【「レイブンズ」評論】孤高の写真家の生き様を通じて、視ることと撮ることを問い直す目論み

「レイブンズ」(3月28日公開)

【「レイブンズ」評論】孤高の写真家の生き様を通じて、視ることと撮ることを問い直す目論み

3月23日(日) 0:00

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いきなり結論めいたことを書くと、それはきっと心の動きをめぐる何かだ。視る対象に心を動かされ、撮ることでそうした心の状態を表そうとする。作品を観る者は、作り手の心象に触れ、感情を揺さぶられる。それはあたかも、作品を介して心の振動が人から人へ伝わっていくかのよう。孤高の写真家・深瀬昌久の創作と愛と闇に満ちた生き様を描く「レイブンズ」に、そんなことを考えさせられる。

【動画】「レイブンズ」予告編

英国マンチェスター出身のマーク・ギル監督は、大手レーベルと契約してプロミュージシャンになったのち映像作家に転向した変わり種。ザ・スミスのモリッシーがバンドを組むまでの日々を綴る「イングランド・イズ・マインモリッシー、はじまりの物語」で長編映画デビューを果たし、長編第2作で再び実在のアーティストを題材に選んだ。

映画のタイトルは、深瀬が数年にわたりカラスを執拗に撮り続けた連作で、内外での写真展により国際的な名声を得るきっかけにもなった代表作「烏」(英題:Ravens)に由来する。脚本も書いたギル監督は、寡黙な写真家の内面を掘り下げるギミックとして、深瀬にしか見えない“カラス人間=ツクヨミ”を配置。家父長制の権化のような父親との衝突、創作にまつわる苦悩、キャリアの転機といった要所要所で現れるツクヨミと対話させ、波乱に満ちた生涯で深瀬が何を感じ、思い、追い求めたのかに迫ろうとする。また、ホセ・ルイス・フェラーが特殊メイクで演じるツクヨミが英語で話すことにより、高度成長期以降の日本特有の社会的・文化的状況において独自の表現を模索した深瀬の作品群と生き様を、異文化の視点から相対化して解釈する効果も生まれた。

主演は浅野忠信。ギル監督は「殺し屋1」を観て以来のファンで、深瀬役には浅野しか考えられなかったという。俳優業以外に音楽活動やドローイング制作も行う多才なアーティストである浅野は期待に応え、才気と狂気、創造と破壊、愛情と利己といった矛盾をはらむキャラクターを、陽と陰の表情を巧みに使い分けて印象的に体現した。深瀬の妻で初期の重要なモチーフでもあった鰐部洋子を演じたのは瀧内公美。記号的なミューズにとどまらず、根深い男性優位社会にあらがい自分らしくあろうとする女性の凛とした魅力を、優美かつパワフルに表現している。写真家の伝記であると同時に普遍的なラブストーリーであり、表現者と対象、創作欲と愛情、理想と現実といった要素の関係やバランスについて考えさせるのも脚本の目論みだろう。

音楽畑出身のギル監督による選曲センスも、描かれる場面にふさわしい時代感と彩りを添えている。邦楽ではグループサウンズにシティ・ポップにムード歌謡。ニューヨークのシーンでのBGMはヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコの「ユア・ミラー」。とりわけ完璧なはまり具合なのが、ラストからエンドロールにかけて流れるザ・キュアーの「ピクチャーズ・オブ・ユー」だ。1990年に発表され根強い人気を誇る名曲だが、「君の写真をずっと見つめてたけれど君の心は手に入らなかった」といった一節も歌詞に含まれ、この映画のために書き下ろされたのではと錯覚してしまうほど。深瀬と洋子の物語は悲劇だったかもしれないが、二人の心は永遠に写真に刻み込まれた。そして、深瀬の創作と愛を見つめるように撮影され完成した「レイブンズ」もまた、ながく観客の心を揺さぶり続けることだろう。

(高森郁哉)

【作品情報】
レイブンズ

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