(写真撮影/石原たきび)
10月17日(金) 7:00
「調布の電柱広告がちょっとおかしなことになっている」。そんなうわさを耳にした。さっそく出向いてみると、想像の斜め上をいく展開。しかも、この取り組みは「第14回 東京屋外広告コンクール」の会長賞を受賞したというからすごい。仕掛け人の駐車場オーナー(有限会社えの木・井上一格(かずのり)さん)に話を聞くとともに、話題の電柱広告がある場所を案内してもらった。
「登下校は車に気をつけて!」多摩地域の東端に位置する調布市。調布駅周辺では現在複数の土地開発プロジェクトが進行中だという。
筆者はふだん電柱広告を意識することはほとんどないが、意識して歩いてみると街の至る所にあることがわかる。まずは、一般的なものから。
しかし、次に目に飛び込んできたのは小学生に安全を呼びかけるメッセージ。
これらを企画したのは電柱広告に書かれた「えの木駐車場」を運営する有限会社えの木のオーナー、井上一格(かずのり)さん・41歳だ。
「僕はこのすぐ裏にある第一小学校出身でして、そこに通う子どもたちに何かメッセージを送りたいと思ったのがきっかけです。電柱広告なら必ず目に留まるだろうと。2022年にスタートして、現在は80本近くまで増えました。広告料は1本につき月額3600円プラス消費税です」
なお、大きく「えの木駐車場」とは書いてあるが、主眼は子どもたちへのメッセージだという。井上さんの地元・調布市小島町には他に富士見台小学校もある。
発想がなんともユニークだが、駐車場自体も「ちょっとおかしなこと」になっていた。
「これも子どもたちのために去年の11月から置いているものです。幼稚園児から小学生まで、時には行列ができることもありますよ」
夜はライトアップをするので明るくて防犯にもなるんだとか。
「ちなみに、駐車場名の『えの木』は敷地の前に大きな榎の木が生えていたから。ここの前は旧甲州街道なんですが、その道路を整備する際に一里ごとに木を植えたみたいです」
「そんな由緒正しい木だと知らず、危険防止ということで昭和40年ごろに先代が切っちゃったんですよ。その数年後に市の教育委員会から『貴重な旧跡にあたりますよ』という連絡がありましたが、時すでに遅しですね」
さて、ひと通り話を伺ったところで街の電柱広告を案内してもらおう。
「旧甲州街道は江戸幕府直轄の五街道のひとつで、日本橋を起点に甲府を経て、信州の諏訪宿で中山道に合流します。小島町の一里塚は日本橋から六里目の塚なんです」
「電柱には東京電力の所有物とNTTの所有物の2種類があるんです。今は空き電柱の一覧が表示されるアプリがあるので、それを見て押さえてもらっています」
人気はやはり難読漢字シリーズ。子どもたちが見て漢字を勉強するきっかけになればという思いが込められている。
子どもが電柱を指差して親に話しかけている光景もよく見かけるそうだ。本業は駐車場経営なので子どもとは直接の関係はないが、電柱広告によって子どもたち、ひいては地域とのつながりも生まれた。
「僕が子どものころは調布駅前にあって、よく遊んでいた『タコ公園』。再開発で遊具が移されたんですが、その近くにもタコをあしらった電柱広告を出しました」
地域の夏祭りにタコのキャラクターが入った法被を着ていったところ、子どもたちが「あのタコだ!」と気づいてくれて、用意していたステッカーを配ったそうだ。
井上さんは自社の電柱広告のみならず、さまざまな店舗とのコラボも仕掛けている。面白いのはラーメン店とのコラボ。
「つけ麺がめっちゃうまいんですよ。電柱広告でコラボできないかと思って許可をもらいました。下は一般的な巻き付けタイプ、上は突き出しタイプ。広告料金は同じです」
「じつはデザインにも規制があって、赤色や黄色などドライバーが見て目がチカチカする色は看板の面積の20%以下、かつ4色しか使っちゃいけない。自治体によって規制の厳しさは違うみたいですが」
これらの電柱広告をまとめた画像が圧巻だ。
「日々の業務をこなしつつなので正直大変ですが、地域貢献だと思って取り組んでいます」
このような取り組みは公益社団法人東京屋外広告協会が主催する「第14回 東京屋外広告コンクール」で会長賞を受賞した。「小学校の通学路などの子どもたちが利用する道路付近への設置に力を入れ、難読漢字クイズや交通安全などさまざまなテーマの広告を展開した」というのが受賞理由だ。
電柱を広告媒体として利用する企業はたくさんあるが、井上さんのように独自のアイデアを加えて展開するケースは他に知らない。なお、8月には最新企画の「甲虫安全シリーズ」が加わった。子どもたちが大好きな昆虫を主人公に交通安全を訴えるというものだ。
うーん、調布市小島町からますます目が離せない……。
●取材協力
有限会社えの木
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