ヤングマガジンで連載中、コミックスの累計発行部数が240万部を突破している大ヒット漫画を実写化した「パリピ孔明」。三国時代の天才軍師、諸葛孔明が現代の日本に転生し、音楽の力で天下泰平の世を実現させようとする。主人公の孔明を向井理、彼が現世で出会う駆け出しのシンガーソングライター、英子を上白石萌歌が演じる。2023年にテレビドラマが放送された本作の劇場版『パリピ孔明 THE MOVIE』がついに公開となった。
【写真を見る】英子の敏腕マネージャー=天才軍師として様々な計略を実行してきた孔明
蜀の劉備に仕えた孔明は軍師としてその才を振るい、魏の曹操や司馬懿、呉の孫権、周瑜といった英傑たちと渡り合ってきた。それは「三国志演義」をはじめ、後世の様々な創作物でも語り継がれており、「パリピ孔明」でも彼が立てたとされる計略が、英子をスーパースターに導くうえで様々な形でアレンジされて登場する。そこで今回、ドラマシリーズで描かれた敏腕マネージャー=天才軍師、孔明のトンデモ作戦の数々を振り返っていきたい。
■石兵八陣
第1話の冒頭、中国の五丈原でその命を全うしたはずの孔明がハロウィンで盛り上がる現代の渋谷へと転生。ライブハウス「BBラウンジ」に迷い込んだ彼は、ステージで歌う英子の歌声に魅了されてしまう。孔明はBBラウンジのアルバイトとして働き始め、歌手を目指す英子の夢を叶えることを決意する。
英子の軍師となった孔明が、早速披露した計略が「石兵八陣」だ。関羽を討ち取られたことに報復するため、呉に攻め入る劉備率いる蜀軍が逆襲にあって大敗。この事態を予測していた孔明は、退路にいくつもの高く積み上げた石を設置しておき、幻術を使って追撃してきた敵将、陸遜をその石の陣から出られなくしたという。
この計略は三国志演義に登場する架空の陣であり、BBラウンジのオーナーで大の三国志ファンである小林(森山未來)も「エンタメとしてはおもしろいけど、さすがに無理がある」という見解をするが、当の孔明は「地形、気象、人の心を読めば可能かと」と自信たっぷり。SNSのフォロワーが10万人のクラブシンガー、ミア西表(菅原小春)の当て馬としてイベントに出演することになった英子。ここで孔明は、クラブの複雑な施設構造や大量のスモーク、照明などを利用して来場客の方向感覚を麻痺させてしまう。観客が次々とやって来ては迷って出られなくなり、ついに英子が歌うフロアを満員にしてしまうのだった。
■無中生有
第2話で英子を売りだすべく、フェスへの出演をブッキングしてきた孔明。しかし、割り当てられたステージは一番端で、その向かいにある見晴らしのいいステージでは人気インディーズバンド、JET JACKETが同じ時間帯でパフォーマンスすることになっていた。このままでは英子のステージには誰も集まらない。そこで孔明は「兵法三十六計」の第七計「無中生有」を実行する。
「無中生有」を簡単に説明すると、“無いもの”をまるで“有る”様に思わせ、敵を欺くというもの。まずはJET JACKETのギターボーカル、RYO(森崎ウィン)の目の前で機材トラブルを演出する。英子が歌えなくなったと思い込んだRYOたちが演奏をするなか、いきなりスピーカーから爆音を流して虚を突き、すかさず彼らのファンのなかに忍ばせた間者の誘導によって観客の気を逸らしてしまう。さらに、フェス当日の高温によって蜃気楼を発生させ、屋台に並んでいる人たちが英子のステージに群がっていると錯覚させることで、JET JACKETを見に来た観客を一気に引き込んでみせた。
■調虎離山
フェスで結果を残した英子は、いきなり超大型音楽フェス「サマーソニア」の新人枠への出演をオファーされる。しかし、出演するにはほかの候補者を押しのけ、いち早くSNSでの1投稿で“10万イイネ”を獲得するという条件をクリアしなければならない。これに対し、まず孔明は強力なラッパーを仲間にすることを提案する。第3話と第4話では、かつて天才ラッパーとして名を馳せたKABE太人(宮世琉弥)を「兵法三十六計」の第十五計「調虎離山」を用いて調略していく様が描かれた。
「調虎離山」とは、虎をおびき出して山から引き離すことを意味する。つまり敵をこちら側に有利な地に誘導して戦うという戦法だ。MCバトルで3連覇した実力者であるKABE太人だが、そのことが大きなプレッシャーとなり、ストレスから胃潰瘍も患って表舞台から姿を消していた。孔明がそんな彼のくすぶった気持ちを焚きつける。徹底した身辺調査、先輩ラッパー、赤兎馬カンフー(ELLY)の協力も得ながらKABE太人をBBラウンジのステージに引き上げ、MCバトルを持ちかける。互いにディスり合うなか、しだいにラップを始めた頃の情熱を取り戻していくKABE太人。勝敗は彼に軍配が上がったが、英子とタッグを組ませるというミッションはクリアした。
■錦嚢の計
孔明の計略によってKABE太人が仲間になった。しかし、それでも10万イイネを獲得するのはまだまだ厳しい。次に孔明が取った策は、英子を世界的なアレンジャー、スティーブ・キド(長岡亮介)のもとへ送り、温めていたオリジナル楽曲を完成させるように指示することだった。第4話&第5話では、歌手としてさらなる進化を求められた英子の苦悩が描かれるが、孔明は直接的なサポートは行わず、代わりに3つの巾着を渡して「本当に困った時に開けるように」と伝える。
こちらも三国志演義に登場する故事「錦嚢の計」が基になっている。劉備に孫権の妹、孫尚香との縁談が持ち上がり、呉に招かれることに。しかしこれは、劉備を暗殺するための罠だった。これを察知していた孔明は同行した趙雲に3つの策を授けることで危機を回避させ、無事に主君を帰還させただけでなく、孫尚香との正式な婚姻も結ばせた。
英子の巾着に入っていたのは、「特大お得プリプリンを2つ買うべし」と書かれたメモ、路上ライブの許可証、ドリンクの無料券2枚といったもの。一見するとなにを意味するかわからない英子だったが、孔明の算段が見事にハマり、彼女のレコーディングにスティーブ・キドを向き合わせるきっかけを作り、正体を隠して路上ミュージシャンをしていた、仮面アイドルユニット「AZALEA」のベースボーカル、久遠七海(八木莉可子)との交流も深まることにつながっていく。
■草船借箭の計
サマーソニア出場枠をめぐる一番のライバルであるAZALEAには、所属アーティストを売るためなら手段を問わないプロデューサーの唐澤(和田聰宏)が付いていた。唐澤がゲリラライブを計画しているという情報を入手した孔明は、AZALEAのファンを利用して大量のイイネを奪取する一計を案じる。
AZALEAに扮した英子とKABE太人がゲリラライブを行うことで、まずは勘違いした大勢のファンからのイイネを獲得。その後、本物も登場して偽物であることがバレて大バッシングを受けてしまうが、KABE太人のラップが現在の活動に思うところのあった七海らの動揺を誘い、さらに新曲「DREAMER」を完成させた英子の圧倒的パフォーマンスによる相乗効果で会場の空気を完全に自分たちのものにしていく。ついに10万イイネに到達し、サマーソニア出演を確定させるのだった。
第6話でのAZALEAとの直接対決はドラマ前半のハイライト。ということもあってか、兵力で大きく劣る蜀・呉の連合軍が曹操率いる魏の大軍を打ち破った「赤壁の戦い」における「草船借箭の計」が用いられた。呉の大都督、周瑜は孔明の才覚を危険視しており、「10日で10万本の矢を用意しろ」と無理難題を押し付け、できなければ彼を処刑しようとする。これに「3日で十分」と返す孔明。3日後の未明、濃霧のなかを大勢の兵に見立てた藁人形を乗せて船で曹操陣営へと向かい、これを敵襲と勘違いした魏軍が次々と矢を放ったことでまんまと10万本の矢を入手することに成功する。本作では矢がイイネに置き換えられ、孔明の現世でも変わらぬ天才軍師っぷりが発揮された。
■苦肉の計
サマーソニア開催が間近に迫るなか、小林に恨みを持つスーパーアーティスト、前園ケイジ(関口メンディー)の妨害工作に遭い、英子の出演が危ぶまれる事態に陥ってしまう。第9話、最終話となる第10話ではケイジとの攻防を孔明が勝ち切り、英子を大舞台に立たせるまでが描かれた。
英子たちを瓦解させるため、ケイジはKABE太人を引き抜こうとする。孔明とKABE太人、それぞれがケイジとつながっていると疑心暗鬼に陥らせることで、2人は対立して袂を分かつことに。しかし、もちろん孔明はこの展開を予測済み。あえて策略に乗り、ケイジに協力しているラッパーのダイナー(渡辺大知)の前で激しく罵り合うところを見せ、作戦がうまくいったと思い込ませることに成功。スパイとしてKABE太人をケイジ陣営に潜り込ませた。
こちらも赤壁の戦いのエピソードからの引用なのだが、孔明ではなく周瑜が行った「苦肉の計」が基になっている。曹操の大船団を打ち破るため火計を用いることになるが、正攻法で実践するのは不可能。そこで老将の黄蓋が偽装投降することで魏軍に入り込み、敵船に火を放とうとする。その際、あえて黄蓋が周瑜に逆らってみせ、背中の肉が裂けるほどの棒打ちの刑にさらされるという芝居を打つことで、疑い深い曹操を信じ込ませたという。
■東南の風
しかし、これだけでは火計は成功しない。風向きは逆風であり、このまま火を放っても自軍に燃え広がってしまうからだ。「三国志演義」ではここで、孔明が祈祷によって風を逆向きにし、“東南の風”を吹かせるという名場面がある。これが本作では、ケイジのゴーストライターをしていたベースの南房(休日課長)とギターの東山(石崎ひゅーい)によるロックデュオ「イースト・サウス(=東南)」を仲間に引き入れるという形でアレンジ。不満を抱きながらも裏方に徹していた2人のミュージシャン魂を焚きつけることで、大逆転を導いた。
■『パリピ孔明 THE MOVIE』では孔明の前に司馬懿の末裔が立ちはだかる!?
このほか「パリピ孔明」には、重用していた配下の馬謖が命令に背いて大敗したため、規律を遵守して彼を処刑した「泣いて馬謖を斬る」、腕に毒矢を受けた関羽が麻酔もせずに骨を削る手術を受けたエピソードなど、様々な三国志ネタが散りばめられていた。最新作『パリピ孔明 THE MOVIE』では、「天下三分の計」を思わせる3大レーベルが競い合う史上最大の音楽バトルフェス「MUSIC BATTLE AWARDS 2025」が開催されることになり、英子も孔明を伴って参加することに。しかし2人の前に、孔明の最大のライバル、司馬懿の末裔である司馬潤(神尾楓珠)&shin(詩羽)の兄妹が立ちはだかる。
はたして、劇場版でも孔明の天才的な計略は発揮されるのか?多彩なアーティストたちのパフォーマンスと共に期待してほしい。
文/平尾嘉浩
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