原動力は恨みと殺意】 山上被告がこうした銃の自作を始めたのは、2020年12月以降だとされる。2019年10月ごろには、火炎瓶を製造して旧統一教会の韓鶴子総裁の襲撃を計画するも失敗。翌20年10月ごろに拳銃の入手を試みてやはり失敗し、「銃を自作するしかない」と決意したのだというから、教団への恨みと向けられた殺意は容易ならざるものだったと言える。

「山上被告は犯行の約8カ月前の2021年12月12日までには改造銃を完成させており、奈良県内の山中で試射も行っていたようです。5銃身、単銃身、9銃身の3丁をベニヤ合板に向けて試射する動画が残っており、『2、3メートルの距離から、厚さ20から30ミリメートルのベニヤ合板を貫通』させていたことが確認されています。これほどの計画性を持って犯行に及んだ山上被告の行為は単なる殺人というよりはテロに近い」(前出の社会部記者)

11月20日に予定される被告人質問で証言台に立つ山上被告は、新たな真実を語るのか。

文/安藤海南男写真/photo-ac.com、首相官邸

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