サッカー日本代表で輝く4人のアタッカー 中村敬斗の決定力を生かした「ダブル偽9番システム」は可能か

photo by web Sportiva

サッカー日本代表で輝く4人のアタッカー 中村敬斗の決定力を生かした「ダブル偽9番システム」は可能か

3月30日(日) 22:00

提供:
西部謙司が考察サッカースターのセオリー

第42回中村敬斗

日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

今回は、スタッド・ランスと日本代表でプレーする左ウイング、中村敬斗をピックアップ。優れたアタッカーが多い日本代表のなかでも、際立った特徴があります。

サッカー日本代表のアタッカー陣のなかで抜群の決定力を持つ中村敬斗photo by Kishiku Torao

サッカー日本代表のアタッカー陣のなかで抜群の決定力を持つ中村敬斗photo by Kishiku Torao





【4本の槍のひとり】 日本代表は4本の槍を持っている。右に伊東純也、久保建英。左は三笘薫、中村敬斗。サイドから仕掛けてチャンスを作り、シュートを放つ。それぞれクラブチームでもその威力を発揮していて、日本代表のサイドアタックは強力な武器になっている。

ただし、この4人を同時起用するのはW杯を考えると現実的ではない。アジア予選のオーストラリア戦では、1点リードされていた後半に三笘をシャドーへ移動させて左ウイングバックに中村を投入。ダブルウイングで半ば強引に同点にした。

右も久保と伊東のコンビでこちらもダブルウイングなのだが、伊東が外、久保が中で、左の三笘&中村のような交互に外に出て仕掛けていくダブルウイング感はなかった。ただ、いずれにしてもW杯でこれがメインシステムになるとは考えにくい。どうしても得点がほしい場合のオプションだろう。

せっかくの4本の槍を並べられないのはもったいない気もするが、逆にそれが日本の武器になるかもしれない。

4人はそれぞれ特徴が違う。しかもいずれも極めてクオリティが高い。例えば、久保のドリブル突破が研究されて威力を発揮できなくても、途中で伊東と交代すれば相手は対応に戸惑うだろう。繊細なタッチ、左利きでカットイン型の久保から、豪快な縦突破とロングクロスの伊東ではまるでタイプが違うからだ。同じことは左の三笘、中村にも言えて、さらに堂安律、前田大然もまた特徴が違う。

W杯はノックアウトステージに入れば延長戦がある。パワーが落ちてきたところでカーレースのタイヤ交換のように交代を使えるのはアドバンテージだ。普通は先発メンバーが交代すれば質は落ちるものだが、日本の場合はそれがない。シンプルにパワーアップし、さらに違うタイプに代わるのは相手にとってかなりやっかいであるはずだ。

2026年W杯は本大会参加国が48チームに拡大したため、ノックアウトステージはラウンド32からになる。日本がベスト8入りするには、ノックアウトステージで2度勝たなければならないわけで、優勝するにはこれまでより1試合多く戦うことになる。延長やPK戦の連続になる可能性は十分あり、その時にタイヤ交換方式は疲弊を防ぐ効果を発揮するのではないか。

【抜群の決定力】 アジア予選突破を決めた後のサウジアラビア戦、日本は予選で初めて無得点に終わった。三笘は負傷でベンチ外。ウイングバックの左は中村が先発した。右は今予選の売りだったアタッカーではなくDFの菅原由勢。

立ち上がりから中村は対面のサイドバック(SB)を翻弄、次々とチャンスを作り出す。右も菅原の際どいクロス、久保の変幻自在のドリブルで圧倒していた。しかしゴールは決まらず、後半には中村が抑えられるように。対面のDFが交代し警戒が強くなっていたこともあるが、もともと5バックだったことが大きいかもしれない。

5バックは当然横へのスライドは速くなり、中村はほとんどタッチライン際でボールを受けていた。中村は縦への突破も持っているが、得意なのは右足アウトを使ったカットインだ。カットインからのシュート、パスは絶品。

しかし、5バックの相手DFがより早くアプローチできるのでスペースがタッチライン際しかなく、そこから独特の深い切り返しのカットインを使ってもシュートやラストパスを狙うにはゴールまで遠すぎた。かわしても後方へ押し戻される格好になってしまうので、ゴールに直結するプレーにならなかった。

もう少し内側でプレーするか、対面のDFにつっかけていける距離があれば、中村の長所は発揮できただろう。

中村はおそらく日本代表のなかで最もシュートがうまい。ゴール前での冷静さ、裏へ出るランニングのうまさ、クロスボールにタイミングよく合わせられるポジショニングが優れていて、何と言ってもキックが正確なのだ。足のスイートスポットでボールをとらえて振りすぎない。力まずに強いシュートを飛ばす。GKが防げないコースへ蹴る能力がある。

キックの精度とともに、おそらく位置感覚が優れているのだと思う。

バスケットボールの選手は、振り向きざまにシュートして得点することが普通にできる。シュート自体は手を使うので精度は期待できるのだが、コートの狭さもあって自分と目標の位置関係を感覚的に把握できるようだ。

サッカーでもよほど余裕がある場合以外は、しっかりゴールを見てシュートすることはない。位置関係を感覚的に把握する能力が必要である。

中村はドリブルでシュートコースが空いた瞬間に蹴って、正確に隅へ入れる。ボレーやダイレクトシュートでも、瞬時にGKが防げないコースへシュートする。国際Aマッチ6試合連続ゴールが示すように、決定力が図抜けている。

【ダブル偽9番システムはちょっと見てみたい】 左ウイングとしてのドリブルもすばらしい。ボールの運び方がしなやかで、相手につっかけていきながら一瞬で逆をとる。右足アウトでのカットインが得意だが、カットインとみせて縦へ振りきる抜き方もあり、さらに深い切り返しも持っている。

ボールタッチの巧みさだけでなく身体操作に優れていて、抜ききらなくてもコースが空けば正確なキックでシュートを決め、決定的なパスを送ることができる。

三笘も縦とカットインの両方を持っているが、縦にぶっちぎるスピードが脅威で、それをちらつかせながらカットインを使う。一方、中村はカットインの脅威をみせて縦を使う。似ているけれどもメインの武器は逆。このふたりに交互に仕掛けられたら、守る側は堪ったものではないだろう。

ただ、中村と三笘のダブルウイングは基本的に3バックでなければ使えない。対戦相手に強力な右ウイングがいる場合、ボール保持で日本が劣勢になれば中村や三笘が対峙しなければならず、そこが弱点になってしまう危険がある。3バックでダブルウイングにするにしても、得点がどうしてもほしいケースに限定される。

鋭い槍を4本持っていても同時には使えない。ただ、まったく無理かと言えばそうではない。中村の得点力を生かしてトップ下に配置すれば、槍は3本使える。さらに久保をトップ下、中村をセンターフォワードに置けば、4本勢ぞろいは可能なのだ。これならば守備型のSBを使った4バックを維持したまま、4本の槍が並ぶ。

ただし、これには条件があってポストプレーヤーを必要としない戦い方ができなければならない。つまり、ボールを保持してロングボールに頼らずに攻め込めること。

パリ・サンジェルマンはウスマン・デンベレ、ブラッドリー・バルコラ、フビチャ・クバラツヘリアのウイング3人を並べている。突破も得点もできる3本の槍だ。ロングボールをほぼ使わずに押し込める保持力があるから、可能になっている。フランス代表はデンベレ、バルコラにキリアン・エムバペ、マイケル・オリーセの槍4本だ。

ダブル偽9番システムの実現性は低いかもしれないが、久保、伊東、三笘、中村が交互に左右から仕掛けていく壮観は、ちょっと見てみたい誘惑にかられる。

連載一覧>>

【関連記事】
◆【5年後は?】サッカー日本代表 2030年のメンバー予想【フォーメーション】
◆【注目記事】サッカー日本代表に立ちはだかる壁は「強豪国」だけではない。W杯での真のライバルは?
◆【分析】サッカー日本代表、ワールドカップ本大会の見通しを検証 ベスト8に進出できるか?
◆【水沼貴史選定】サッカー日本代表を進化させたドリブラーベスト5 「なぜ取られない」「緩急が独特すぎる」
◆【写真&プレー考察】エムバペ、ハーランド、ベリンガム…ワールドサッカー「新」スター名鑑
Sportiva

新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ