『西洋絵画、どこから見るか?』展示レポート鑑賞のヒントを手掛かりに600年にわたる西洋絵画の歴史をたどる

左:マリー=ガブリエル・カペ《自画像》1783年頃 国立西洋美術館蔵右:マリー=ギユミーヌ・ブノワ《婦人の肖像》1799年頃 サンディエゴ美術館蔵

『西洋絵画、どこから見るか?』展示レポート鑑賞のヒントを手掛かりに600年にわたる西洋絵画の歴史をたどる

3月25日(火) 3:30

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東京・上野の国立西洋美術館で、6月8日(日) まで『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館』展が開催されている。アメリカのサンディエゴ美術館と国立西洋美術館の所蔵品をあわせ、ルネサンスから19世紀末までの西洋絵画の歴史を「どこから見るか」のヒントとともにたどることができる展覧会だ。

カリフォルニア州最南端の都市、サンディエゴにあるサンディエゴ美術館は、その昔、サンディエゴの街がスペインからの入植者によって築かれたこともあり、初期ルネサンス絵画やスペイン17世紀絵画などのコレクションが充実していることで知られている。同展は、そのサンディエゴ美術館と国立西洋美術館の共同企画。両館が所蔵する作品88点を組み合わせ、36の小テーマにわけて展示し、美術の歴史や魅力を深堀りしていくというもの。なお、サンディエゴ美術館からの出品作49点はすべて日本初公開となる。

第2章フランシスコ・デ・スルバランの作品の展示風景

展覧会は4章構成。第一章「ルネサンス」では、初期ルネサンスの代表的画家ジョットから、北方ルネサンスの画家たちまでを紹介する。

冒頭に展示されるのは日本ではなかなか展示されることがないジョットやフラ・アンジェリコなど、初期ルネサンスの画家たちだ。同展では作品が成立した背景や歴史などもあわせてわかりやすくキャプションで表示、理解を深める工夫がほどこされている。ジョットやフラ・アンジェリコらの作品の形が四角形ではなく、三角形や半円などであるのは、設置された教会の建付けに合わせたものであるから、という理由も細やかに解説されている。作品を鑑賞し、解説を読み、あらためて各作品を鑑賞してみよう。

左:フラ・アンジェリコ《聖母子と聖人たち》1411-13年頃 サンディエゴ美術館蔵中央:ルカ・シニョレッリ《聖母戴冠》1508年 サンディエゴ美術館蔵右:ジョット《父なる神と天使》1328〜35年頃 サンディエゴ美術館蔵

ヒエロニムス・ボス《キリストの捕縛》など、北方ルネサンス絵画も展示されている。キリストの周りを取り囲むものたちの表情やポーズは強いインパクトを与えている。

左:ヨース・ファン・クレーフェ《三連祭壇画:キリスト磔刑》1525 年 国立西洋美術館右: ヒエロニムス・ボス《キリストの捕縛》1515年 サンディエゴ美術館蔵 ヒエロニムス・ボス《キリストの捕縛》1515年 サンディエゴ美術館蔵

第2章「バロック」は、17世紀に隆盛を極めたバロック絵画を紹介。サンディエゴ美術館の充実したコレクションが光る。

そのなかでも見どころは、17世紀初頭のスペインで流行した「ボデゴン」と呼ばれる静物画だ。世界各地にボデゴンを所蔵する美術館はあるが、ボデゴンを初めに描いたとされるフアン・サンチェス・コターンの静物画は、現在のところ6点しか現存していない。その6点のうち最良とされているのが、今回来日した《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》だ。吊り下げられたマルメロやキャベツには影がなく、右側のきゅうりには長い影が伸びている。非常にミステリアスな印象を与える画家の演出だ。

フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》 1602年 サンディエゴ美術館蔵

スルバランが描く頭の上にうっすらと光輪が光る愛らしい仔羊や、ドラマティックな構図のエル・グレコの作品など、スペイン絵画の巨匠たちの作品も多く展示されている。

フランシスコ・デ・スルバラン《神の仔羊》1635〜40年頃 サンディエゴ美術館蔵 左からエル・グレコ《悔悛する聖ペテロ》1590〜95年頃 サンディエゴ美術館蔵、エル・グレコ《十字架のキリスト》1610〜14年頃 国立西洋美術館蔵、ペドロ・デ・オレンテ《聖母被昇天》1620〜25年頃 国立西洋美術館蔵

第3章「18世紀」では、風景画や肖像画、風俗画などさまざまな発展を見せた18世紀の美術を取り上げる。なかでもマリー=ガブリエル・カペ《自画像》とマリー=ギュミーヌ・ブノワの《婦人の肖像》の華やかな共演は見どころのひとつだ。18世紀のフランスは女性芸術家たちも活躍、カペもブノワも1791年の官展(サロン)に女性で初めて出品した画家として知られている。

左:マリー=ガブリエル・カペ《自画像》1783年頃 国立西洋美術館蔵右:マリー=ギユミーヌ・ブノワ《婦人の肖像》1799年頃 サンディエゴ美術館蔵

18世紀のイギリスやアルプス以北の国々では「グランド・ツアー」と呼ばれる大旅行が流行した。文化的教養を身につけるために数ヶ月かけてイタリアへ旅行した市民たちは、土産として当地の風景画を持ち帰るようになり、様々な画家たちがヴェネツィアやローマの風景を描くようになっていたという。

左:ベルナルド・ベロット《ヴェネツィア、サン・マルコ湾から望むモーロ岸壁》1740年頃サンディエゴ美術館蔵右:フランチェスコ・グアルディ《南側から望むカナル・グランデとリアルト橋》1775年頃サンディエゴ美術館蔵 左:ユベール・ロベール《モンテ・カヴァッロの巨像と聖堂の見える空想のローマ景観》1786年国立西洋美術館蔵 右:ユベール・ロベール《マルクス・アウレリウス騎馬像、トラヤヌス記念柱、神殿の見える空想のローマ景観》1786年国立西洋美術館蔵

そして第4章「19世紀」では、写実主義やロマン主義、印象派などさまざまな美術運動が起こり、絵画の世界に大変革が起こった19世紀の美術に着目する。サンディエゴ美術館、国立西洋美術館双方が所蔵する画家、スペイン人画家ホアキン・ソローリャは、スペインの写実絵画の伝統を受け継ぎながら、かつては決して描かれることのなかった日常のなにげない生活や風俗をモチーフに描いている。

左:ホアキン・ソローリャ《ラ・グランハのマリア》1907年 サンディエゴ美術館蔵 中:ホアキン・ソローリャ《バレンシアの海辺》1908年 サンディエゴ美術館蔵 右:ホアキン・ソローリャ《水飲み壺》1904年 国立西洋美術館蔵

かつては女神やニンフなどの姿を借り、理想的な姿ばかりが描かれていた裸婦像も、ドガやロートレックをはじめ19世紀上半の画家たちは現実に即し、自らの視点で描くようになっていった。

左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《うずくまる赤毛の裸婦》1897年 サンディエゴ美術館蔵 右:エドガー・ドガ《背中を拭く女》1888〜92年 国立西洋美術館蔵

また、今回はさらにサンディエゴ美術館から5点の作品を借用し、常設展示室にて特別展示されている。5点の作品だけでなく、隣り合う常設作品の新しい魅力も見えてくるだろう。本展を見終わったら、ぜひ常設展示室にも足を運ぼう。

ソフォニスバ・アングィッソーラ《スペイン王子の肖像》1573年サンディエゴ美術館蔵

西洋絵画をどう見るか、どう楽しむかを同展で知れば、これからほかの展覧会に足を運んだときにも、より楽しめるようになるはずだ。さまざまな発見のある展覧会、ぜひ見ておきたい。

取材・文:浦島茂世

★『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派までサンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館』展示風景の動画はこちら

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<開催概要>
『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派までサンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館』

2025年3月11日(火)~6月8日(日)、国立西洋美術館にて開催

公式サイト:
https://art.nikkei.com/dokomiru/

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2455809

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