トランプ×トヨタ「100億ドル投資」の勝者はどっちだ!?

トランプ大統領は空母上の演説で米海軍兵士や視聴者に向けて「トヨタだ、トヨタを買うんだ!」とも叫んだ

トランプ×トヨタ「100億ドル投資」の勝者はどっちだ!?

11月12日(水) 6:30

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トランプ大統領は空母上の演説で米海軍兵士や視聴者に向けて「トヨタだ、トヨタを買うんだ!」とも叫んだ

トランプ大統領は空母上の演説で米海軍兵士や視聴者に向けて「トヨタだ、トヨタを買うんだ!」とも叫んだ





空母の甲板で放たれた〝100億ドル〟発言──。トランプが名指しで撃ち抜いたのは、まさかのトヨタ!米国への巨額投資要求、その裏にうごめく思惑とは?

石破前政権下に決まった投資枠、自動車関税の駆け引き......。日米の政治と経済が入り乱れる中で放たれた衝撃発言の舞台裏、そして"その先"を追った!

【横須賀で炸裂した、〝トランプ節〟】 10月28日、来日中のトランプ大統領が米空母ジョージ・ワシントン艦上で突如口にした「トヨタが米国に100億ドル(1兆5000億円)以上を投資すると聞いた」という発言が、世界的ニュースに。

「この発言は、自動車産業単体からもしっかり投資を引き出したという、トランプ氏による〝勝利宣言〟ですよ」

こう分析するのは、自動車ジャーナリストの桃田健史氏。実は今回の発言の背景には日米間の貿易交渉の複雑な構図があるという。

「石破前政権が発表した5500億ドル(約80兆円)規模の対米投資枠はITや医療関連が主体であり、自動車産業は直接的に関与していないとみられる。そのため、自動車関連の投資は各メーカーが個別対応する形となり、トランプ氏はその筆頭としてトヨタの名を挙げたわけです」

これは、トランプ大統領が強く推し進めてきた、いわゆる自動車関税の問題と深く結びついている。

「先に交渉がまとまった自動車関税15%(当初は最大27.5%が検討されていた)と対米投資は、実質的に〝パック取引〟だったとの見方がある。ですから、日本政府主導の投資枠とは別に、自動車産業単体でも米国への投資を引き出したとアピールする狙いがあったのではないか」

つまり、この「100億ドル投資」発言は、強硬な通商政策の〝成果〟を自ら演出したものであり、米国世論へのアピールを意識した〝アドリブ〟だった可能性が高い。

「ただし、この100億ドルの数字の根拠自体はあいまいです。報道によれば、トヨタ単体ではなく、自動車以外の企業の投資も含まれている可能性があり、その実態は不透明な部分が残っています」



とはいえ、トランプ大統領はこの主張を繰り返し、大統領専用機内でも記者団に「トヨタが100億ドルを投じて米国内に工場を建てることに合意した」と語っている。

ちなみに、この発言に先立ち、トランプ氏は来日に合わせ、日本の経済界トップとの会合に参加。トヨタの豊田章男会長も出席したこの会合は50人超が参加したディナー形式で、名刺交換や挨拶が中心だった。

自動車評論家の国沢光宏氏はこう語る。

「トヨタの豊田章男会長は、トランプ氏と直接言葉を交わしたと関係筋から聞いています。章男会長は69歳、トランプさんは79歳。10歳の年齢差がありますが、章男会長は周囲に『元気をもらった』と漏らしていたとか」

翌29日に開催されたジャパンモビリティショー2025のプレスデーで国沢氏はこんな姿を目撃している。

「私は、現地で章男会長のプレゼンを取材していましたが、溌剌としていて、エネルギーに満ちあふれていました。メディアは〝トランプに恫喝されてトヨタが右往左往〟といった論調を展開しがちですが、今のトヨタはそんなことでは動じません。どっしりと構えている。

世界屈指の超巨大企業ですから、すべての動きは採算を見据え、綿密な計画の下に進められています」

10月29日、ジャパンモビリティショーのプレスデーでトヨタの豊田章男会長が登壇、プレゼンテーションを披露

10月29日、ジャパンモビリティショーのプレスデーでトヨタの豊田章男会長が登壇、プレゼンテーションを披露





100億ドル投資発言は、水面下でトヨタが日本政府・米国大使館と共有していた「今後も米国での投資・雇用を継続する」という意思表示が過去の実績額と結びつき、トランプ大統領のアドリブ発言につながったのではないかと推測する専門家は多かった。

【米国産トヨタ車の輸入で何が変わる?】そもそもトヨタの対米投資は、単なる政治対応ではなく、長期的な事業戦略に基づいていると桃田氏は語る。

「過去には米自動車大手GM(ゼネラルモーターズ)との合弁で、カリフォルニア州に生産工場を建設したこともあります。後にその工場はテスラに売却されましたが、トヨタは早くから米国市場に根を張ってきた企業なのです」

では、現在の動きは?



「ほかの国や地域と同様、米国でも〝マルチパスウェイ戦略〟を基本としている。これは、市場ごとに異なる電動化の進展に合わせて、HEV(ハイブリッド)、PHEV(プラグインハイブリッド)、EV(電気自動車)、FCEV(水素燃料電池車)など、複数のパワートレインに柔軟に対応する方針です。

投資でいうと、ケンタッキー州のジョージタウン工場を中心に、乗用車やSUVの生産を展開。2024年には塗装施設の新設に約9億ドル(約1400億円)、EV生産ラインの整備に13億ドル(約2000億円)を投資しています」

さらにテキサス州では大型ピックアップトラックの生産を担う工場へ追加投資し、南部市場への対応も万全だ。つまり、トヨタの対米投資は、単なる〝政治的ジェスチャー〟ではなく、グローバル戦略の一環として着実に積み重ねられてきたのだ。

今回の騒動には、もうひとつの焦点があった。米ホワイトハウスが発表した、トヨタによる「米国産車の日本への逆輸入」計画だ。

国沢氏はこう語る。

「これまで非正規ルートで米国産のトヨタ車を購入していたクルマ好きにとっては朗報でしょうね。正規販売店から買えるようになれば、アフターサービスも安心です」

加えて、足元の課題にも効果があるという。

「今、トヨタの国内生産車は受注が殺到していて、納期がかなり長くなっています。日本で造って輸出している分を米国生産に切り替えれば、国内向けの生産余力が生まれ、納期の問題は緩和されます」

仮に米国で生産された車両を日本で販売するには、日米間の認証制度の相互承認が必要となる。現在、国土交通省などが中心となって制度の共通化に向けた協議が進められているという。

一方、日本の自動車メーカーにとって米国が〝超ドル箱市場〟なのも事実だ。その現状を踏まえて、今後の展望について桃田氏はこう語る。

「三菱は東南アジア、スズキはインドに強みを持っていますが、それ以外の日本の乗用車メーカーにとって、主力市場はやはり米国です。だからこそ、今後も米国市場の変化をとらえながら、電動化や知能化に向けた投資は継続されていくでしょうね」

ちなみに、トランプ大統領が打ち出した〝関税強化策〟は、日本メーカーだけでなく、米国メーカーにも影響を及ぼすという。国沢氏はGMの動向を例にこう語る。

「GMは韓国を低価格モデルの世界輸出拠点として位置づけています。実際、韓国で生産した車両を米国市場向けにも輸出しているんです。ところが、韓国もトランプ関税の対象国ですから、米国メーカーの車であっても関税が課されることになる。

つまり、トランプ関税は〝自国メーカーにも跳ね返る〟という構造を持っているんです」

では、日本の自動車メーカーはどう対応するのか。国沢氏は現場の声をこう伝える。

「各社に話を聞いていますが、関税が15%程度なら、そのまま輸出しても構わないという意見もあります」

その背景には何が?

「実は来年以降、米国内で販売される新車の価格改定が検討されています。つまり、トランプ関税による追加負担は、最終的には米国の消費者に転嫁されることに。日本の自動車メーカーは、そこも織り込んだ上で、冷静に対応していくかと」

なんとも〝トホホ〟な結末だが――国沢氏は、今回の騒動をこう総括する。

「トヨタは2025年上半期の世界販売台数で6年連続首位。まさに自動車業界の絶対的リーダーです」

その役割を、今回もしっかり果たしたのだと続ける。

「トヨタは、ほかの自動車メーカーにとって、トランプ関税の〝防波堤〟のような役割を果たしている。だからこそ、今回の『100億ドル投資』という発言の裏には、トヨタが業界全体を守る盾として機能しているという構図があると思いますね」

とはいえ、相手は地上最強国家を率いる〝理不尽大王〟トランプ。関税バトルは、これで終わりじゃないはずだ。

取材・文/週プレ自動車班撮影/山本佳吾写真/時事通信社

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