2019年に高校の同級生で結成された、平均年齢22歳の4ピースバンド「ハク。」。サカナクションやMrs. GREEN APPLEを始めとする日本のロック、ポップスからの影響も受けつつ、シューゲイザーやオルタナ、インディーロックの風味も感じさせる音楽性が早くから話題になり、10代才能発掘プロジェクト「十代白書2021」ではグランプリを獲得。昨年は、自主企画ライブでの対バン相手だったMONO NO AWAREの『かむかもしかもにどもかも!』のカバー動画をYouTubeに上げたところ、キュートな演奏スタイルと早口言葉の歌がSNSを中心に大バズり。2025年11月現在で再生回数1600万回超、日本のみならず世界中からコメントやコピー動画が寄せられている。
そんなハク。が、9月にデジタルシングル『それしか言えない』でメジャーデビューし、10月15日はメジャー2曲目となる『夢中猫』もリリース。12月には韓国でのワンマンライブや、来年3月には過去最大規模の東名阪ツアーも控えている彼女たち。懐かしくも新しいハク。の音楽はどのように作られているのか、ボーカル・ギター、そして作詞作曲を担当する「
あい」に話を聞く。
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【感情が動かないと曲は書けない】――昨年のカバー動画のバズりも含めて、バンド結成以来、着々とバンドのフォロワーが増えていってますが、あいさんから見てハク。のターニングポイントはどこだったと思いますか?あいたぶんメンバーそれぞれでターニングポイントってあると思うんですけど、個人的に言うなら、毎年8月9日に開催している自主企画イベント「ハク。の日」は、バンドに対するモチベーションとか気持ちを更新していってる気はしますね。
毎年毎年、自分たちの好きなバンドをお呼びしているイベントで、去年と今年は同じ会場でしたけど今年ようやくソールドアウトできて、そこが一番うれしかったです。「ハク。の日」があるから次のステップに進めるというか。
――そして9月にはトイズファクトリーからメジャーデビューしました。制作面で変わったことはありますか?あいやっぱり私たちに関わってもらう人の数も増えたし、制作面では「こういうアニメの曲を作ってみない?」っていうタイアップの声をかけてもらうことが増えましたね。
――自分で自由に曲を作ることと、タイアップの曲を作ることに違いってありますか?あい「こういう曲調でお願いします」みたいなお話をいただけるんですけど、その作品を読み込んだり、観すぎたりすると感情が寄り添いすぎてうまく書けないことがあるんです。だから作品をいろんな角度から観ないと難しいなっていうことに最近気付きました。
例えば、去年は『シナぷしゅ』(テレ東系の乳幼児番組)の曲(『あいっ!』)を担当させていただいたんですけど、自分が2、3歳だった頃の視点で番組を観てみたり、一緒に観るであろう保護者の角度からも観てみたり......駅のホームで赤ちゃんとお母さんがいたら、その親子どちらの視点も観察するようになったし、タイアップのおかげですごくいろんな視点からの情報が必要だなって思うようになりました。
それは、スタッフの方に「幼児向け番組だから、その子たち向けに曲を作るというよりも、赤ちゃんも大人も同じ視聴者だと思って作ってね」って説明していただいたのが大きいですね。タイアップと聞くと作品に寄り添いがちになりますけど、必ずしもそれが正解とは限らない、っていうところに気付かされました。

4ピースバンド「ハク。」のメンバー。左からあい(Gt.&Vo.)、まゆ(Dr.)、なずな(Gt.)、カノ(Ba.&Cho.)
――10月にリリースされた新曲の『夢中猫』も、WEB アニメ『うごく!ねこむかしばなし』の主題歌ですが、この曲はどうでしたか?あい一見、すごくかわいくてゆるい作品なのかなって思って読んでみたら、たしかにかわいいけど、猫たちがすごく確信をついた一言を言うんです。それを見て、ほどよいシュールさというか、「かわいいだけじゃないぞ」っていうのがめちゃくちゃツボになってて、楽曲の中にも、ゆるい要素を取り入れつつ、メッセージ性とか現実的なところも入れて作りましたね。
――タイアップでない、普段自分たちで作る曲の場合は、どういうものからヒントを得て作ってるんですか?あいやっぱり、良くも悪くも感情が動いた時にすごく言葉が出てくるんですよね。だから。どんなピースでもいいのでとりあえずメモして書き溜めておくことが多いです。
例えば何かにムカつくことがあったとして、その「ムカついた」ってことを書くんじゃなくて、その感情に音が付いてたらその擬音を書いておくとか、ムカついた人の顔を描いておくとか、ムカついた場所を書いておくとか、そういう抽象的なことが多いですね。そういう抽象的なパーツから歌詞が出てきます。
――歌詞が先で、あとから曲を付けるんですか?あい作り方は結構いろいろあって。同時の時もありますし、オケが出来てから歌詞を入れる時もあれば、サビの歌詞だけが決まってて、そこにギターとかオケが付いてきてみたいなの時もあります。
でもそれによって、いつもと違うギャップがあっていいってなったこともあるし、めちゃくちゃダサくなったこともないので、作り方はいろいろあっていいんだと思ってます。
――歌詞以外の楽曲の部分は、あいさんが基礎となる部分を持っていって、メンバーみんなで作り上げていくんですか?あい基本的にはそうですね。でも2023年から河野圭さんというプロデューサーさんと一緒に作っていて、最初に河野さんにデモを持って行って、そこで先に2人で編曲することが増えました。
河野さんとの作業を経てからメンバーにデモを渡してるので、「こういうギターフレーズがいいかな」みたいなメンバーの意見も取り入れつつ、河野さんとも作りつつで、最終的にそれらが合わさって曲になることが多いです。
それと、個人的には楽曲には必ず引っかかる部分、フックみたいな場面を作りたいと思っていて。実際河野さんと編曲する時も、何か引っかかるような、ちょっとずつ面白い方向に進めていこうってなることが多くて。河野さんと作業してると頭がクリアになって、よりアイデアが出ることが多いし、やっぱり楽しく作るのが一番だなってことに最近気付きました。
【ハク。が90年代やオルタナ、シューゲイザーを想起させるのはなぜ?】――楽曲面で言うと、例えばYouTubeのコメント欄で「90年代を思い出す」とか、「昔のオルタナやシューゲイザーを思い出す」といったコメントを残している人もいますけど、そのあたりはどのように受け止めていますか?あい正直すごくうれしくて。4年ほど前に『カランコエ』という曲をリリースした時から、「昔のことを思い出した」みたいなコメントが付きはじめたんです。
何がそうさせてるかは分からないですけど、ひとつは歌詞を言い切らないようにしていることと関係あるのかなって思ってます。言い切らないことによって、そのやんわりとした感じが何かを想像させるものに繋がってるのかなって。
あとはなんでなんだろうな。でも自分の「なんか心地いいな」っていう音や言葉を選んでいるので、それがみんなと一致しているのかなって思います。
――メジャーデビュー曲の『それしか言えない』なんて、自分が当事者だった90年代の音楽の要素を勝手に感じちゃったんですけど、なんでなんですかね。あいなんでなんですかね(笑)。でも、あの曲は元々作ってたデモから全然変わってなくて、いわゆるシューゲイザー的な音にも挑戦してみたかったんですよね。まっすぐ前を向いて歌うというより、4人が内向きに演奏をしていて、その4人の音を聴いた人たちが惹き付けられて集まってくるような、そういうのもカッコいいなって。
――それは、そういう音楽を聴いてきたからですか?あい全然普通に、みんなが聴いてるような音楽を聴いてきたと思います。でも、高校生の頃に音楽をきちんと聴き始めて、歌詞の面で言ったらサカナクションの山口一郎さんや中村佳穂さん、青葉市子さんの歌詞はすごくいいなって思ってちゃんと読むようになりました。
難しい言葉を使った表現のカッコよさもあるとは思うんですけど、誰しもが使う言葉、分かりやすい言葉を使って自分なりの表現をしてるアーティストにすごいグッときて。そこからいろんな文字の可能性というか、いい歌詞に興味を持つようになりましたね。
――ただ、ハク。がすごいのは日本語が通じない海外のリスナーからの反響も大きいところですよね。英語はもちろん、韓国でも反響があったり、南米のスペイン語圏からのコメントもたくさんあったり。国境を越えて世界で認知されているところについてはどう思いますか?あいいやそれが全然実感がなくて(笑)。でも、海外でライブをしたらすごく実感が湧きました。海外なのに目の前に日本語で一緒に歌ってくれてる方がいて、すごくビックリなんですけど、「なんでこの言葉が届いてるんだ」とかは全然分からなくて。
でも、そんな疑問よりも「あなたたちの曲は私の支えです」みたいなコメントを読むとうれしさのほうが大きいので、あんまりそこまで深くは考えてなかったですね。
――最近は海外でも積極的にライブをしていますが、各国の反応はどうですか?あい国によって反応は全然違うんですけど、どの国も反応がすごくて。「そこがコールアンドレスポンスになるんだ!」とか「一緒にコーラス歌ってくれてる!」とか、反応がすごすぎて、何でも可能性ってあるんだなって思いました。
国や都市によってシャイそうな人が多いところもありますけど、それでもどこもみんな感情を閉じ込めておけないような人が多くて、そういうのを表してくれる人が多いとうれしいですよね。
――ライブは、楽曲の印象以上にパワフルですよね。いつもどういう意気込みで臨んでるんですか?あいライブなので、もちろん場を盛り上げることを意識してはいるんですけど、個人的には曲によって感情がコロコロ変わるんです。例えば『回転してから考える』とか『それしか言えない』『dedede』みたいな激しい曲の時は、自分がしんどそうになって歌ってる時のライブが一番良かったり(笑)。
逆に『あいっ!』とか『奥二重で見る』とかは、みんなを巻き込んでひとつの輪みたいな感じになってるのが一番良い状態で、だから本当に曲によってその時の感情はそれぞれ違います。
たぶんメンバーみんながそれぞれそういう部分を持ってると思います。もちろん曲ごとに、「この曲はこうしよう」みたいな話はしますけどね。例えばカノ(ベース、コーラス)だったら表情とか弾きざまに想いが出るし、なずな(キター)はあまり動かないけど、そのたたずまいに良さが出ていたり。そうやってメンバーそれぞれで出し方が違うことが、総じてバンドの力強さに繋がってる時もあると思います。
【憧れのバンド像、そして秘密のエピソード】――将来的に憧れるバンド像ってあります?あい特定の誰かというよりも、バンドの中に共通の「好き」を持ってて、それをずっと好きでやり続けてるバンドがいいなって思いますね。めちゃくちゃ知名度があっても小さなハコでもやり続けるとか、場所とか土地に愛されてるバンドとかもいいなって思うし。
――最後に、週プレNEWSで初出しになるような秘密のエピソードがあれば教えてください。あいなんだろう......。音楽以外だと泳ぐのがすごく好きで、例えば海外遠征でホテルに泊まる時なんかは、そのホテルにプールが付いてるかを必ず調べて、水着を持って行って泳ぐようにしてます。あとは街中に落ちてるゴミを見て、「めっちゃいいな」って思うゴミがあったらそれを写真に撮って溜めておくのが趣味です(笑)。
――ゴミの写真!?それをどうするんですか?あいいや、どこにも出してないんですけど(笑)。やっと30枚くらい集まってきたから、プリントして冊子にして物販の端っこに置いておいて「ご自由にどうぞ」ってしようかな(笑)。
■ハク。2019年結成、あい(ボーカル、ギター)、なずな(ギター)、カノ(ベース)、まゆ(ドラム)の4人からなる平均年齢22歳の4ピースバンド。2021年、10代才能発掘プロジェクト「十代白書2021」にてグランプリを獲得。2022年1月に初のミニアルバム『若者日記』、2023年には1stフルアルバム『僕らじゃなきゃダメになって』、2025年1月にはEP『Catch』をリリース。9月10日には配信シングル『それしか言えない』にてTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー。10月15日にWEBアニメーション『うごく!ねこむかしばなし』主題歌『夢中猫』をリリースした。
公式Instagram【@haku___official】
公式YouTube【@haku_circle】
取材・文/酒井優考撮影/三森いこ
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