現役時代に広島カープなどで人気を博し、引退後は解説者や指導者として活躍した高橋慶彦さんに、かつての思い出を語ってもらうインタビューの第2回。先輩との関係から、後輩への飛び蹴り事件まで、今回も楽しく語ってもらった(聞き手・上重聡さん)。
上重聡(以下、上重)当時のカープのメンバーは、キャラクターが濃いですよね。
高橋慶彦(以下、高橋)濃いだろう、どう見ても。
上重山本浩二さん、衣笠祥雄さん、達川光男さん、北別府学さん......。
高橋大下(剛史)さんもいたし。みんな濃いやろ。すごいわけよ。
上重どういう関係性だったんですか。慶彦さんは年齢的には下ですよね?
高橋そう。だから全然相手にしてもらってなかったね。当時はみんながしっかりした選手だったので、「若いのが元気よくやってるな」っていう感じで、(自分は)自由に遊ばせてもらってた。どうぞ、どうぞって。なにしろ、仲間意識がないから。
上重え、そうなんですか。
高橋まったくない。仲がいい感じはない。
上重カープというと、すごく結束力が強いイメージですが。
高橋ゴルフクラブって、キャディバッグに入ってるからまとまっているだけやん。
上重なるほど、球場に来たらまとまるけど......。
高橋そこではまとまるけど、あとは全部各々って感じ。俺の仕事は俺がやるから、次の人も自分の仕事をしてね、という感じ。球場からホテルに帰っても誰もいない。
上重一緒に飲みに行ったりとかもない。
高橋みんなバラバラでね。門限もなかったし。
上重その代わり、グランドに集まったら、よし、やるぞと。
高橋そう。やることはやりますよって感じ。
上重ある意味、それが理想ですよね。今(のプロ野球)はもう、常に仲がいいという感じですかね。
高橋でもゴルフでも、仲がよくて手をつないだとしても、いいドライバーショットが打てるってこともないやろ?気持ち悪いし(笑)。だから、そういう感覚はなかったね。今は、バント(が成功)したらハイタッチをするやん。でもそんなの当たり前やろって感じ。
上重当たり前のことをやって、次どうぞ、と。
高橋だって、同じポジションの選手が打席に立つと、ベンチで「打つなよ〜、打つなよ〜、よし、打たんかった」って感じだった(笑)。
上重同じチームなら、打った方が点数が入っていいじゃないですか。
高橋いやいやいやいや、自分のポジションやから。もう、ぶっちゃけ、「頑張れ」じゃない。みんな自分のポジションを取らなきゃいけないから、足の引っ張り合い。それがプロ野球だよ、本当は。俺たちの時代はね。自分が生き残るためには、そうしないといけない。今はもう、みんなでわあって楽しんでいるから、いいな、こういうところで野球をやりたかったなと思うけど、俺たちの時代は違ったよね。俺、ホームランを打ってベンチで喜んでいたの。そうしたら、横にいた同じショートの先輩が、「お前だけだよ、うれしいのは」と。そういう世界よ。
上重なるほど。
【北別府学さんとは「すごく仲が悪かった」】高橋本当に強いチームなら、そうなっていくんじゃないかと思う。(当時の)カープが強かったのはなぜかって言うと、ドライバーがヘタれそうになってきたら、次のドライバーを準備できていた。だからあの頃、新人王が多かったんじゃないかな。
上重どんどんいい選手が出てくる。
高橋小早川(毅彦)もそうだし。俺は2軍の時から1番で育てられてるんで、盗塁しなかったら怒られてた。
上重これも慶彦さんに聞いたことがあるんですけど、北別府さんとはあまり仲が良くなかったそうですね。
高橋(即座に)"あまり"じゃない。
上重慶彦さん、あえて丸く言ったんですよ(笑)。
高橋すごく、すごく悪い(笑)。
上重でも同じポジションだとライバルになりますけど、ショートとピッチャーでしたよね。しかもレギュラー同士、おふたりとも主力じゃないですか。
高橋両雄並び立たず、と言うやろ。
上重なんかかっこいい言葉で言ってますけど、ただ仲が悪かっただけですよね。
高橋ペー(北別府)もめっちゃ気が強いからね。
上重慶彦さんも気が強い。でもお互いのことは認めていた?
高橋それはある。試合に入ったら、好き嫌いは全然関係ない。でもペーが牽制する時、パッと足を外すと、「投げろよ」と思ってた(笑)。
上重いや、ピッチャーの間とかもあるじゃないですか。確かに北別府さんは、ゆったりでしたけど。
高橋そう。牽制も、外すだけだったら投げろよって。でも今思えば、ペーは亡くなってしまったから、ゆっくり酒を飲んで、いろんな話をしたかったなと。(自分の)YouTube(『よしひこチャンネル』)にも出てくれると言っていたし。
上重おっしゃってましたよね。
高橋あまりにも似すぎていたから、合わなかったんやろうなと思う。
上重逆に仲がよかった人や一緒に食事などに行っていた人はいますか?
高橋あまりいなかったけど、かわいがってもらっていたのは、江夏豊さんと衣笠さん。このふたりも単体(で行動する人たち)やから。
上重あのおふたりに呼ばれるんですか?めちゃめちゃ緊張しますよね。
高橋まったくしなかったよ。緊張するのは江夏さんの後ろを守っていた時だけ。「お前、エラーするなよ」って言われるから。でも普段はそんなことないのよ。
上重そうなんですか?オンとオフが切り替えられていた?
【「ボールが怖いなら、辞めてしまえ」】高橋江夏さんも衣笠さんも、単体でそれぞれに仲がいいから。あと、俺は衣笠さんに救われたことがあって。広島市民球場で(ヤクルトの)松岡(弘)さんから150キロのボールを、ここ(側頭部)にまともに喰らったんよ。それでバーンと倒れたら、衣笠さんと(山本)浩二さんと(監督の)古葉竹識さんがやってきて、古葉さんがひと言目に、「行くんか、行かないんか、どっちや?」と。
上重いきなりですか。「大丈夫か?」とかないんですね。
高橋そう。だから「い、行きます」と言ったよ。
上重言うしかないですよね。
高橋でも(山本)浩二さんと衣笠さんが「もう行くな」って言ってくれて、俺、救急車に乗ったんだよ。なんともなかったけどね。それから何回か試合に出た時、(ボールが)怖かった。それで横浜の遠征先のホテルで、衣笠さんに部屋に呼ばれて。「お前よ、ボールが怖いならやめてしまえ」と怒られたのよ。好きな人って怖いよね。嫌いな人って、別にどうでもいいから、叱られても「あ、わかりました」って流せるでしょ。
上重そうですね。
高橋でも、大好きな人に怒られたら、めっちゃ怖い。そこは人間心理。(それから)ボールが怖くなくなったんよ。
上重好きな衣笠さんが言ってくれたから。
高橋そっちのほうが怖いから、ボールより。「衣さんが怖い、衣さんが怖い、あ、ボールはもう大丈夫!」そんな感じ(笑)。
上重特に衣笠さんといえば、鉄人ですから、まさに一番ボールを怖がらない方という。
高橋そのおかげで、乗り越えられたところはあるよね。だから人って面白いなと。怖いという感情は、好きだから感じるんだなと。
上重確かにそれはあるかもしれないですね。
高橋だって嫌いな人に言われたって、「すみません」で済むでしょ。
【「肩がおかしい」と言ったら「笑えや」と返された】上重逆に今だから謝りたい人はいますか。
高橋たくさんおるね!(一同爆笑)でも俺、YouTube(の番組)でずっと謝ってきてるから。お詫びシリーズがあるからね。小早川にも「ごめんなさい」「すみませんでした」って。
上重慶彦さんも、当時のカープの伝統を受け継いで、後輩には厳しく接していましたか?
高橋俺は野球が大好きだから、野球には厳しかったね。ただ、正田(耕三)には飛び蹴りしてる(笑)。神宮外苑で。
上重(正田さんとは)二遊間のコンビじゃないですか。なんで飛び蹴りするんですか。
高橋正田が「肩痛い、肩痛い」って、あまりにも言うからさ。当時、衣笠さんも山本浩二さんも怪我をしていてたんだけど、「痛い」とは誰も言わなかった。だから、正田に注意したのよ。でもまだ言うから、2回目の注意をした。そしたら試合前にふたりで並んで走る時に、正田が逃げた。無視したわけよ。だからバーって走っていって、ドーンと飛び蹴りして、「貴様、無視すんな!」と。
上重いやいや、「肩痛い」って言ってるじゃないですか。
高橋今はめっちゃ仲いいよ。でも、プロ野球にはそういうこともあるよな。あと「休みたい」と言ったら、「いつまで休むの?ずっと休む?」と返される。そんな世界よ。
上重以前におっしゃってましたね。
高橋あと、藤井弘さんというバッテリーコーチに「ちょっと肩がおかしいんですよ」と言ったら、「笑えや」と。なんで?その「おかしい」じゃないんですよ、と。「足、張ってるんですよ」と言ったら、「剥がせや」と(笑)。「貼ってる」わけじゃないのに。
上重面白いですね(笑)。
高橋ほんまそうよ。でもそれにも慣れてしまうよね。
上重休んだら終わりだぞ、と。今回はあらためて、昭和野球の恐ろしさがわかりました。
高橋まあ、使えない話がたくさんあったと思いますけど(笑)。