現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
エルチェ戦で久保建英は1カ月半ぶりの先発復帰を果たし、レアル・ソシエダはラ・リーガ4試合連続無敗をキープ。ケガが回復しコンディションも戻ってきたようだ。サン・セバスティアンの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』で、長年レアル・ソシエダの番記者を務めるマルコ・ロドリゴ記者が、この1カ月半の久保の様子をレポートする。
【久保離脱の穴を新加入のゲデスが埋める】
足首負傷によりサン・セバスティアンで2週間の休養を強いられた久保建英は、ベストコンディションを取り戻した状態で日本代表に参加できることになった。
エルチェ戦でコンディションの回復を見せた久保建英photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
久保は9月6日のメキシコとの親善試合で左足首を負傷して以降、11月7日のエルチェ戦までのラ・リーガ8試合で先発できたのは2試合のみ。一方、久保離脱時に右サイドで代役を務めたゴンサロ・ゲデスは、5試合でスタメン入りして1得点1アシストを記録し、そのチャンスをものにした。パフォーマンスは向上し続け、監督とサポーターを大いに満足させている。
この状況を見て、久保のレギュラーの座が危ういと考える人がいたかもしれない。だが、ゲデスは久保と全く異なる特徴を持つ選手のため、その座が脅かされることはないだろう。
ベンフィカの下部組織で育ったゲデスは、2017年1月に3000万ユーロ(約52億5000万円)でパリ・サンジェルマンに移籍した後、バレンシアへのレンタル移籍により欧州の舞台において重要な選手へと成長した。バレンシアは1年後に移籍金4000万ユーロ(約70億円)で買い取り、4シーズン後にウォルバーハンプトンへ3260万ユーロ(約57億500万円)で売却している。
ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)が今夏支払った400万ユーロ(約7億円)を含めると、ゲデスのキャリアを通じて動いた移籍金は合計1億660万ユーロ(約186億5500万円)に上る。これは彼の実力を証明するものだが、最後の移籍金はまもなく29歳を迎える選手の価値の低下を如実に物語っている。
ゲデスはウォルバーハンプトンで51試合に出場し、7得点6アシストを記録した。この成績は決して悪くはないが、クラブは満足せず、ベンフィカとビジャレアルへのレンタル期間を経て、ラ・レアルに完全移籍。これはゲデス自身も喜んで受け入れた移籍だ。
ゲデスは今夏のラ・レアル加入時、「最高のパフォーマンスを発揮できたラ・リーガに戻ることがずっと目標だった」と語っていた。当初は左サイドやセンターフォワードのポジションを強化するために獲得されたが、ここまでは主に久保と同じ右サイドで起用されてきた。
久保は負傷するまで右サイドの不動のレギュラーであり、彼の調子はセルヒオ・フランシスコ監督のプランに常に大きな影響を与えてきた。だが今はゲデスも一定のレベルでプレーできる状態にある。
ゲデスが好調を維持しているので、今後のポジション争いの行方は大いに気になるところ。だが、久保がこれまでずっと攻撃の要であったことを忘れてはいけない。
【ブラジル戦後に痛みが再発】
左サイドですばらしいパフォーマンスを発揮しているアンデル・バレネチェアが今季、久保の負担を軽減しているのは間違いない。しかし、彼のフィジカル面の安定性も限界を迎えたようだ。バスクダービー(11月1日のアスレティック・ビルバオ戦)で負傷交代を余儀なくされ、その代わりに出場したアルセン・ザハリャンも終盤に筋肉系の問題を抱えていた。
これによりエルチェ戦では、ゲデスがバレンシアで輝かしい活躍を見せた左サイドへの復帰のチャンスを得た。今後は控えと先発を交互に務めながら前線のさまざまなポジションでプレーすることになると思うが、主に左サイドでの起用が予想される。久保の足首に問題があった場合は再び右サイドに戻るかもしれないが、久保のフィジカル面の見通しは明るい。
久保は日本代表でブラジルに歴史的な勝利を収めてサン・セバスティアンに戻ったが、セルヒオ・フランシスコによれば、その時点で、ケガはかなり回復していたという。しかし、ラ・リーガ第9節セルタ戦前の練習中に不自然な動きをしたことで痛みが再発。チームに帯同せず、次の2試合(セビージャ戦、国王杯のネグレイラ戦)も欠場し、バスクダービーでようやく復帰した。
そのバスクダービーでは、後半18分にゲデスとの交代でピッチに入ると、最高のパフォーマンスを発揮。相手を抜き去り、ボールを正確にコントロールし、チームの勝利に貢献した。
久保は「痛み止めの注射を打ちながら試合に出ていた」と明かしたうえで、「選手が所属クラブで試合に出ている場合、代表に招集されるのは当然のこと」と話し、セルタ戦前日のケガ再発を残念がった。さらに「足首の痛みを再び感じたらプレーを止めるつもりだ。50%の状態で試合に臨むのは意味がない」と慎重な姿勢を見せた。
そして、ピッチ外の話題で家族について尋ねられた際には不快感を隠さなかった。昨季までサン・セバスティアンで一緒に住んでいた弟の瑛史(セレッソ大阪)と母親が日本に戻ったため、久保は今季、ひとり暮らしをしている。不振の原因はそこにあると考えるサポーターもいるが、実際の原因は足首に大きな問題を抱えながらプレーしてきたためだ。
「私生活を話題にされたり、家族にスポットライトが当たるのは好きじゃない。家族は大好きだけど、僕は常に自立して、自分のためにサッカーをしてきた。何も知らない人たちに、ひとり暮らしがピッチでのパフォーマンスに影響を与えていると言われるのは嫌だった」
【コンディションが整いゲデスと共存へ】
バレネチェアがアスレティック戦で負傷したことで、エルチェ戦では久保とゲデスの共存という新たな道が開かれ、久保は9月24日のマジョルカ戦以来となる先発復帰を果たした。
試合前日、セルヒオ・フランシスコは「我々は1カ月半、タケの足首のケアをいろいろとやってきた。そしてセルタ戦前に再発した際、医師、コーチングスタッフ、そして選手自身で、100%の状態に戻るまでプレーさせないという決定を下したんだ。彼は今、100%に近づいてきたのでメンバーに加えた」と説明した。
一方、ゲデスについては、「我々が求めるリズムや要求に適応し、日々よくなっている。そして、チームにとって自分が重要な存在であると実感しており、自信を持っている。3つの攻撃ポジションでプレーでき、そのすべてでいい働きができる」と述べている。
エルチェ戦では久保を右サイド、ゲデスを左サイドに配置する布陣で臨んだ。今季1部に復帰したエルチェは卓越したボールコントロールで、幸先のいいスタートを切っている。今回の対戦でも、試合を通じてそのプレースタイルを貫かれ、ラ・レアルは守備に多くの時間を費やした。そんななかで迎えた最大のチャンスは、ボール奪取後の素早いカウンターから生まれ、そのうちのひとつでは久保が主役となった。
前半半ば、セルヒオ・ゴメスが左サイドから送った絶妙なクロスを、久保がハーフボレーで合わせたが、GKマティアス・ディトゥーロの好セーブに阻まれた。押され気味の試合展開もあって、久保は普段よりもプレーへの関与が少なかったが、ボールを受けた際にはゲデスとの相性のよさを垣間見せた。久保がボールを足元に求め、相手をかわすタイプであるのに対し、ゲデスは素早く深く切り込み、スペースを突くタイプの選手だからだ。
この日は久保が右サイドを動き回ってピッチの幅を広げた一方、ゲデスは左サイドを頻繁に離れて中に入り、エルチェの高いディフェンスラインの裏を狙い、久保にスルーパスを要求した。
この試合で両選手の特性が大きく異なること、そして久保のコンディションが整いつつあることが証明された。久保はアスレティック戦で30分間、エルチェ戦で60分間プレーし、そこまで目立つ活躍はなかったが、フィジカル的な回復を示した。
久保はこの後、母国でガーナとボリビアとの親善試合に臨むが、先月のブラジル戦よりも重要な役割を果たせるだろう。サン・セバスティアンでの2週間の"強制的な休息"が功を奏し、より本来の姿を取り戻し、最高の状態に近づけている。
髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)
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