10月31日(金) 4:30
まず知っておきたいのが、老後の生活費が実際どのくらいかかるのかという点です。
総務省統計局の「家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要」によれば、65歳以上の夫婦のみ無職世帯における月間消費支出の平均は25万6521円です。この数字には住宅ローンなどの返済は含まれていません。つまり、住宅ローンのない世帯でも、生活には平均で月25万円程度がかかっているということです。
一方、厚生労働省の「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(老齢基礎年金)の平均月額は5万7700円です。
仮に夫婦でそれぞれ老齢基礎年金を満額受け取っていたとしても、令和7年度の月額では合わせて14万円ほどです。今回のケースのように月10万円というのは、国民年金を満額受給していない可能性も考えられ、平均よりも低い水準といえます。
住宅ローンが完済されている点は非常に大きなプラス材料です。家賃や返済負担がなければ、その分を食費や医療費など他の支出に回すことができます。ただし、固定資産税、住宅の修繕費、光熱費、保険料など、家にかかる出費がゼロになるわけではありません。特に高齢になるにつれて医療費や介護費の負担が増える可能性があることも考慮すべきです。
年金10万円で生活するには、平均的な生活費よりも大幅に支出を抑える必要があります。例えば、食費や光熱費、通信費、交際費などを徹底的に見直すことが求められるでしょう。
外食を控え自炊中心の生活に切り替える、格安スマホに乗り換える、趣味や娯楽に使う金額を減らすといった取り組みで、支出を月15万円程度まで抑えることができれば、貯蓄の取り崩しとあわせてなんとかやりくりすることは可能かもしれません。
ただし、それでも医療費や突発的な支出には備えが必要です。特に、高齢になると入院や通院の頻度も増えがちで、そのたびに1回数千円~1万円近くかかることもあるでしょう。介護が必要になれば、その費用も増えていきます。こうしたリスクに備えて、可能であれば現役時代の貯金や資産を取り崩す余地を確保しておきたいところです。
もうひとつの選択肢として、年金以外の収入源を持つことも検討の価値があります。例えば、体力が許せば短時間のアルバイトや地域の軽作業に参加することで、月に数万円の収入を得ることも可能かもしれません。また、空き部屋を貸す、趣味を生かした内職をする、といった選択肢もあります。
さらに、公的支援制度の活用も大きな助けになります。年金生活者支援給付金制度や、低所得者に対する医療費の自己負担軽減制度、介護費用の補助などもあります。支出を減らす工夫だけでなく、使える制度は可能な限り活用する、という考えも大切です。
夫婦2人で年金10万円だけで老後を暮らすのは、統計上も現実的にもかなり厳しいというのが実情です。住宅ローンがないという点は心強いものの、生活費はそれ以上にかかることが一般的であり、年金収入と支出のギャップは埋める必要があります。
とはいえ、「年金だけだから無理だ」と諦めるのではなく、工夫次第で生活を維持する方法は見つかる可能性があります。
支出を見直すこと、必要な支援制度を活用すること、そして可能なら少しでも収入を増やす手段を模索することが大切です。さらに、医療や介護といった将来のリスクに備えて、最低限の予備資金を持つことも忘れてはいけません。
ご両親が今後も安心して生活を続けられるように、まずは現状の支出と収入を整理し、どこに余地があるかを一緒に見つけていくことが重要です。そして、必要に応じて金融機関や自治体の相談窓口を利用するのも有効です。老後を「不安な時期」ではなく、「安心して暮らせる時間」にするために、今できる一歩を踏み出してみましょう。
総務省統計局 家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要 II 総世帯及び単身世帯の家計収支 <参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 図1 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 -2024年-(18ページ)
厚生労働省年金局 令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 III. 国民年金 (2)給付状況 表20 国民年金 受給者の平均年金月額の推移(19ページ)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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