ウクライナから角界入りした、今最も大関に近い男・安青錦が語る「高みを目指す決意」

低くてなおかつ前に落ちないレスリング仕込みの取り口を多くのライバルたちが研究してくるが、それを乗り越える自信は十分だ

ウクライナから角界入りした、今最も大関に近い男・安青錦が語る「高みを目指す決意」

11月12日(水) 6:15

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低くてなおかつ前に落ちないレスリング仕込みの取り口を多くのライバルたちが研究してくるが、それを乗り越える自信は十分だ

低くてなおかつ前に落ちないレスリング仕込みの取り口を多くのライバルたちが研究してくるが、それを乗り越える自信は十分だ





日本の相撲界に入って、まだ3年足らず。

今年9月の秋場所では最速(1958年以降)の、初土俵から所要12場所で新三役(小結)に昇進したのが、ウクライナ出身の安青錦(21歳)だ。

その秋場所でも11勝を挙げて、技能賞を獲得。今月9日から始まっている九州場所では「最も大関に近い男」と、注目を集めている。

九州場所のために福岡入りする前はロンドン公演(10月)や大阪での後援会発足パーティ、場所中に宿舎を構える久留米市でも保育園児とのちびっこ相撲など行事がめじろ押しだが、「疲れですか?焼き肉を食べて、ぐっすり寝ているから大丈夫!」と、本人は忙しさを意に介さない。

安青錦が日本にやって来たのは、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年春のことだった。

高校時代から世界ジュニア相撲選手権などで活躍していた安青錦は、地元の国立大学に進んで、アマチュア相撲を続ける予定だった。

「生活をするのもやっとという環境の中、相撲の稽古をするような状況ではなかったですね。18歳になると徴兵もあるので、『この先、どうなってしまうのだろう......』という不安も、正直ありました」

そんなときだった。大阪府堺市で開催された国際大会で知り合った関西大学相撲部の山中新大主将(当時)らの勧めもあって、日本行きが決定。主将の自宅に寝泊まりしながら、相撲の練習を続けることになったのである。

「関大相撲部や報徳学園高の土俵などで稽古をしていたのですが、その間、1ヵ月くらい日本語学校にも通ったんですよ」

学生らと日々コミュニケーションを取るうちに、日本語も上達した。

「ダーニャ(安青錦の愛称)は探究心が強いんです。わからないことは相撲に関しても私生活のことでもすぐに質問して、それを習得する。そして、謙虚なんです」

来日当時をこう振り返るのは、関西大学相撲部総監督の桝井繁春氏だ。

「彼は『練習生』という扱いでウチの大学で稽古していましたが、熱心な稽古は部員たちのやる気をかき立てました。22年には、西日本学生リーグ2部で優勝して、44年ぶりに1部に昇格したほどです。私としては、関大の学生としてこのまま大学に残ってもらいたいという思いもありました」(桝井氏)

そうしたダーニャを大相撲の世界にスカウトしたのが、安治川親方(元関脇・安美錦)だった。創設したばかりの同部屋に、外国出身力士がいなかったことも決め手となった(外国出身力士は、各部屋原則ひとり)。

安青錦新大というしこ名の下の名前は、15歳で初めて日本に来たときに友達になった関西大学相撲部主将・山中新大氏からもらった

安青錦新大というしこ名の下の名前は、15歳で初めて日本に来たときに友達になった関西大学相撲部主将・山中新大氏からもらった





しこ名は、師匠から「安」と「錦」の文字を譲り受け、ウクライナ国旗の色「青」を取り入れて、「安青錦」。下の名前・新大は、恩人である山中新大氏からもらった。

序ノ口デビューの23年九州場所でいきなり優勝。翌24年初場所も序二段で優勝と、安青錦は順調な出世を見せた。

「関大に稽古に来たときから、私はダーニャに勝つことができなかったんです。だから、幕下くらいまでは順調にいくのでは?と思っていました」(山中氏)

旧友もこう語るように、4場所で幕下に昇進。幕下を3場所で通過して、入門から1年後の24年九州場所で、早くも十両に昇進したのである。

ここまで、負け越しは一度もない。さらに快進撃は続く。25年春場所では、新入幕を果たして11勝。敢闘賞を受賞する。ほぼ無印だった安青錦は、一気に「注目の新鋭力士」として注目を浴びるようになった。

182cm、140kg台の体は、幕内力士の中では最も小柄な部類に属する。

あの細い体のままではすぐに壁にぶち当たり、快進撃もいずれ止まるだろうとみる向きもあったが、翌夏場所も11勝を挙げて敢闘賞を受賞。勝てる理由は、驚異の前傾姿勢での攻めと、体幹の強さだ。7月の名古屋場所では、横綱・豊昇龍から金星を挙げ、翌秋場所でも豊昇龍から白星をもぎ取った。



ほほ笑みながらインタビューに答える安青錦関。この日はほかにも2件取材が入っており、注目度の高さがうかがえる(写真/武田葉月)

ほほ笑みながらインタビューに答える安青錦関。この日はほかにも2件取材が入っており、注目度の高さがうかがえる(写真/武田葉月)





日本語もさらに上達した。

「関取になると個室をもらえるんですが、ほかの力士と一緒に大部屋でわちゃわちゃしゃべっているのが好きなんです(笑)」と本人が語るように、部屋にも溶け込んでいる。

「時間があると、安治川部屋の近所の銭湯に行くのが楽しみなんですよ。今泊まっている宿舎のある久留米にも、いっぱい温泉があります。毎日というわけにはいかないですけど、部屋の力士たちと連れ立って行っています」

オンオフの切り替えもうまくいっているようだ。

久留米市といえば、「とんこつラーメン」の発祥の地ともいわれているが......。

「とんこつラーメン、おいしいですね!若い頃は、いや今も若いんですけど(笑)、替え玉6個なんてこともしていたけれど、今は自粛しています。

自分はどっちかというと、あっさりしているものが好きなんですよ。焼き肉だったら、タンとかロース。おすしも好きですし、魚もなんでも食べます。特に九州は魚がおいしいから、ホントにうれしいです(笑)」

と、屈託のない一面も見せてくれた。

体を大きくするために、日々の筋トレも欠かさない。

10月のロンドン公演中も、ほかの関取衆が観光を楽しむ中、市内のトレーニングジムで筋トレに励んだほどだ。その成果が徐々に出て、太もも、尻の周辺がひと回り大きくなり、体重も増えたという。

「ロンドンみたいな、古い街並みや建築物は心が落ち着きますね。アマチュア時代は、国際大会でフランス、オランダ、ポーランド、エストニアなどの国に行きましたが、ロンドンは歴史の深さを感じます。来年のパリ公演も楽しみです」

早くも来年を見据える安青錦。新関脇で迎える九州場所で12勝、あるいはそれ以上の好成績を残せば、一気に大関昇進への道も開ける。

「先場所よりいい相撲を取りたいですね。そして、もっといい成績を残せるように......。まだ、番付には上(大関)と、その上(横綱)がありますから、もちろん上を狙っていきます」

稽古十分の自信がそうさせるのだろう。安青錦はしっかりと前を向いた。

取材・文/武田葉月撮影/ヤナガワゴーッ!

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