(写真撮影/五味貴志)
10月7日(火) 7:00
長野県御代田町は今、移住者が増えている町。軽井沢から車で20分程度のこの町にあるコモンスペース「みよたの広場」が注目されています。かつて町役場があった土地が長年空き地になっていましたが、移住者が主導して借り上げ、地域みんなのための広場にしています。遊ぶだけでなく、仕事や学びもあるという広場、いったいどんな場所なのでしょうか。運営の皆さんに聞きました。
大人も子どもも楽しめる「みよたの広場」長野県御代田町にある「みよたの広場」。誰もがふらりと訪れることができます。遊具はありませんが、ロケットストーブや、太鼓橋、果樹林など、自然との触れ合いを楽しむことができる場所として町民たちが自ら運営する私設の広場なのです。驚くべきことは、この土地を御代田町から運営団体が借りており、賃料を払ってまで運営しています。それほど、子どもたちがのびのびと自然と触れ合うことができる場が限られていたのでした。
筆者が初めて広場のことを知ったのは2025年1月に開設されたクラウドファンディングサイトでの「資金難を脱して広場を存続したい」という呼びかけでした。
住民たちが情熱をかけてつくった広場。ホームページには「町にはこの場所が必要なんです」となぜ始めたのか、なぜ続ける必要があるのか、切々とした思いがつづられていました。文章を読みながら、そこまでする人たちがいるんだ、と驚いたことを鮮明に思い出します。
2022年8月、御代田町の中心部に「みよたの広場」が誕生しました。2020年ごろに移住をした4人が発起人となり立ち上げました。皆さん普段の仕事はさまざまで、会社経営をされる方や金継ぎ作家の方も。出張も多く、御代田町を拠点に、日頃フレキシブルに動いているようです。
広場への入り口は、ドラッグストアの駐車場脇にある小さな小道。よくよく目を凝らさないと見つけられません。敷板の道を踏みしめて入ると、まるでアスレチックのような、森のような、公園のような空間が広がります。
500坪ほどある豊かなスペースには、木々や地域の未活用材、遊具にもなるオブジェやアウトドアスペースが。太鼓橋や、トレーラーハウス、薪割りスペースやウッドデッキに子どものためのブックスペースも。なんとメンバー自作のロケットストーブやストーブの熱で室内が暖められる小屋もあります。
その周りを果樹林や落葉樹、針葉樹が囲んでいます。まだ植えて数年の若々しい木々の間から、木漏れ日と風が差し込む心地よい空間です。
「ここは公園ではないんですよね。そして子どもだけの遊び場でもない。誰でもいつでも利用できる“みんなの広場”です」と話すのは運営メンバーの一人である本間勇輝さん。
遊び方は自由。正解はありません。
私たちが訪れた日は水曜日の夕方。ちょうど近くの小学校に通う男の子たち数名が駆け回って過ごしていました。ゲーム機ではなく、その場にある遊具とも決められていない “仕掛け”を使って、自由な発想で体を動かし、遊ぶ。現代ではあまり見ない光景かもしれません。
あるものを生かして、自分なりの正解を探す
「あるものを生かして、子どもたちは勝手に遊ぶ力があるんですよね。都会にはその環境がないだけで」とほほ笑むのはもう一人の運営メンバーである通称ジョージ(鈴木優介(すずき・ゆうすけ))さん。
広場には大人がいる日もあれば、いない日もあります。適度な距離で見守り、声をかけることはあっても子どもを監視するということはありません。
「大人だから、子どもだから、という序列はない。お互いに平等なので、普通に話しかけて交流します。それに子どもも大人も誰がどこに住んでいるかまで分からない。ここに来れば何となく互いに顔は知っているけれど……。そんな関係性です」(ジョージさん)
普段は自由に駆け回ることができる広場では、定期的にイベントも開いています。
月1回のマーケットイベント「みよたの日曜市」や、運営主催以外のイベントを実施することもあります。ここに集まる人たちがゆるくつながり合い、会話や交流をさりげなく促しているのです。
夜にも楽しいイベントがあります。毎週水曜日の夜は、広場の中心にある焚き火スペースで「焚き火しNight」を実施。ただ揺らぐ炎を眺めているだけでも良いし、持ち寄ったものを焼いてみても良い。参加する人の関わり方に決まりはありません。
「今、キャンプ場でも行かない限り、焚き火できる場所なんて少ないですよね?長野は田舎だし、自然があふれているし焚き火できそうと思われるかもしれないけれど、消防法は全国共通となっていて、長野県でも焚き火はできないのです。都会と一緒です。子どもにとって日常で経験できないこと、つまり焚き火をはじめとした自然との触れ合いが、ここだとできるんですよね」
日がかげり始めたころ、どこかからふらりとやってきた常連の女の子。Aちゃんは小学2年生だと話します。焚き火の日になると欠かさず毎回通っているのだとか。
「焚き火が好きだから、『焚き火しNight』のある日は親に連れてきてもらっているの」とにっこり。
2021年に「この場所を良い形で使いたい」と町から空き地を借りたものの、今のような姿とは似ても似つかないような殺風景な更地でした。駐車場のような硬い土壌。あたり一面は雑草が伸び切っている上に、砂利で埋め尽くされている。これを今の豊かな緑が集うスペースに変えていくのには時間もかかりました。
「この土地を、森のような豊かな土壌に戻していきたい」「さまざまなプログラムを通してこの場所が地域の森とつながったら楽しそう」「森と共にある暮らしの入り口にできないか」そんな思いを胸に、日本財団の「子ども第三の居場所」助成金を活用して、土壌の改善から挑戦することに。地域の住民たちが参加できるワークショップを開き、地道に土壌改良を進めていきました。
広場を囲むように円形の溝を掘り、枝や落ち葉、炭などを詰める。微生物を棲みやすくする「通気浸透水脈」という工法です。
水はけをよくしたスペースは、まるでビオトープのよう。もとの更地からは想像がつかない姿です。
植樹をした後は、堆肥コーナーをつくって作物や植物の肥やしにもできるように。
堆肥や木材は近所の方や職人さんからも分けてもらうこともあります。「不要になって置き場に困っている葉っぱや木材が、ここでは楽しみの一つになる。お互いに幸せですよね」
そこまでしてなぜやるのでしょうか。それは、町で暮らす人たちの横のつながりができていないと、移住してきた皆が実感していたからでした。
誰にも制約されない、好奇心のままに過ごせる場所を「ここ数年、御代田町は移住者が増えているんです。軽井沢に新しい学校ができ、教育移住する人などが増えていて、御代田もそのエリアの一つなんです」と話すジョージさん。
ジョージさんも都心部からの移住者です。
移住してみて痛感したのは、子どもたちがのびのび遊べる場所、町の人たちが気軽に集える場所がない、ということ。移住してきた当時はコロナ禍で、人と触れ合うことが難しかったことも余計に影響していました。
「子どもたちは放課後に公園や学童などで過ごします。ところが自然に触れながら自由に遊べる場所がないんですよね」
“もっと大人が見守ることができる距離で子どもを見守りながら、共に自由に過ごせる、開かれた場所はないのか?”とモヤモヤする思いを持つ移住者たち。“ないならば、自分たちでつくってしまおう”と始めたのが、みよたの広場でした。
「子どもたちが大人から『あれしたらダメ』『これはいい』と制約をされない環境が大事だと思っています。危険と安全の境目を学ぶことは自らが経験をしてみて初めてわかること。手を出しすぎると学ぶことすらもできない。自然はこうした境目を学ぶ場でもあるんです」
この日「焚き火しNight」に合わせて訪れていた、だいちゃん(大後悠(だいご・ゆう)さん)。初めは広場に訪れる一人のユーザーでしたが、今では「焚き火しNight」を仕切る運営メンバーの一人となりました。
「最近は『ここで焚き火やっていると聞いたので来ました』ってくる人が増えているんです。小諸や上田から1時間近くかけてくる人もいるんですよ。キャンプでもしないと、夜の焚き火ってなかなか経験できないから興味深く思っているのかもしれないですね」とだいちゃん。
だいちゃんも移住者の一人。時はコロナ禍の真っ最中。首都圏での暮らしに息苦しさを感じていたことから、転職して、御代田町へ引越してきました。ところが思わぬことで身体をこわしてしまい、好きなキャンプにも行けず心もすり減っていました。
広場に足を延ばしたのは2024年の冬のころ。隣のドラッグストアに買い物に来た時、ふと目にしたのが空にのぼるひと筋の白煙でした。
「あれ、焚き火している?と気になって訪ねてみたら、本当に焚き火をしているんですよ。驚きました。それ以来近くを通れば必ず立ち寄るようになって今に至ります」と話すだいちゃん。
焚き火に訪れるたびに、運営のスタッフと仲良くなり、スタッフの家族と仲良くなっていき、そのお友達と仲良くなる。段々と広がる輪に安心感を抱いていきました。
「御代田町に引越してきてみた当時、都会ほどの窮屈さはないものの、思ったより人のつながりが広がらなかったんです。人に会えるといっても職場の人か、保育園の送り迎えで会うお父さんお母さんぐらい。それも面識がある程度の関係です。だからなんでもない話ができる相手がいないことに悩んでいたんです」
今、広場に関わるようになって1年。だいちゃんは、揺らいだ心身のバランスを取り戻している感覚があると力を込めて言いました。
「もちろん子どものための場所ではあるのだけど、自分にも居場所をもらったなと思っています。いろいろな人がいて、いろいろな過ごし方があり、深い話をすることもあれば、しないこともある。こうやって自分の思いや考えていることを話すことができて、だんだんと元気になっていきました」とほほ笑むだいちゃん。
開かれた場所は何も子どもだけのものではありません。大人にとっても大事な居場所になっているようです。
年間数百万円かかる広場の維持費用。周辺団体さんからの寄付のほか、2025年3月末までは3年間限定で日本財団の「子ども第三の居場所」コミュニティモデル事業の対象として助成金を受け、維持費用を賄ってきました。期間が終了となり、存続について危機を迎えて冒頭のクラウドファンディングに挑戦したのです。これほどまでに愛され、自主的に時間やお金を捧げてつくり上げてきた今までにない民間の広場。次年度以降はクラウドファンディング以外の道のりの模索をしているようです。5年後、10年後、その先へ。今後Instagramなどを通じて、いろんな方を巻き込んだイベントや会員の募集がお知らせされていきます。前例のない広場運営の模索の行方をぜひ追っていきましょう!
●取材協力
・みよたの広場(
Instagram
)
・一般社団法人御代田の根
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