【アニメ大先生】リマスターで蘇る押井守監督『天使のたまご』余白が生む美学

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【アニメ大先生】リマスターで蘇る押井守監督『天使のたまご』余白が生む美学

11月7日(金) 12:05

人生に迷ったとき、元気がほしいとき、あるいはただ日常を忘れて泣きたくなるとき――そのような瞬間にそっと寄り添う存在がアニメである。アニメには人生のヒントや生きる力が詰まっている。
本コラム『アニメ大先生』は、「人生で大切なことはすべてアニメが教えてくれる」をテーマに、アニメを通じて得られる学びや気づきを綴る連載である。

連載第11回を迎える今回は、8回目の登場となる八木美佐子アナが、4Kリマスターで劇場公開される『天使のたまご』を熱く語る。幻想的な映像美と、静けさの中に息づくメッセージ――独自の視点で読み解く”八木流・アニメ愛”をお楽しみいただきたい。

「リマスターで蘇る押井守監督『天使のたまご』余白が生む美学」

人生でやらかしたことは数えきれません。
学生時代、窓辺で黄昏れていた人に「だーれだ?」と目隠しをしたら、一度も話したことのない先輩だったことがあります。
温泉では、母の背中に話しかけているつもりが、まったく知らない人に人生相談をしていました。
だからこそ、大学で西洋美術を学んだときに、とても感動したことがあります。
西洋絵画には「この人は誰か」を示す決まりごとがあって、白百合を持っていたり、青いマントをまとっていたりする女性がいれば「この人は聖母マリアです!」と持ち物で教えてくれるんです。現実にもそんな”目印”があれば嬉しいですね。

そのことをふと思い出させてくれたのが、押井守監督と天野喜孝さんが手がけた『天使のたまご』です。いまや伝説的な2人がエネルギーをぶつけ合って生み出したオリジナルアニメで、この11月には、40周年に合わせて押井監督監修の4Kリマスター版が劇場で公開されます。

この作品には、そうした”目印”のような象徴が静かに散りばめられています。
水没したような荒廃した都市で、ある少女が”たまご”を大事そうに抱き続けているところから物語は始まります。そこへ、夢で見た鳥を探す銃を持った少年が現れ、2人は行動を共にします。
ところが、この2人の会話は驚くほど少なく、最初のセリフまでに20分以上かかります。
静かで美しい俯瞰のカットが続くなか、まるで美術作品を一枚ずつゆっくり鑑賞しているような感覚になるのです。

画面には聖書や神話を思わせる”目印”がいくつも登場しますが、それが何を意味するのかは最後まで明言されません。1985年のOVA発売当時について、押井監督は「見る側に準備がなかったところにいきなり出してしまった」と語っています。(アニメージュプラス 「不遇の時代を迎えて気づいた『作家である必要はない』理由」 インタビューより)

しかしこの40年で、私たちは配信で何度も見返したり、SNSでほかの人の考察を読んだりと、アニメをより深く味わう術を手に入れました。その場ですぐに答えを出さず、あとで意味を見いだす見方を”余韻”として楽しめるようになったのです。寝かせたワインがおいしくなるように、この40年は、監督が言う「準備がなかった」時代から、作品に追いつくまでに必要な「熟成期間」だったのかもしれません。ワインが一口飲んでから味が開くように『天使のたまご』も、あとから別の味が立ち上がってくる。観る人が、聖書、80年代の空気、自分の経験、監督のコメント――好きな材料でその”余白”を埋められるようになっているのです。
観終わったあとに「どう感じた?」と誰かと話したくなる感覚は、美術館を出たときに近いものがあります。

『天使のたまご』は、観る人を信頼した”余白”が、鑑賞をどれだけ豊かにするかを、40年経った今も改めて証明する作品だと思います。あなたは”たまご”に、どんな物語を重ねますか。
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