2025年2月28日より全国公開された「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」。「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」や「フォードvsフェラーリ」を手がけたジェームズ・マンゴールド監督が、主演にティモシー・シャラメを迎え、若き日のボブ・ディランの栄光と苦悩を描いた本作。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
【写真】若き日のボブ・ディランを演じたティモシー・シャラメ
【ストーリー】
1961年、故郷のミネソタを後にしたボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)は、フォーク・ギター1本だけを抱え、ヒッチハイクでニューヨークへ降り立った。
米ソ冷戦や公民権運動から若者文化の興隆など、社会・文化が大きく変わろうとする激動の時代のなか、何者でもなかった19歳の青年ディランは、魅力的なパフォーマンスと数々のオリジナルソングで一気にスターダムを駆け上がっていく。
“フォーク界のプリンス”“若者の代弁者”として時代の寵児となっていくディランだったが、栄光の日々を過ごす裏で、天才であるが故の苦悩を抱えていた。
高まる名声とは裏腹に、周囲からの期待と本来の自分との軋轢に葛藤するディラン。
そして1965年7月25日、5日前に発表したばかりの新曲を携えてディランが向かったのはニューポート・フォークフェスティバルの舞台。
彼の手にはエレクトリック・ギターが握られていた……。
■すべての歌唱シーンを実際に歌ったティモシー・シャラメの完璧な演技に魅了される!
伝説のミュージシャンと呼ばれるボブ・ディラン。「風に吹かれて」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」などは誰もが知る名曲だ。さらに彼は、2016年にノーベル文学賞を受賞している。
そんなディランを演じたのは、「DUNE/デューン 砂の惑星」「デューン 砂の惑星 PART2」「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」など、話題作の主演が続く世界的人気俳優のティモシー・シャラメ。
実在するミュージシャンを演じるのは相当なプレッシャーだったと思うが、実はディラン本人は本作について「主演のティミー(ティモシー)は素晴らしい俳優だから真実味のある私を演じてくれるだろう」とSNSでコメントしている。
ちなみにティモシーは、日本武道館でのディランの公演がお気に入り(映像資料で観たと思われる)だそう。
ディラン役のオファーを引き受けたティモシーは、5年間にわたってボイストレーニング、ギター、ハーモニカの練習に励み、ディランのパフォーマンスシーンはすべて自身の歌声と演奏で演じきった(事前収録ではなく現場で実際に歌っているそう)。
ティモシーはほかの作品でも歌声を披露しているが、正直ここまで完璧にディランの曲を歌えるとは思っていなかった。ところが本作のパフォーマンスシーンを観た瞬間に、ボブ・ディランの歌い方や話し方を完璧に表現していることに驚き、2時間21分圧倒されっぱなしだった。
もともと筆者はティモシーの大ファンで、「君の名前で僕を呼んで」や「ビューティフル・ボーイ」、「ボーンズ アンド オール」など好きな出演作はたくさんある。そして彼が演じてきた役はどれもこれも最高に魅力的だったが、なかでも本作は、“こんなティモシー・シャラメが見たかった!”が詰まっていたので、ジェームズ・マンゴールド監督には大感謝である。
本作では、ディランがスターダムを駆け上がっていく姿や苦悩する姿を描く一方で、ディランと二人の女性とのロマンスも描かれる。
教会でディランと出会い、彼と恋に落ちるシルヴィ・ルッソ(ディランの当時の実在の恋人スージー・ロトロがモデル)を演じたのはエル・ファニング。エルはティモシーと「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」という映画でも共演しており、本作の撮影現場で仲良く雑談をするティモシーとエルのオフショットがネットに上がっていた。
そしてもう一人の女性、フォークシンガーのジョーン・バエズを演じたのはモニカ・バルバロ。モニカは「トップガン マーヴェリック」で女性エリートパイロット役を演じて大きな話題を集めた俳優だ。彼女もまた実際に劇中で素敵な歌声を披露している。
そのほかのキャストも豪華で、人気シンガーでディランの才能を見抜いたピート・シーガー役をエドワード・ノートン、カントリー界の異端児ジョニー・キャッシュ役をボイド・ホルブルック、ディランが敬愛するフォークシンガーのウディ・ガスリー役をスクート・マクネイリー、音楽マネージャーのアルバート・グロスマン役をダン・フォグラーが担うなど、一人ひとりの見どころを紹介したいぐらい個性豊かで、それぞれ好きなシーンもたくさんあった。
なかでも、ピートを演じたエドワードとディランを演じたティモシーがギター(ピートはバンジョー)をかき鳴らして一緒に歌うシーンは短いながらも印象深く、ここだけでもお金を払って観る価値があるのでぜひ期待していてほしい。
■“頭の中は音楽のことでいっぱい”なディランの真っ直ぐさが胸を打つ
本作でまず印象的だったのは、冒頭でディランが憧れのウディ・ガスリーと初対面を果たしたシーン。ディランがガスリーを敬愛するのとは違うが、自分に置き換えたら“推し”の居場所を突き止め、面識がないにもかかわらず会いに行ってしまうというものすごい行動力である。ガスリーに挨拶をすると、ディランはガスリーのために作った曲を弾き語りする。このシーンをどう捉えるかは人それぞれだが、個人的にはディランの“ガスリーに会いたくてニューヨークまで来ちゃった”(会えたのはニュージャージー州だったけど)という少しクレイジーな部分に心を掴まれた。
次に印象的だったのは、キューバ危機で核戦争の恐怖にさらされるなか、ディランがライブハウスへ行き歌を披露するシーン。“こんな非常事態なのにライブハウスで歌っちゃうんだ!?”と驚かされ、同時に“彼は常に音楽のことしか頭にないんだな…すごいな”と、ディランの音楽に対する真っ直ぐな気持ちに胸を打たれた。
そしてもう一つ印象に残ったのは、フェスでバエズとディランが歌うシーン。ステージで歌声を重ねる二人を見たシルヴィが、いても立ってもいられず会場から去っていく姿が切なかった…(ちなみにバエズとディランは深い仲になっている)。
試写ではディラン(ティモシー)の歌声に圧倒されながらも物語(と字幕)を追うのに必死だったため、公開初日にIMAXで再度鑑賞し、タワーレコードに立ち寄ってサウンドトラックも購入。サントラを毎日聴くほどティモシーの歌声にどハマりしてしまった。
IMAXのどデカいスクリーンでは、劇中のディランがニューポート・フォークフェスティバルで着ていた緑色の水玉のシャツの襟の形や素材、ディランの長く伸びた爪(ギターを弾くために伸ばしている)、ディランの瞳の表情の変化などがよく見えて大満足だった。
ぜひ音響のいい映画館で、ティモシーが歌うディランの名曲を存分に味わっていただきたい。
文=奥村百恵
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